197話 二人の属性

「お!戻って来た」


 バルトにアギトの説明をするのに少し時間を使ってしまったが、ハルは何の気なしに座りながらぼーっと時間を潰していた。

 リゼラは、常にハルが追って来るだろうと思い警戒していたが、意味が無かった。


「待たせたな……」

「アギトくん……だっけ?増援かぁ……リアル大丈夫かな……」


 ハルはリゼラの来た方向を俯瞰するような目で見ていた。


「よっと!」


 まるで重力を感じさせないような身のこなしでハルは立ち上がり、リゼラの前に立つ。


「ウォーミングアップに時間使い過ぎちゃったからねーこっからは、少しずつ上げていこう」


 ハルは軽く微笑みながら言うと、ゆっくり歩き始める。身長が特別高いわけでも体重が重くがたいが良いわけでもない、いたって標準的な体型だが、その美麗な整った顔と、確かな実力によって見る人によっては違和感しかなかった。

 本来、何かしら秀でた人間と言うのはどこか体に現れるものだが、ハル・クロ二クスにはそれが全く無い。綺麗な顔立ちという事や地位を除けば街で歩いていてもその存在など気にされる事は無いほどだ。


 だからこそこの違和感にリゼラは畏怖していた……そう去年までは……


 今はもうハルという人物がどういったものかを理解し、実力も去年のレベルまでは分かっている。


「ふぅ……」


 小さく息を吐き、近づくハルに向け視線を合わながらリゼラもゆっくりと歩を進める。

 リゼラにとっては一番嫌な時間の始まりだった。


「去年同様、あまり君とはやりたくないんだがな……」

「そうかい?僕は楽しみで仕方なかったんだけどね」


 二人はお互いの拳が届くところまで接近した直後、リゼラの方から一切予備動作無しのハルの顔面めがけた拳が振り抜かれる。


「へぇー腕を上げたね……」


 それをいとも簡単に手のひらで受けると、その衝撃がハルの後方へ伝い、地面に数十メートルの亀裂が走る。


「ーーふっ!!」


 間髪入れずに、リゼラは出した拳を引き思いっきり地面に足を踏み込ませる。すると、ハルとリゼラの二人の周囲の地面が砕け、その一部をリゼラが蹴り上げる。

 ましたから蹴り上げられた土のカーテンをハルは軽く後方へ跳躍しながら避けると、その土のカーテンをめくりリゼラが肉薄する。


 今度はしっかり動作し、腰を入れ、ハルの着地地点に合わせ拳を振り込む。

 避けきれないと悟ったハルはその拳に合わせ左足を振り上げぶつける事で威力を相殺する。リゼラの拳とハルの蹴りは相当な威力を保持しており、ただぶつかり合うだけでも軽く周囲の地形が変化するほどだった。


「やるぅ!!」


 拳と蹴りがぶつかり合う中、リゼラはその余裕そうな表情でいるハルを無視し、掌を拳の状態から五本指を広げる。


「……超堅城隔壁属性魔法<二種・隔壁反射/バイセプト>」

「ーーなっ!!」


 突如、広げたリゼラの掌から巨大な透明な壁が、ハルの蹴り上げた足とリゼラの掌の間に現れる。

 そして、今のいままで互角だったその威力を跳ね返すようにハルを押し返し、吹き飛ばす。

 だが、蹴り自体もそこまで本気のものではなかったので、ハルは吹き飛ばされる中体勢を回転させ、地面に足をつけ摩擦を利用し止まる。


 リゼラの固有属性の超堅城隔壁属性魔法<二種・隔壁反射/バイセプト>は、相手の攻撃を二倍にして返すもので、超属性以下の魔法やスキルに有効な魔法である。

 今回の一撃はかなりヴェルダに似ている所があるが、本来リゼラは防御特化の属性だった……だがこの一年で攻撃にも力を入れ新たに生み出した。ハルにとっては知り得ぬ情報だったためもろに受けてしまった。


 発動タイミングも迷ってはいたが、どうせ時間が過ぎればバレてしまう事だったので出し惜しみ無しだと考えリゼラは魔法を放ったのだ。


「去年までとはやはりリゼラ君も一味違うね……でも、」


 軽く、ユニフォームについた砂埃を払うと、ハルはちらっとリゼラの方を見る。

 その直後、もうすでにハルはリゼラの後ろに立っていた。

 ハルが自分の後ろにいるのに気づくまで零コンマ数秒の時間を有し、気づいて後ろを振り返る時には、ハルはもうすでに聖文神武属性スキル<左拳/レフト>を使った簡単な左ストレートをリゼラの背中目掛けて振り抜いていた。


「僕も去年とは一味違う」

「ーーっぐう」


 リゼラが振り返ってしまったのでハルが狙っていた背中ではなく肩付近に命中させてしまったので、元からリゼラが纏っていた堅城隔壁属性の壁の鎧によって阻まれ十分な威力を与えられないとハルは内心思っていた。

 だが、それでもインパクトの瞬間に爆発のような音が鳴り響き、リゼラの用意していた堅城隔壁属性の壁の鎧は軽々砕かれており、威力も殺していたはずだったがたった一つの拳でとてつもない衝撃を受けリゼラは地面に叩きつけられるように吹き飛ばされる。


 リゼラは何度か、自分が作ったを壁進行方向に作り、体を預けながら無理矢理に受け身を取り立ち上がる。

 全身を堅城隔壁属性によって常に鎧のような硬さの柔軟性のある膜を張っているおかげで大怪我までは至らないが、頭を軽く打ち付けてしまったので額から軽く出血していた。


「去年までは、その拳も反応出来ていたんだがな……」

「そうだね……と言ってもまだこれでも軽いもんだけどね」


 ハルの聖文神武属性は、己の身体能力を強化するという至極単純なものだが、ハルの場合は強化する度合いが違う。

 例えば安い刀を普通の強化を行えば、太い木を一発で簡単に斬り飛ばせる程になるが、ハルの場合山を斬りとばす程にまでしてしまう。

 実際、ハルの属性は他人へかける事は出来ないが己ならどれだけでも強化する事が可能だ。だが、この属性は一回の魔法やスキルに使う天恵の量が他とは比べ物にならないが、そこはハルの元から持ち合わせる大量の天恵と技術、特訓で発動効率をより良くしているので最初は苦労はしたが今のハルにはそのデメリットが作用していない。


 そして、ハルの属性はただ攻撃に強いというだけではなく防御面も優れており、攻守隙が無い属性だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る