196話 楽しかった
呼吸音がヒューヒューと鳴り、片方の肺が焼けたことにより呼吸が殆ど出来ず頭が回っていない。お互い、それは同じで、全身に火傷に打撲、痺れから負傷した部分を数えたらキリが無いほどだった。
例え、属性が同じ系統でも時代級の威力の属性からは属性効果が現れるようになる。なので、二人のダメージは相当深刻な物になっている。
バルトとリアルはお互いに足を向け合い大の字に倒れていた。
二人とも意識はあるが、体が全くと言って動かず口も動かせない。なので、今は回復に時間を使っていた。
「うっ!!」
呼吸が徐々に出来るようになってきたのでバルトは力を入れて起き上がる。立てはしないが、座る所までは気合いで何とかなった。
バルトは目の前を見る……その視線の先にいるリアルはもう立ち上がっており、全身の至る所から出血しており、腕に力が入らず、力を感じられなかった。
「早く、起きろよ……クソがっ!!」
リアルは、まだやる気なのかバルトを急かす。
「分かってるよ!!」
バルトは地面に手をつきゆっくりと立ち上がる。
リアル同様ふらふらしておりまだ体の軸が定まっていない。
「お前ら、好き勝手にやりやがって!!クソがよ!!」
アギトが魔法により吹き飛んだ土や岩の下から姿を現す。バルトやリアル程ではないがかなりの傷を負っており、片腕も使い物にならなくなっていた。
「よく、生き延びたなぁ!」
リアルは嬉しそうにアギトの方を見るが、アギトはアギトでこの状況下でも笑う頭のぶっ飛び様を見て若干呆れていた。
「全く、ひでぇ面だなバルト」
「ふぇ?」
アギトに軽く背中を叩かれたバルトはその衝撃でも倒れてしまう程疲弊しており、本来なら地面に向けて落下して行くのだが、なぜか叩かれた後の方が調子が良かった。
「土産だ……」
バルトの外傷が徐々に回復し完全では無いが動ける状態にはなる。さらに全ての身体機能が著しく上昇しており、バルト自身はあまり気づいていないが、無くなりかけていた視力なども元に戻っていた。
「ぅぐっはっ!!!」
その代わりにアギトの方が地面に手をつき、突然倒れる。突如、身体中に火傷や傷を負い口元や全身から血がダラダラと滴り落ちる。
「兄貴!!」
「いいからやれ!!」
その様子を見てバルトはアギトへ近寄ろうとするが、アギトはキレながらバルトに指示をする。鬼気迫る表情に気圧されバルトはリアルの方を見る。
アギトが放ったは超助長補短属性スキル<置換/スイッチ>……これは、ある一人の対象者を選びその対象者が受けたダメージの半分を自分へ移し替え、対象者へ己の身体機能半分を譲渡するという効果を持つ一種の回復術。
痛みで意識が飛びそうになるのをアギトは両手を地面につけ跪きながら何とか堪える。
血だけではなく汗も身体中から溢れ出る。しかも汗が出るというのに体は寒気を感じるばかりだった。
そして、アギトが何とか堪えている内にバルトは動き出し、動きが鈍いリアルへ何度も拳をぶつける。
「はぁっ!!はぁっ!!はあああああ!!」
「ーーぐぇっはっ!!」
バルトの方も一発の拳を放つのに体力を消費し、さらに本来の力が入らないので拳が軽い。
「くっそが!!ーーぅぐぇっ!!」
何とか対抗しようとリアルは動こうとするが、腕が両方ともダメになっているのでバルトの拳をただただ受けるしか無かった。
「はぁああっ!!」
一発のバルトの拳をリアルは何とかかわすが軽く額をかすり、そこから出血する。タラタラと垂れた血は目に入り、リアルの視界を真っ赤に染める。
ジリジリとリアルはなすすべが無いという事にストレスを溜め始め、バルトから一発拳を打ち付けられるたびに、意識が飛ぶ。
