230話 事情通

 ちょうど、差し込む日の光が橙色に変わり男も、うな垂れるように壁に背を預け話を続ける。


「ま、今日は俺の番で終わりだから安心しなよ。俺の名前はアーバン・ハールレイだ、つい一月前に捕まった旅人だよ」

「私は、ランプ・レモネード、この子が私の妹のルタ」

「よろしくお願いします」


 出来るだけ、休める時に休んだ方がいいというアーバンの助言を受け、ランプとルタもアーバン同様に体力を回復させる。

 ルタはずっと起きていて、緊張感も解けその反動で早く寝てしまい、ここまで気絶していたランプは眠気は無かったので目を軽く閉じながら寝っ転がっていた。


「ここから抜け出そうとはしなかったのですか?」


 一月も前からいるアーバンにランプは聞くと、ふっと笑い天井を見上げながら絶対に無理だと断定する。


「このフレイス連邦国は、人間とは違って様々な種族がいる。それが相当厄介なのよ」

「人間以外の種族と言ってもそれほど変わるものなのですか?」

「当然、人間にはない突出した能力が備わってるし、身体能力は人間の二倍以上、素で違う。鍛え方によってはもっと差がつく」

「そんなに……」


 ランプは人と他種族の違いに驚くのと同時に、その相手と戦って一月も生き残っているアーバンという男はただの旅人ではないと警戒する。

 そして、アーバンは出入り口の方に視線を移す。


「例えば、さっき俺が出て行く時に迎えに来たあいつ……」

「あの特殊な体をしていた……」


 アーバンに言われランプは、さっきアーバンを迎えに来た種族の姿を思い返す。

 輪っかのような輪郭しかない体で目や口などといった構造が一切見受けられない姿は人間から見れば異様としか捉えられなかった。

 ランプは混乱していたのでその時はあまり深くは考えなかったが、村を襲って来た種族もまた人間に近くはあったが異様な姿形出会ったのには間違いない。


「そ、あいつは視覚や聴覚など人間でいう五感が無い。だが、その代わりに自分の周りの空間を特殊な音波で感知するという能力があってそれもかなりの距離ある。もし、俺たちが動こうもんなら速攻で駆けつけてくる……さっき言った人間にはない種族特有の突出した能力よ」

「そんなに凄いんですね……」

「と言っても、その代わりに戦闘能力はそこまで高い訳では無い。まあ、この国内での事だけどな……」


 ランプとアーバンが話していると、ちょうど今話題に上がった種族が巡回にやってくる。

 アーバンは落ちていた小さな小石を投げると小さな音に対して小石が地面につく前に反応する。

 それを見てほらっとアーバンは苦笑いしながらアーバンはランプの方に顔を向ける。


「ランプは、明日からどうするつもりでいるんだ?このままだと妹さんも時間の問題だぞ」

「ーーっ」


 ランプは、言葉に詰まる。

 勿論、アーバンと話をしながら考えてはいたが、一向に最適解が見つからなかった。


「しゃーないよ、ランプが悪い訳じゃ無い。俺だって旅の仲間が二日前までいたがもうこの世にはいない」


 悲しげな表情でアーバンは言うが、ランプにとって今いる家族はルタしかいないので諦めるなど選択肢としてありえなかった。


「私は絶対に諦めません!」

「そうか、それなら頑張りな、俺も出来る限り手伝うよ。どうせ、次やったら死んじまうんだ……次に託したい」

「あ、ありがとうございます」


 明日に備え、出来る限りの事はしたいというランプの思いにアーバンも答え、夜の時間を全て使いアーバンの一月で得た知識を披露してもらった。


 この国は、様々な種族をまとめて異口同種(バルゼルガ)という。

 その中で、例えばアーバンを迎えに来た種族はカンター等と種族名を持っている。

 元々、人間を含め様々な種族の派閥があった国だったが、とある時期からその常識は覆された。

 国を統治していた人間の王が突如罪を犯しこの収容所に入れられ、一人の妖艶な女性に変わったのだ。


 そして、それを不審に思った者や反発した者は全員殺された。

 だが、その反発も王が突如変わったのにも関わらず、まるで最初から分かっていたような反応が多く、反発した者はそれほど多くはなかった。

 その日から突然、人間を問答無用で収容所送りにして、人間を排除する動きが強まり、たった一年で半数以上の人間がこの世を去って行った。


 ランプはアーバンの話を真剣に聞いてたらいつの間にか微小に日の光が差し込み、朝が来たことを知らせてくれる。


「色々話したい事はあるが、俺が今言ったことも聞いたものだったりが殆どだから百パーセント合ってるかどうかは分からんからそれは理解しておいてくれよ」

「それでも助かります。貴重な情報ありがとうございました」

「気にするな、それにしても話し込んで時間を使ってしまったが……運命の抽選時間だぜ」


 アーバンがそう言うと突如、檻と檻の間にある通路に透明なガラスのような物が並ぶ。

 そこには、闘技場のような場所が映し出されており、様々な種族が観客席に座り、闘技場の真ん中で一人の人間が縛られた状態で横たわっていた。

 そこにもう一人の人間が寄ってくる。

 ノロノロと動くその人は何かで縛られたり等と体の自由は奪われておらず、その代わりに片手に一本の剣を携えていた。

 それを横たわっている人間に突き刺し、そのまま刺された方の人間は百二十三秒後絶命する。


「これは……」

「毎日、一人の人間か罪人がこうやって殺されてその絶命までの時間で番号を決める、そして、その番号と同じかその番号を足したり引いたりしてランダムな番号を作ってその番号がついた檻にいる三名が今日の闘技場出場枠」


 淡々と言い放つアーバンとは打って変わってランプは握りこぶしを作り無言で地面に殴りつけ怒りをぶつける。


「怒る理由も分かるが、どうするんだ?」

「ーー嘘っ!」


 ランプとルタの檻の扉の前にアーバンを連れ出した種族、カンターが立っていた。


「ルタ・レモネードだったか、お前は夜、最後の試合だ。準備……しておけ」


 そう言うと、カンターは去って行った。

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