211話 一対一
セアとトレインが転送している中、ハヤトとシャーロットはまだ戦闘を続けていた。
水蒸気のせいで視界が悪くさらにその中で黒い球を避けながら戦わなければならないのでお互いに長期戦は避けたいと考えていた。
「凄いな、僕の時代級属性攻撃を受けてもしっかりと立ってるなんて」
ハヤトは少しやりすぎたかと思っていたが、ここまで楽々と耐えたシャーロットを見て、無意識的にさらにもう一段ギアを上げる。
「立ってはいるが、あいにくもうこれが最後の一撃になりそうじゃ。天恵がもう底を尽きる」
「なるほど、じゃあ僕もそれに答えないとね。ここまでやらしてくれたお礼とはなるか分からないけど、時代級属性の上を見せてあげるよ」
ハヤトがそう言うとシャーロットは大きく目を見開く。
ハヤトが放とうとしている時代級属性の上と言うのは、この世界では選ばれしものしか到達出来ないとされており、一部の英雄と呼ばれる冒険者や国最高峰の騎士や兵士などその領域に到達出来るものは限られていた。
時代級属性までは、学園を卒業した後に実践を経て使えるようになるものはいるし、シャーロットやハルなど学生時代から使えるものもいるがそれと時代級属性より上の属性が使えると言うのはまた別問題。
時代級属性より上の属性へ到達するにはそれだけの経験と才覚、適正や性格、体格、内臓や骨など様々な要因が少なからず関わってくる。それを突破しさらに特殊な特訓を経てようやく到達出来る領域。
学生の内からその領域に達するなどありえない話なのだ。
「その言葉……冗談ではなさそうじゃな」
「ああ……どうせこの場所なんて見られてないだろうしね」
濃い水蒸気がの白色が二人を隠しているので例え見られていたとしても確実な情報とはならないのでハヤトも気兼ねなく撃てる。
「私の研究目標がこの目で見られる……いや、この身で感じられるじゃとっ!」
既にシャーロットはハヤトからその事を聞いた瞬間ハヤトの属性を自分のスロットに入れてみたが、シャーロットの実力では超属性にも達しておらず、使えてただの属性魔法かスキルだったのですぐに諦め削除していた。
だからこそ、このハヤトの言葉がハッタリでは無いとすぐに理解し、何の疑いもなくシャーロットは話を続けていた。
「研究か……それなら君のありったけをぶつけてみてよ!!」
ハヤトは、手をゆっくりとシャーロットの方へかざすように持ち上げる。
その刹那、ハヤトの集中力は今までにない程、桁違いに深くなる。
「時代級属性は言うならば一定範囲を圧倒する属性、一対多の場合に強い。だが、この属性は言うならば一点突破型。一対一にとてつもない威力を発揮する」
OOPARTSオンラインでは、レベルが高くなるほど超属性以下の属性など使わなくなって行く。基本、超属性から上を軸として戦うのでハヤトからすればこれがデフォルトだったが、この世界へ来てそれをやってしまうと目立つと分かってからは使ってこなかった。
久しぶりにここまでの属性を使うハヤトも懐かしさから昔の事を思い出してしまい、少し感慨深くなってしまう。
「確かに研究もあるが、私も到底負ける気などありゃせんっ!!時代級雲水行脚属性魔法<観音水蓮/カノン>」
シャーロットは両手を前に突き出し、指先を手のひらをハヤトの方へ向けささらに両手の指先同士をくっつける。
そこから超高濃度に圧縮された小さな水の球が出来上がる。そして、突如水で出来た巨大な腕が出現し、その水を手を合わせ押しつぶす。
バチッ!と雫が弾け衝撃が走り、ゆっくりとその巨大な水の腕は手を離す。
その瞬間ーー
シャーロットの視界は真っ青に変わり、とてつもない怒号を立てながら水の波動がハヤトへ向かって行く。
水圧がとてつもなく強いので地面すらも押しつぶし、フィールドに亀裂を作って行く。黒い球もその魔法に触れた瞬間消し飛び、グラスが割れるようにフィールドも壊れて行く。
「さあ、始めるか」
ハヤトが伸ばした手にシャーロットの放った魔法が到達した瞬間ーー