一発殴られては意識が飛び一発殴られては意識が戻りを繰り返し、ストレスは徐々に徐々に溜まっていき……
「はぁあああこれで最後じゃぁあああ!!!」
バルトは最後の最後、力を振り絞り強く足を踏み込み肩を内側に入れるように腰を使い拳をリアルの顔目掛け振り切る。
振り切った拳はリアルの顔面を捉え、嫌な音を立てながらめり込み、汗が吹き散り、血が飛び交う。
だが、その拳を放ってもリアルは倒れなかった。足が震えてはいるのに持ち堪え、バルトと目を離さなかった。
そして、そのバルトの拳によってリアルは溜めていたストレスが上限値を振り切る。
「ーーなっ!!ぅぐ」
その突如、リアルが軽くバルトの腹に手を添えると後方へ吹き飛ばされる。噴煙属性スキル<爆煙風/ボム>を使ったのだ。
倒れてしまえば再び起き上がれないと思ったバルトは何とか踏ん張り、地面に一転した後地面に手をつき何とか立ち上がる。
「ふざけるなよ……カスがっ!!……俺が最強なんだよ!!……消えやがれ!!」
リアルは滑らかな動きで、軽く膝を曲げ腰を落とし、腕を太ももの上に乗せ、軽く口を開ける。
「バルト!!!何も考えず!!リアルをぶっとばせ!!」
何かしてくる事は明白であったが、アギトが顔だけを上げ、バルトに大声で叫ぶ。
「兄貴!!ーーくっ!!」
一瞬も迷う事なくバルトはその言葉を信じ、リアルへ向け全速力で走り出す。
そして、リアルはそれと同時に超噴煙スキル<圧縮煙玉/エアガン>を発動する。リアルの軽く開けた口元に真っ白な煙が集まり一瞬で圧縮され、直径三センチメートル程度の大きさにまでなる。
ーーそれをバルトへ向け放つ
かなり小さい玉だが的確にバルトの上半身を狙っており、バルトももう避ける気力など残っていない。
なので、そのスキルへの恐怖を捨てただただまっすぐ走る。
そして、超噴煙スキル<圧縮煙玉/エアガン>がバルトに当たる直前、アギトはバルトへ向け超助長補短属性魔法<自己反射/マバイリア>を発動する。
そして、リアルの放った煙が圧縮された弾がバルトへ直撃するが、一切気にせずバルトの勢いは衰えない。
「何……だ……と……っ……」
最後の最後に放った一撃の効果が一切無いバルトを見て驚くリアルだったが、もう膝は限界に達し崩れ落ち始めていた。
「だっしゃぁあああああああ!!!!!」
そこへ、バルトは自分の足を滑り込ませ、太陽属性スキル<小太陽/プチトマト>を発動し、それを手で握りしめ、思いっきりリアルの顔面を突き刺すように拳を振り抜く。
燃え盛る拳に射抜かれたリアルは、もう何も抵抗する事なくただただ吹き飛ばされ、地面を幾度も経由し倒される。
「や……やったぜ……あ、あにっ!」
終わった安心感からどっと疲れが押し寄せて来るが、何とか最後、兄のアギトの方を見るがそこには腹から大量に出血している兄の姿があり、何とか声をかけたかったがバルトは力使い果たしそのまま地面に倒れ込んでしまう。
「あっ……あ……あ……あがぁ……」
腹を抑えながら遠くなる意識を何とか根性だけで耐え、アギトはポーションを取り出し、自分へ残り全てをふりかける。何本使おうとポーションでは直せない傷は癒えないが大量に使う事で気持ちだけでも回復しているつもりになりたかった。
「ーーうぐっ!!」
すると突然、アギトの横に再びリゼラが吹き飛ばされて来て、それを追うように今度はハル・クロ二クスもやって来る。
リゼラもアギト同様に満身創痍の状態で、何とか立っているのでやっとといった様子で、それに対してハルは鬼気迫る表情だった。
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