229話 謎の男

「お姉ちゃん、お姉ちゃん!!」

「ご、ごめんなさいルタ」


 嫌な記憶が夢に出てきたランプは最悪の寝起きだった。目元からは涙が溢れており、それを心配そうにルタが見守っていた。

 二人は小さな小汚い部屋(檻)に入れられており、ルタの片目の傷は癒えて命に別状はないがもう完全に視力を失っていた。


 檻は、格子状に出来ており横に立方体状のものがいくつも連なり、一つの檻に二人という風に収監されていた。

 人の力ではびくともせず、属性で攻撃したとしてもびくともしないという防御力を誇る。

 一本々、天恵を無効化する材質で出来ており、属性攻撃を一切通さない作りなので腕力のみで壊さないと出られない……


 疲れからか眠ってしまったランプも起き上がり周りを見渡す。

 人血、焼け焦げた肉や腐敗物など様々な匂いが融合し濃縮されたような香りが二人の鼻腔をくすぐる。

 たったそれだけで、胃から食べたものが逆流し始めようとするが、それよりも目に入った光景が異様そのものでその工程も途中で忘れてしまうほどだった。


 ランプ達のいる向かいにある同じような檻には様々な人が収監されており、皆傷だらけでいつ死んでもおかしくないような重症の者や死んでいるのにも関わらず放置されている者、心身おかしくなり自分の皮膚をかきむしっている者など狂気しかなかった。

 生きている者達も皆、目が死んでおり希望や欲望様々な上昇志向となるものが削られ、削がれ擦り切れ、うな垂れるように死を待っているだけだった。


「ここは……」

「また、新入りか」


 突如声をかけられたランプは横の檻にいるやせ細った男に視線を向ける。


「ここはどこなのですか?私達は!」

「……ここは、フレイス連邦国……人以外の種族で形成された国だ。人間はとことん差別され奴隷とさせられ。人にとっては地獄のような国だ」

「じ……ご……く……」

「ああ、ここはあいつらの食料となる人間の収監所、他にも労働力や娼婦用など様々な用途で檻を分けられている」


 ……最初の食料となるという言葉からランプの耳にはその男の声は殆ど届いていなかった。


「大丈夫だよ、君はどうやらお気に入りらしいからな一月は安泰だな」

「……お気に入り」

「そう、この国の位の高いやつらに食べられる、いわゆる高級食材……そんでもって、俺らみたいなのはただの食材ってことだよもって数日、君の隣の子もね」

「ルタが!なんで!?私とルタは姉妹なんですよ!!」

「お姉ちゃん……」


 ランプは自分が生き残り先にルタが死んでしまうかも知れないという事実に語気が荒くなる。


「姉妹か……俺にもその理由は分からない。ただ、人間がもっている天恵が影響しているんじゃねぇかって話はこないだまでお前さんの檻にいたやつは言ってた」

「天恵……属性ですか」

「そういうこと。ただ、本当かどうかは分からないがな」


 その男は、ゆっくりと立ち上がり扉の前に立つ。


「どうしたんですか?」

「うん?ああ、仕事さ」


 男がそう言った瞬間ーー

 扉の前に突然、輪郭線しか見えない異様な生物が姿を表す。四足獣のような形をしており、姿が見えるまでランプは気づかなかった。


「出ろ、時間だ」

「わかっていますよ」

「恐怖はないと言ったところか」

「どうせ、俺には守る者なんていないですからね」


 そう言いながら男はどこかへ連れていかれる。

 男がいなくなったことによって静寂に包まれ、嫌な空気が流れる。それを強く感じたのかルタはランプに寄り添う。


「大丈夫、ルタ。私が絶対守るから」


 ランプはルタを不恰好に抱きしめる。


**


「あっ……あがぁっ!!、痛でぇ!!くそっ!!」


 一時間後、連れて行かれた男は全身傷だらけで戻ってきた。アイテムボックスからポーションを取り出し傷を癒すが深い傷もあり、全てが治るわけではなかった。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ。くっそ、いたぶりやがって……」


 その男の様子にランプもルタも恐怖心を揺さぶられる。


「何が、あったのですか!」

「まあ、一種の拷問ってとこかな」

「拷問って……」

「君が思っている……拷問とは少し違う……はぁ、どうせだ!この際フレイス連邦国のウィルビル=トルマール強制収容所について教えてやる」


 男は傷を抑え笑いながらランプとルタに説明をしてくれる。

 今ルタとランプがいる場所は、フレイス連邦国のウィルビル=トルマール強制収容所という所で、フレイス連邦国で罪を犯した者や連れてこられた人間が収容されている。

 そのまま、人間は奴隷のように扱われただただ死ぬまで働かされ最後は食われる。

 ルタとランプが収監されているのは、食料としての人間がいる場所で、他の人とは少し違う。熟成させられフレイス連邦国の上流階級の奴らがより美味しく食べるため試行錯誤する場所だった。

 ランプはその食料の中でも高級食材として扱われており、上流階級のさらに上、王族レベルの人間に出されるレベルの食料に位置していた。


 そしてもう一つ、ウィルビル=トルマール強制収容所では毎日収容されている人間の中から無作為に三回選ばれ、その選ばれた人物はウィルビル=トルマール強制収容所にある大きな闘技場へ連れて行かれ見世物として決闘形式の戦闘が行われる。


 そこでは、人間とフレイス連邦国での罪人等が戦い、人間が勝てば解放、罪人が勝てば刑期が少なくなるというものだった。


「ま、昔運良く勝った人間がいたが、そいつが解放されることはなかった。途中で、三回勝てるまでって理不尽な変更があって二回戦へ突入したそうだ」

「そんな……」

「今回、俺は軽く弄ばれて負けた、相手が良かったからな……だが、俺ももう直ぐアイテムボックスの中身がなくなる。そうなったらおしまいよ」


 人間が持つアイテムボックスには例え収容されていようと簡単に介入することは出来ない。なので、人間にとってのタイムリミットは自分のアイテムボックスのアイテム量にかかっている。


「じゃあ!」

「ああ、もしかしたらお前の妹さんも選ばれちまう可能性があるな」

「……」


 ランプはその男の言葉を聞いて言葉が出なかった。ただでさえ村ではアイテムを使う事が多い上にアイテムは親が保管している場合が多かった。なので、ランプとルタは少しかアイテムがなかった。


「大丈夫お姉ちゃん、私は勝つから……」


 震える手でルタはランプの手を握りこの状況下で励ましてくれる。


「ル……タ……」


 ランプはルタを強く抱きしめる。今、ランプに出来る事はこれくらいしか無かった。

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