200話 精進

 アギトの放ったのは、時代級助長補短魔法<自己犠牲/ワル・フォル・ビル>で、リゼラの背中に拳を合わせた際に発動する、他人を設定するものだ。

 その能力は物凄い爆発的な威力を誇ったり、洗礼された針の穴を通すような繊細な物でも無い……ただ、人間を向上させるものだった。

 人が積み上げる鍛錬でつける忍耐力や精神力、体つきや人格などそれら全てがリゼラを向上させ、そう言った無駄な老廃物が外に出され、いわば数年後のリゼラを強制的に作り上げていた。

 だが、勿論そんな事をすれば体が耐えられないので、この魔法はアギトが親しく良く知った間柄でないと発動させられず、さらにこの魔法を向上させる幅は魔法を発動した二十四時間前までに受けた痛みや傷、精神的疲労であったりと全ての負を正に変え、さらにリゼラの体に合わせたものに作り変えて体に送りつける。


 実際、そんな事を瀕死に近い状態で行ったのでアギトは一発で意識を持って行かれ、尚且つ、リゼラの体に合わせると言うのも集中力が持たず少しずれたものになっているので少し不安定なので、制御が難しい所だったがリゼラが無意識にコントロールし落ち着けた。


 さっきまで大きく見え、勝てないと思っていたリゼラだったがアギトの魔法のおかげでメンタルまでもが向上し、今はそんな無駄な事を考えるのではなく、ただハルの動きだけを観察し、そこから勝利へ繋げる手をひたすらに思考していた。


 だが、その強化が逆にハルの枷を外してしまう事になる。


「やっと……本気が出せるのか……」

「こちらは全力だ……勿論出してもらわない方がこっちはありがたいが……」


 リゼラは、軽く手を振り上げると突如ハルに向けて、超堅城隔壁属性スキル<三膳三壁/スルベル>を三回発動する。

 その発動速度は、ハルが一瞬硬直するほどでしかも三回も重ねてあるので九枚の巨大な半透明の青白い壁がハルに迫る。


 突然の出来事だったので防御への反応しか出来ずハルは腕をクロスするように体を丸め、一撃目を耐え、足で踏ん張るが数十メートル地面を抉りながら押され後ろから迫る八枚の壁を無理やり最初リゼラが放った時のように超聖文神武属性魔法<精錬・五行手/メル・ジンギ>を発動し、壁を掴み全ての軌道をずらす。


 最初の一撃目が腕への負担が大きく、強化しているハルの腕の上からではあったが、当たった面が大きく火傷しており、腫れ上がる。


「ぅぐ……久しいぶりだなここまで傷ついたのは……」


 少し悲しそうな表情でハルはそう呟くのと同時に、少し口元が緩む。

 腕を上下させ動かせるかどうか確認し、感触を確かめる。


「全く、普通ならこれで終わってるんだがな……」


 ハルも例え壁が九枚になろうと始めの時同様へし折る事も可能だったが、それだけリゼラの放つ属性が硬く強靭になり、威力が増していたのだ。


「さぁて、始めようか……」


 そう呟くとハルは、時代級聖文神武属性スキル<乖離人/カイゲルト>を発動する。

 これは、超聖文神武属性スキル<精錬・全身継承/メル・ダウン>の上位スキルで、普段滅多に使わないスキルだった。

 ハルでも使った後、体が一日中動かなくなるので、あまり試す機会も無く、その能力の向上はリゼラほどでは無いがどっちかと言うと能力の上がり方の方向性が少し違う。


 このスキルは全身を鋭くするイメージで、全ての魔法やスキルの重ねがけに、攻撃や防御全てに鋭さが増し、より殺人的、殺傷能力が高くなるので、ハルもこの魔導修練祭のルールでは使えないと考えていた。


 両者、学園という枠の範疇を大きく超え、他の学生が二人の間に入る事は一切出来ない。


「久しぶりだよ、これを使ったのは……」


 そう、ハル・クロ二クスがこのスキルを使ったのはちょうど二年前、まだ一年の時で、自分の兄、レイ・クロ二クスに対してだった。


 嬉しそうに、ハルは動き出すとそれと同時にリゼラも動き出し、両者腕を付き合わせぶつけ合う。

 たったそれだけでも衝撃や突風が吹き荒れ、地面が揺れ動く。

 バチバチと走る静電気や吹き飛ばされる粉塵を巻き上げる中、一撃一撃リゼラとハルは撃ち合う。

 リゼラが一発拳を振り抜きそれを首を少し曲げハルが躱すと振り抜かれた拳によって地面に亀裂が走り、そんな事を気にする事なくハルはそのまま迫ってくるリゼラに向け膝を腹に向けて突き刺す。


 だが、その膝もリゼラが小さく作った隔壁で守りダメージを相殺する。その作った壁は粉々に砕け、一旦ハルは膝を戻すがそこへ左右からハルを挟み潰すように隔壁が物凄い速度で迫る。


「ーーふっ!!」


 それを左右両腕を広げせき止める。掌とぶつかった際に何トンもの衝撃がハルの体を抜けていくが全く意に介さない。


ーーそこへ、リゼラが追撃する。


「ふんっ!!」


 自分の掌に自分の手と同じ形の壁を作り張り手のようにハルの腹へぶち込む。


 その瞬間ーー


 ハルは腹に力を目一杯入れ、リゼラが一瞬硬直した隙を狙い迫っていた壁二枚を無理やり掴みそれをリゼラの顔面を挟み込む。

 それに気づいたリゼラは、ギリギリで両腕を顔に持ってきて後ろに逃げるようガードするがその重さには耐えられず突き飛ばされる。

 そこを狙ってハルは追い討ちをかけようとするが、リゼラから受けた掌底の圧迫が時間差をつけて全身を駆け巡る。


「「うごっあ!!」」


 両者何とか倒れないよう耐える。

 たった一撃、直撃させるだけでも相当な苦痛だが、今はそんな事よりも二人にあるのは先にに倒れない事と常に攻撃する事だけだった。


 離れた瞬間を狙いリゼラは右手拳を振り抜くよう、超堅城隔壁属性スキル<守護壁靂/ヘイルクルード>を、ハルは左腕を地面にツッコミ、超聖文神武属性スキル<神武烈骨/ボールディオ>を同時に発動する。


 

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