224話 暗殺

レイ・クラウド帝国 南門ーー


 ハイドゲンの影響で、国民は避難しているか、自分の家に入り事が治るまで待機している中、東西南北それぞれにある門の付近には冒険者や帝国の兵士が普段の数倍の人が巡回し警戒に当たっていた。

 だが、南門だけは一段と静けさ……静寂が優っており、冒険者などの人の影も一切見えなかった。

 そんな中、誰もいない南門を潜り二人の男がレイ・クラウド帝国の外へ出る。


「ほれほれ、どこへ行くのかね。少し止まれ」


 その二人を止めるよう突如、門の前に一人の老人が姿を現す。

 ただの老人、たかが老人、普通ならばそんな老人の声に耳を傾ける事もしないが、その一声にその二人は振り返りながら立ち止まる。


「久しいのぉ……何年ぶりじゃ、ミロクよ」

「お久しぶりです、ルイデさん」


 ミロクはバレているので着ているマントを開き顔を露わにする。


「親父、いつもながら速いな」


 ハヤトの祖父にあたるルイデ・ゾルデが到着した少しした後、父にあたるガルド・ゾルデが到着する。

 ルイデの方は、真っ黒な道着を着ており胸元には’一撃必殺’と文字が刻まれ、背中にも同様の言葉が刻まれている。銀色の長髪を腰あたりで結い、紫色の片眼鏡をかけている。

 背は男にしては低い方で百六十も無い。それもそのはずで御歳六十八、細身で腰も曲がり身長も縮んでいる。


 それに対し、ガルドは身長百八十後半はあり、武道家のようなすらっとした筋骨隆々さを誇る。それに加え冷静さを醸し出す雰囲気を併せ持ち、鋭い目つきが特徴的だ。

 黒い髪は短く、鋭い目つきの下には二つの傷跡が刻まれている。


「おやおや、ミロクさんは有名人ですねぇー」


 ジプロスはゆっくりと背に携えている大剣に手をかけ戦闘態勢に入ろうとする。


「そっちは、ジプロスか。また、骨が折れるな」


 ガルドは少し面倒臭そうな表情でジプロスを見る。

 余裕すら感じられる言葉だが、ガルドからは一切の油断を感じられず、ジプロスは大剣を抜けなかった。


「ほんと、割のいい話じゃと思ったらこれじゃからな。あいつ後で仕置じゃな」

「まさか、あのゾルデ暗殺一家と戦えるとは光栄ですよ。私も本気を出せそうだ」


 ゾルデ暗殺一家には他にも親族がおり、それぞれ帝国にいるのがゾルデ、聖王国にいるのがザルデ、皇国にいるのがジルデ、法国にいるのがゼルデとなっている。

 だが、親族であるにも関わらず、この四つの一家は仲がとてつもなく悪く、普通に殺し合うほどだった。

 さらに、国の殺しを担い、どの一家も優劣が付けられないほど強い。

 そして、今回帝国国王に依頼された超高額のルーエの仕事。一般市民であれば、十年以上は余裕で暮らしていけるほどの額を提示されており、中身も聞かずタリ・ゾルデは請け負ってきたのだ。


「いや、上手く丸め込まれたといった所かの」

「全く、あのクロ二クス一家には毎回してやられるな」


 ジプロスも着ているマントを開き顔と胴体を露わにする。


「ジプロスか……確かセイルド聖王国出身、あのキサラギ・ネルを襲撃して護衛を百人以上殺し、キサラギをも追い込んだ’ハ級凶罰者’の一人」


 主に罪を犯した(殺人や窃盗、傷害等)凶悪犯罪者達は凶罰者(インジエート)と呼ばれ罪その刑の重さや実力などで階級に分けられ、高額なルーエをかけられている。

 上から、’ハ級、テ級、ラ級、シ級’の四つに分けられる。


「私の事も知ってもらえているとは光栄ですねぇー」

「ジプロス……俺達は戦いに来たわけではない行くぞ」

「つれないのーミロク。久しぶりの再会じゃろ……少しくらい付き合ってくれてもいいじゃろうに」

「申し訳ありません、ルイデさん。今、あなた方とはやり合いたくない」

「じゃが、こっちも仕事じゃからのー」

「親父、もうこいつは過去のミロクではない。片付けるぞ……」


 ガルドは、属性を解放し超凝縮された神経を研ぎ澄まし一気に戦闘態勢に入る。


「ガルド気をつけい……ミロクは齢八にしてレイ・クラウド帝国最高戦力’歪’の長となった男じゃ」

「分かっているっ!!」

「全く、今あなた方とやったら後ろの国……消えますよ?」


 ミロクは迫るガルドとルイデの二人に対し、アイテムボックスから二本小刀を取り出し、的確に急所を狙って投げる。

 ほぼ一回の手首の動作だけで投げられた二本の小刀はそれぞれ火属性と水属性を纏っており、ただの小刀だがその殺傷能力は言うまでもない。


 投げられた小刀をガルドとルイデは避ける事をせず、己の属性だけで弾きさらに加速しながらミロクへ接近する。


「その一個一個の技術の高さは相変わらずじゃなっ!!」


 ルイデは闇属性を纏わせた腕をミロクへ振りかざすとそれをミロクは軽々と躱す。

 さらに、ルイデの後ろからガルドの属性攻撃が飛び交うが、それすらも全て完璧にミロクは躱しながら後ろへ下がる。


「ミロクさん私も参戦しますよっ!」

「ジプロス、お前は先に行け、お前には大事な荷物がある」

「はぁ……またお預けですか……ミロクさんの命令なら仕方ありませんね」

「行かせんっ!!」


 戦線離脱しようとするジプロスを追ってルイデは攻撃をしかけるが、ジプロスは自分の姿を霧と一緒に消す。


「ちっ!逃したかっ!」

「親父!後ろだっ!!」

「なっ!」

「ーーっ!!」


 その一瞬の隙で、ルイデの元へミロクは移動しており背中から体を貫いてた。


「どけぇええっ!!!」


 だが、貫いているミロクの腕を瞬時に切り飛ばし戦線離脱し、それをカバーするようにガルドがミロクへ攻撃を仕掛ける。


「全く、容赦がないのー」

「親父油断しすぎだっ!」


 ガルドが一方的に攻撃し、それを全て完璧な最小限の動作で躱しミロクは再び一撃を入れる機会を伺う。


「こいつっ!!」

「ガルド合わせいっ!!」


 貫かれ大量の血を滴らせながらルイデが参戦し、二人同時に攻撃をする。

 流石に、それを全て躱す事は不可能だという事をミロクは分かっているので、軽く攻撃に転じる。

 ミロクが視線を横にずらすとその逆側からルイデとガルドへ向けて火属性魔法とスキルが飛来し、二人とミロクの間に水属性魔法とスキルで壁を作る。さらに、この場を包み込むように闇属性魔法、スキルと光属性魔法、スキルが同時に発動し、上から雷属性魔法、スキルが降りかかる。

 土属性であらかじめ、動きを封じるために足元を不安定にし動作を遅らせていたので普通の人間ならこれだけで決着がつく……


「やはり、この程度ではダメですか……」

「当然じゃろっ!!」


 ミロクの後ろに回り込んでいたルイデと前からガルドがミロクを挟み込む。

 ガルドは、ミロクから全ての属性攻撃を受けるが傷一つなく、まるで何もなかったかのように攻撃をし続ける。


 

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