213話 アイテムとの戦い①
魔導修練祭フィールド北東部ーー
ゲルトはとてつもなくでかい声で叫び、その衝撃はとてつもないものだった。 シロネ達は皆耳を塞ぎ、一旦距離を取り、それと同時に負傷しているリゼラとハルを影属性で安全な場所へ移動させる。
エーフとユイもその様子を見て、「さっきの意気込みはどこへやら」と思えるほど落ち込んではいたが、二人の集中力はこれまでにないほど上がっていた。
ここまでの疲労や怪我があり長くは持たないだろうとシロネは予測するが、それでも勝つためには少しでも戦力は欲しい。
「全くとてつもないのぉー」
「叫び声だけでここまでなんて……」
少し離れた草陰でシロネ、エーフ、ユイの三人は様子を伺っていた。
リゼラとハルはさらに遠い場所まで影属性で運んであり、その二人にはもう教師が手当を始めていた。
「あが……みぃつけぇたぁああああ!!!!」
シロネ達に背を向けていたゲルトは突如、首を後ろに回転させ三人を補足する。
その人間では考えられない動きへの一瞬の動揺と、ゲルトの眼力による緊張感でユイとエーフは気圧され動き出すまでほんの少し遅れる。
刹那ーー
ゲルトはユイとエーフ二人の目の前まで移動しており、手を振りかざしていた。
「ユイ!エーフ!!」
シロネはあらかじめ二人に仕掛けてあった影スキル<影転送/シャドウワープ>で近くに生えていた木の影にワープさせる。
ゲルトはそのまま容赦無く腕を振りかざすが空振りその拳は地面へ突き刺さる。たったそれだけでゲルトの周囲に衝撃波が発生し、土埃と一緒に地面が一メートル以上抉れる。
そして、二人を見失ったゲルトは一番近くにいたシロネを補足し、とてつもない速さで向かって行く。
「ぁああああああっ!!!」
「幾ら何でも速すぎるのじゃっ!!」
シロネの放つ最高速の影属性の魔法やスキルは次々に躱され、何の障害にもなっていない。
そのままほぼ一直線にゲルトは進みシロネに肉薄する。
「シロネっ頭下げて!!」
突如、シロネへ向けてユイが声を張り上げながら弓を構え矢を放つ。
属性効果の乗ったユイの矢は的確にゲルトの頭を目指し突き進むがそれもゲルトは何なく躱す。その所作一つ一つが人間離れしているので不意の攻撃でもとてつもない反射と肉体で当たらない。
だが、避けられる事は織り込み済みだったーー
避けたゲルトの一瞬の隙を付き、超影属性スキル<影影炎/シャドウドウ>を発動する。
このスキルは対象者の影を燃やすというスキルで、避ける事はほぼ不可能。さらに先程上げた土埃のお陰で小さな影ができ、そこからも発火し始める。
さらにそれと同時に、影魔法<影剣/シャドウソード>でゲルトの腕を切りとばす。
そのままシロネは一旦ゲルトから距離を取る。
「いぃたぁあいぃいいいっ!!」
全身が燃え、片腕が切られているにも関わらずそんな事見向きもせずゲルトはユイとエーフの方へ顔を向けると走り出す。
「ユイ!エーフ!行ったのじゃっ!!」
「分かってる!!」
「シロネちゃん任せて!!」
ようやく体が慣れてきたのか、ユイとエーフは本来の動きに戻っていた。
そして、ユイは弓を構え超自然属性魔法<濁流星群/ウォールドラゴンフライ>を発動する。この魔法は、水の矢を生成するもので一本射抜けば……
その数は、千本以上に膨れ上がる。
突如ゲルトの目の前に現れた数千本の水の矢による弾幕は風切り音と水特有の鈍い音を合わせながら音色を作り、ゲルト一点を狙い矢が集中攻撃を開始する。
濁流のように流れ落ちる矢は、とてつもない勢いと辺りを水辺に変えるほどの水量を誇っている。本来、多面的に広げる魔法だが、今回はゲルトしか敵がいないので集中させたのだ。
ゲルトはその矢の量を見て避けようとするが、突如足が動かなくなる。
エーフの、超罠狩人属性スキル<完全捕縛・緑/バイルンガ・エン>をすでにユイとエーフの周囲に無数の数、散りばめていた。
それを踏み抜いたゲルトは足を草やツタなどの植物に捕縛されとてつもない速度で成長し全身を動けないように固定する。このスキルは捕縛相手の天恵を使用しながら植物を成長させて行き、拘束するもので相手が強ければ強いほどその拘束速度は速くなる。
「捕まえた!!」
「つかぁまぁたぁああっ!!!」
エーフのスキルによって捕らえられたゲルトへユイの放った水の矢が到着し、弾丸のように身体中を貫いて行く。
「ユイっ!!エーフっ!!ここで決めるのじゃっ!!」
水の矢が降り注ぐ中、シロネはユイとエーフに指示を出しながら岩や残った木などをつたい上空に蹴り上がり、上から叩きつけるように時代級影属性魔法<真・影雷放射/シャドシャール>を放つ。
ユイの矢のようにシロネの手から放たれた影は数え切れないほどの量に分散し、的確にゲルトの関節や急所など身体中を貫きその影を様々な場所へ繋げてエーフのような拘束も行う。
衝撃が激しすぎて辺りを粉々にし、フィールドを壊しかけるがさらに追い討ちをかけるように、ユイとエーフは互いにスキルと魔法を発動する。
「ぁあああああぁああああっ!!!」
随時ゲルトは悲鳴を上げ、ユイの放った矢が終わるまで泣くように叫び、血しぶきを上げながら動かなくなる。
超属性と時代級属性によって二重に拘束されたゲルトは指一つ動かす事は出来ない。
これが、殺すつもりでやったエーフ、ユイ、シロネの三人の本気だった。その連携による殺傷能力は学園一であり、シロネも加わっているという事もあってもうすでに三年生クラス程の実力を持っていた。
すると、近くで待機していた教師達数名が姿を現す。
「全く、今回は殺しても良いという処分が出てるからいいが、君達はまだ学生だ、こういう場合は逃げることを優先しなさい」
「やつの事何も知らんくせに……」
「なんだね」
「シロネちゃん!!」
シロネが小さく聞こえないよう悪態をつくと聞こえてしまったのか教師に睨まれる。それを上手くエーフが遮り何とか落ちつかせる。
「まあ、いい。君達も負傷しているんだ、まずこのフィールドから出る」
「分かりました」
「へぇ……じゃあ俺も連れてってくれよ」
その教師の後ろから聞こえた声にとてつもない緊張感と恐怖、焦り、動揺など様々な負の感情が三人に押し寄せ、三人は何も見る事なく本能だけで別々の方向へ逃げるように離れる。
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