228話 辺境の村……

「助けてぇ……痛いよぉ!!」


 どこの国にも属していない、超少数の’人’の村……ベールヌイ。

 一見、ちゃんとやって行く事が出来るのかという風に思われるような村だが、村の全二十名一人々が属性を上手く使いこなし何事もなく平和に何不自由なく生活していた。


 だが、そんなこれまで送って来た日常も幻想に思えるかのような地獄がこの日訪れた。


「大丈夫、お姉ちゃんがついてるから」


 村一番の美人で属性の使い手、ランプ・レモネードは片目に木片が突き刺さった妹のルタ・レモネードの治療を試みるが、ランプの使える回復属性では完全には直しきれない。

 それどころか、どんどん傷がひどくなりもう目は見えていなかった


「大丈夫、大丈夫……今、助けるからね……」


 額から汗が流れ落ち自分の涙と合わさるがランプは笑顔を崩すことはなかった。

 ……今私が弱音を吐いたらルタを守れない……

 そんな思いでいっぱいのランプに人の気配が近づく。


「良かった!生き残りがいたよ!!」


 その声にランプは振り向くが、そこにいたのは村の人でもましてや人間でもなかった。

 体は人間みたいな形をしているのだが、頭が無く胸元に巨大な口が、手足に目や鼻といった人間でいう顔にある部位が付いているという魔物に近い風貌をしている。体は大きく、二メートル以上は余裕であり、その見た目と合間って迫力がとてつもなかった。


「女の人間二人か……いいねぇ……」

「ま、まも……の」

「ああ!?」


 魔物という言葉が真っ先に出て来たランプは恐怖から口から出てしまうが、その言葉を聞いて魔物ような生物は明らかに怒りを露わにする。


「魔物だと!俺はそんなチンケな種族じゃねぇ!!俺は、フレイス連邦国所属の兵士、ジューバン=ベールだ!!」

「あなたが、私の村を……」

「そうだよ、人間ってのは夜寝る種族、そこを狙ってお前らの村ごと俺の一撃で粉砕したんだよ!!」

「あなたが、私の村を……」

「なんだよ、今いっただろうが、そうだよ!」

「あなたが……」


 ランプは気絶した妹をゆっくり地面に置き、ジューバンの方へ向き直る。

 瞳からは涙が流れ落ちるが、ランプの表情はまるで鬼がやどったかのように怒りに満ち溢れていた。


「いい目をするじゃねぇかよ!俺は村を襲うプロだからな、殺さないように重症にして村の人間全員、捕らえるつもりだったんだが、久しぶりだから俺も勘が鈍っちまったらしいな」


 ずっとルタにつきっきりで周りが見えていなかったランプは、今ようやく燃え盛る村の家々を見て絶望する。

 その中で、ジューバンの仲間が村の人を檻のような物に収容しており、ランプ達も時間の問題だった。


「よくも……よくもっ!!」


ーーっ!!

 大きく一歩踏み出し、ランプはジューバンへ攻撃をしようとした瞬間、ランプの足に激痛が走る。

 ランプもルタ同様足に大きな木片が突き刺さっており、出血は少ないが足を動かせるような状態ではなかった。


「お前、その状態で痛み感じてなかったのかよ!」

「くっ!」

「大人しく、捕まれ」


 ジューバンは、ゆっくりと近づきランプに手をかけようとした瞬間ーー


「汚い手で触れるなぁああああ!!!!!」

「ーーんがっ!!」


 燃え盛る家から突如、ランプの父、バック・レモネードがジューバンに突進をかまし、とてつもない音と衝撃で吹き飛ばす。

 バックもランプ達と同様に身体中傷だらけではあったが、動けない程ではなかった。


「これで、二人目かっ!!」


 吹き飛ばされたジューバンは、軽々と起き上がりバックの方を嘲笑うように見やる。


「お父さん!」

「大丈夫だ、お前達二人は絶対に逃す」


 二人を守るように、バックは立ち塞がる。


 ’大丈夫’これは、ランプ達三人の家族の口癖だった。

 何か、あるたびに大丈夫だと自分に言い聞かせ立ち振舞えるようにするためのおまじない的な役割を持っていた。

 ランプとルタの母は、ルタが生まれた後すぐに亡くなってしまい、母が生前言っていた’大丈夫’という口癖が言霊のように三人にうつっていた。


「やっぱり、こう言う骨があるやつとたまには戦わないと暇で暇で仕方がない!」

「来い!人間の強さを見せてやる」


 バックは、ゆっくりと構えジューバンに拳を向ける。


「いい……ねっ!!」


 ジューバンは、その巨体からは考えられない程の速度で突っ込みながら拳を振り抜くとそれに合わせるようにバックは右足で蹴る。

 拳と足が重なり合う瞬間ジューバンは拳を掌底にし、軽く受け止めるような形になる。


 だが、たったそれだけの動作で鈍い音が鳴り響く。


「ーーがっあ!!」


 その一瞬で足の骨を砕かれたバックは即座に跳躍し距離を取ろうとするが、ジューバンはそれを許さない。


「にがさねぇよ!」

「ーーぐっはぁ!!」


 バックの動きを遥かに凌駕するジューバンは、軽々とバックを追随し、上から肘で追撃を加える。

 地面に叩きつけられたバックは、属性をまとい傷を修復しつつ勢いを殺し、地面に着地する。


「どうした、その程度か!!」


 さらに拳を構え、ジューバンは上から落下の勢いを合わせた拳をバックへ振り抜く。


「ーーふっ!!」


 バックは上から降ってくるジューバンの拳ををかわしその隙をついて思いっきりジューバンの胴体に属性を纏わせた拳をねじり込む。

 だが、その拳を受けてもジューバンが動くことは一切なく、笑うようにバックの事を見つめていた。


「人間の天恵による属性と言うのは確かになかなかの威力を持つ……だがな、俺達、異口同種(バルゼルガ)という種族にはたどり着けない元からのスペックの差があるんだよ」

「だから何だ……まだ、勝ってもいないのに油断していると痛い目に会うぞ」

「抜かせ……」


 ジューバンの体にねじ込まれたバックの腕を切り落とそうと腕を振り上げた瞬間ーー


「な、何をした……」


 ジューバンは体を動かす事ができなくなっていた。


「俺の属性、縛束監禁属性だ!お前はもう体の全てを動かすことは出来ない!」

「そうか……」


 体についた口元は歪み、バックは時が止まったかのように脳内に絶望が走る。

 そのまま何もなかったかのようにジューバンは腕を振り下ろし、バックの腕を切り落とす。


 バックのとてつもない大量の出血を見てランプは叫ぶが、次の瞬間ーー腕同様首もあっけなく斬り飛ばされた。


 

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