212話 アキトの戦い

ダンジョン最深部ーー


 とてつもない声がダンジョンの中にも響き渡り、その瞬間アキトはフィールドで何かあったと察し、シロネに<和衷協同>で連絡をとるが、応答がない。

 和衷協同は意識的に遠隔で話すことが出来るので、例え戦闘中だとしてもシロネほどの実力者であれば応答くらいなら出来るはずだ。

 今考えられるのは、シロネが相当な瀕死状態に追い込まれているか、シロネですら勝てるかどうか分からない相手と戦っているかという大きく分けて二択になる。


「うるさいなぁ……どこの誰だよ全く……」


 ムルドもこの声の主が誰なのかも知らないので、タイミングをずらされて少しイラついていた。


「……早く終わらせるか」


 アキトも、早くフィールドに戻って現状を知る必要があるので時間をかけている暇は無かった。


「終わらせるって……そのダメージでよく言うよっ!!超転送属性スキル<↑↓/リコール>」


 ムルドは、アイテムボックスから槍を取り出しそれを思いっきりアキトの方へ投げる。

 そして、その槍を即座にアキトへ転送する。

 先程と同じようにアキトへ直に転送する事で避ける事すら出来ない攻撃だ。


「全く……超重力属性範囲魔法<超重力場/G・グラヴィティフィールド>」


 突如、アキトの周りにとてつもない重力がかかる。

 真っ黒な禍々しいその重力は目に見えるほどのオーラを纏っており、アキトを中心にして半径一メートルをドーム状に覆っていた。

 そして、転送された槍はアキトのユニフォームに触れた瞬間、垂直に落下し地面に直撃し二つに壊れる。


「なんだとっ!!」

「一回受けた攻撃はそう簡単に次も通るとは思わない方が良い。それにムルド……あんたは俺と相性があまりよくない」

「そんなはずっ!あるわけないだろっ!!」


 ムルドは焦りから、あらかじめ用意しておいた巨大な岩を次々と転送しアキトの上から落下させる。

 その衝撃でダンジョンの閉塞的な部屋には土埃が充満するが、その土埃すらもアキトの周りには一切漂うことはない。全て地面に落ち、綺麗だった。

 アキトは全く避けることはせず、落下してきた岩は弾かれるようにアキトから外れ、落ち砕ける。


「だから言ったろ相性はあまりよくないと」


 アキト自身、ムルドの転送属性やこのダンジョンの事など色々聞きたい事があったので情報収拾も兼ねてどうやろうかと思っていたが、その必要がシロネの安否を確認しなければならないと言う目的で無くなったので頭を痛めるような事もしなくて良い。そうなれば、ムルドはアキトには敵わない。


「くそっぉおお!!」


 転送属性が効かないと分かったムルドは、誰もいないところで拳をかざし振りかぶる。そして、そのまま振り抜く瞬間にアキトを自分の目の前に転送させるとインパクトの瞬間ありったけの力を込める。


 だが……


「ーーぐぅっふ!!!」


 アキトの超重力属性範囲魔法<超重力場/G・グラヴィティフィールド>はアキトを中心に発動するので転送されてもその効果は持続されており、近づけばその餌食になるのは冷静なムルドであれば理解出来た事だった。

 だが、今のムルドにはそれを分かっていても最後の最後、限りなくゼロに近い確率を信じて拳を振り抜いたのだ。


 地面に体を打ち付けたムルドはその衝撃で複数本の骨を折ってしまう。


「全く……小さいところ狙いすぎでは?」

「へっ!僕の運を確かめたまでさ。やっぱりダンジョンに送る人の選別間違えたなぁ……僕の負けだ」


 ムルドがそう言ったのでアキトは属性を解く。

 ゆっくりとムルドは自分で立ち上がるとその声を聞いた教師が近づいてくる。


「済まないがズ・バイト学園のムルド・ラクシー、このダンジョンを貸してもらう」

「ど、どう言う事だ。これは僕が作ったものだぞ」

「今説明する」


 そう言い、セアとトレインやハヤトが聞いたものとほぼ同じものをアキトは聞かされる。


「そう言うことか……だが、決して弱くない教師を一撃で殺す生徒だと……」


 アキトは、潜在的に何か嫌な思いが募る。


「ああだから、今はここにいる方が安全でな。変に転送させてしまうと干渉を受けてしまって危険だ」

「やっぱバレてたか……」


 ムルドが作らせたこのダンジョンは、ここからフィールドに転送出来るように少し繋げてあった。だが、ダンジョン自体は国の外に作ってあるのでその繋げてあるものを切れば安全なのは間違い無かった。


「当然だ。それに、指揮権は教師の俺に移動させてあるからなムルドお前も下手な事はするなよ」

「へいへい」


 ムルドは承諾したが、アキトはシロネの元へ行かなければならないのでそれでは困るのだ。


「あの、俺はフィールドに行きたいんだが」


 アキトがそう言うと、その教師は目と目の間にしわを寄せ顔を強張らせる。


「おい、今の事聞いてなかったのか。対処は俺たち教師と国がやる学生がしゃしゃり出る場面じゃねぇ。無駄死になんてさせるわけないだろうが」


 強靭な肉体を持ったその教師は、強くアキトに言うがそれは至極当たり前で、そんなことはアキトも分かっていた。

 若い芽を摘むという事は一番の愚策。それに、力のある人が対処するなんて当然だ。

 それら全てを分かった上でアキトは言っているのだ。ホルドが何故自分ではなく、アキトに、その仲間達に託したのか……それが引っかかってしょうがなかった。


「俺は、何と言われようと行く!」

「そうか……なら覚悟しろよっ!!」


 アキトは戦闘体勢に入ると、その教師もとてつもないオーラを放ちながら戦闘体勢に入る。

 確実にウタゲ並にあるその実力を目の当たりにし、アキトはSPやMPが持つか心配にはなったが、こうなった以上仕方がなかった。


「……ゲルトがそんな事をするわけないだろうがっ!!」


 突如、横で傷ついたムルドは大声を張り上げる。

 ムルドはゲルトと小さい頃からの知り合いで同じ学園で仲の良い友人だった。 ダンジョンを作る際も相談し色々な意見をもらっており、その気さくな性格は知っていた。

 ズ・バイト学園の生徒執行会の副会長として、役割があったので魔導修練祭中はあまりコンタクト出来ていなかったが、ムルドとしては断固として信じられるような情報ではなかった。


「嘘ではない。本当だっ!!」


 教師は、ムルドに対してもアキトと同様の態度をとる。


「そうですか……はぁ……ならば、アキトくん、僕の友人の事を頼みます」

「お、俺が?」

「はい、僕が頼めるような立場でない事は重々承知ですが、このまま殺人鬼として裁かれるのは絶対に阻止したい。同じ学園の友人として……」


 ムルドの目には、最初会った時の舐めたような感じは一切なく、真摯に向き合ったとても良い目をしていた。


「分かったよ」


 その目には勝てず、アキトもそれを了承する。


「それに、頼めるような立場でないって言うが、魔導修練祭であればこの作戦はあっぱれだし敵であればあれくらいして当然だよ。とても良かった」

「そうか……ありがとう」


 そう言ってムルドが動こうとした瞬間ーー


「おい、誰がお前ら二人を行かせると言った!!」


 アキトとムルドの前に絶対に行かせまいと教師が立ちはだかる。


「僕は行かないよ……座標はゲルトの上空にしてるから、頼んだよ」


 ムルドは、教師を無視しアキトに言い、転送属性を発動しアキトをフィールドへ送る。


「……任せろ」


 小さくアキトは呟くと目の前が真っ白になる。

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