まるで突如魔法の向きが変わったかのように簡単にシャーロットの魔法は押し返される。
とてつもない量の雲がハヤトの周囲から出現し、シャーロットの魔法をも飲み込み、雲は大きくなりながら反時計回りに流れを作る。
地面から無理やりに上昇気流を雲自ら作り出し、超低地に雲の渦を作る。
徐々に、辺りには雨が降り始め、とてつもない暴風が吹き始める。その風一つ一つが殺人的な切れ味を持っており、雨粒一つ一つに一キログラムという重量があり、上空から振る雨は属性で守らなければ鉄球が降ってくるようなものなので当たりどころが悪ければ死に至る。
シャーロットは、常に超静雷獣属性魔法<電光石火/ギルガラッシュ>で体を覆っているので問題はないがそれも時間の問題だった。
雲はさらに発達し、雷を起こし始め、風は雨を横殴りにする。
「これほどとはの……かっ!何が、一対一の方がとてつもない威力を発揮するじゃ。こんなの一対多だろうがなかろうが関係ないじゃろうがっ!!」
シャーロットはゆっくり迫るハヤトの属性攻撃をただただ見ることしか出来なかった。
逃げることも避けることも跳ね返すこともシャーロットの選択肢に入る余地はなく、ただただ残った天恵を全て己の防御に回すという選択肢しかない。
「残った天恵と言ってももう私の中にはないがな」
そう、シャーロットの天恵はとっくに空になっており、無理やり体に鞭を打って絞り出しているに過ぎない。
降ってくる雨に腕を打たれ、額や脇、背中、首、顎など当たった部分の体全ての骨が砕け、もう立ってるのでもしんどい状況にあり、これから本命が向かってくるのかと思うと膝が砕けるように震える。
そして、雲の外側の部分がシャーロットを捉えた時にはもう意識はなかった。
太古級天気属性魔法<台風890hPa/タイフーン・リベライト>
ハヤトの放った魔法により、この周囲の残った草木は全て抜け切り刻まれ、岩や石、土や砂など全てを巻き込んだ台風となり、ハヤトの魔法範囲の部分は地面が抉り過ぎて沈んでいた。
「よく耐えた……」
ハヤトは、気絶し全身を風によって切られた血だらけのシャーロットの目の前に来ていた。
この太古級天気属性魔法<台風890hPa/タイフーン・リベライト>は、ハヤトを台風の目として発動しているので、一番安全な場所がハヤトの近くという魔法となっている。
勿論、ハヤトが近づかなければ今だに魔法効果は続いていておりシャーロットの体はズタズタになり肉塊となっていたが、別にハヤトは相手を殺したい訳ではない。
気絶したと分かったのですぐさま近づいたのだ。
そして、今尚吹き荒れる暴風や暴雨、落雷を止めるためハヤトは魔法の発動を停止する。すると、さっきまでとてつもない音が吹き荒れていた場所は一瞬で静かな場所となる。
ハヤトはそれを確認すると気絶したシャーロットをゆっくりと持ち上げる。
「君達っ!!」
ちょうど、転送されて来た教師が近づいて来る。
ハヤトはその教師にセアとトレインと同様の説明を受ける。
「早く傷の手当もしなければならないな……くそっ少し痛いが我慢してくれよ。ほらっ!早く掴まりなさい」
「分かりました。ですが、傷の手当は僕に任せてください」
ハヤトの最後の言葉を聞く前に焦っているその教師は転送を開始してしまう。
時代級属性での傷はハイポーションで一時的には何とかなりはするが、適切な処置方法ではない。
時代級属性以上のダメージは基本ハイポーションの上に位置するアイテムを使うか、それと同等の回復系魔法やスキルを使用するしかない。勿論、時代級属性までならしっかり処置はしてくれるだろうが、シャーロットが受けたのは太古級属性なので、ハヤトが診ないと命に関わることだった。
「一回出たら一介の生徒では入れないか……アキト、後は任せたよ」
このような形で退場となったハヤトは何か嫌な予感がしてしょうがなかった。
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