225話 一年の終わり
「ルイデさん、もうこの辺にしておいた方がいい」
数分間、攻防を続けたが一向に勝敗がつく様子はない。
それもそのはずで、三人は本気でやりあおうとなど思っていない。最初にミロクも言ったが、ルイデ達が本気でやるとなると後ろにある国を考えずやることになってしまうのでまずその時点でルイデ達に勝ち目はなかった。
「ま、これくらいやっておけば文句も言われまい」
ゾルデ一家が依頼を受ける場合は、成功失敗関わらずルーエを貰い、成功すればそのまま全額、失敗すれば半額返すというやり方でやっている。
「初めてじゃな、仕事を失敗するなど」
「全くだ……」
一応これくらいやりましたという口実がないと相手も納得しないのでルイデ達は少しミロクに相手をしてもらったという形になる。
「では、私はこれで……次会うときは本気でやりましょう」
「お前となど仕事じゃなければやらんよ。面倒臭い……」
腕を切られ、腹を貫かれたミロクとルイデは、お互い傷を気にすることなく飄々と話、その場の空気感は異様だった。
そう、二人にとってこの程度の傷など傷の範疇に入らない。
「親父、行くぞ」
「そうじゃな」
背を向けジプロスを追って歩き出すミロクを見ながらルイデ達は暗がりに消えるようにその場から姿を消す。
**
その日、魔導修練祭は終わりを迎え、後日閉会式と共にルイン魔導学園が優勝校として選ばれた。
魔導修練祭自体がこのような形になってしまったので、本来ならもう少し期間はあったが、安全を考え早期に終了した。
教師に死人は出てしまったが、ゲルトやシロネ、ユイ、エーフも重症ではあったが、アキトとハヤトがアイテムを使い何とか命は助けることができ、生徒の死人は出なかったのは不幸中の幸いであった。
リ・ストランテに帰ってからは一週間ほどの休みが与えられ、各々好き勝手に過ごしていた。
アキトは、険悪なミシロとシロネの仲を何とか取り持ちつつ、久々の休みを謳歌していた。
謳歌と言ってもアキトがやることなどあまり普段と変わらないのでいつも通り魔導書館で調べ毎をしていた。
これまでは、けんの事や魔法やスキルに通ずるかもしれない事を調べていたので今回からはこの世界にあるオーパーツアイテムについても追加で調べることにした。
一応これまでもオーパーツアイテムについては調べるには調べていたが今回の一件でさらに詳しく知る必要があるとアキトは考え色々本を探るがやはりと言うべきか断片的な情報しか見えてこないのが現状だった。
「うーん、なかなか無いなぁ……」
アキトも少し諦めていたとき、魔導書館の地下から階段を駆け上がってくる音が聞こえる。
「アキトっ!時間っ!!」
「もうそんな時間か……」
下からルナが姿を現し少し怒ったようにアキトを迎えにくる。
「魔導修練祭じゃ見せられなかったからね、また勝負しなさいっ!!成果を見せるんだからっ!!」
「今行く!!」
アキトは重い腰を上げ立ち上がりルナの後を追う。
その時だったーー
(マスター!!あのシロネという方なんなのですかっ!私に楯突くなどっ!!)
(うるさいのじゃっ!!今昼寝中なんじゃから騒ぐでないっ!)
(ふんっ!なーにが昼寝ですかっ!馬鹿なんですかっ!)
「はぁ……」
ミシロが増えたのはいいが、こうやってミシロとシロネは事ある毎に和衷協同で喧嘩を始めるのでアキトもうんざりしていた。
喧嘩するほど仲がいいとは言うがそれは隣の芝生で見ているからそう呑気に言えるとアキトはつくづく思っていた。
当事者になってしまうとそんな言葉で一括りになどアキトには出来なかった。
(全く、喧嘩はやめろって二人とも)
(マスター!シロネが悪いのですっ!!)
(ミシロ!お主じゃろうがっ!!)
賑やかになったのはいいが、なりすぎるのも酷だとアキトは強く強く思うのだった。
「早くっ!アキトっ!!」
心強い仲間が増えたのはいいがその分大きな悩みも増えたので結局プラスマイナスゼロ……
「行きますかな……」
アキトは和衷協同を切り、ルナの元へ向かうのだった。
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