188話 潜在的能力

「はぁ……はぁ……全く……このエルって子末恐ろしい……」


 傷を抑えながらピルチは何とか傷を直そうとアイテムボックスからポーションを取り出そうとしたその時だったーー


「全く……もう少しぐらい俺に当てないよう気をつけてほしいものだ」

「うそっ……」


 突如、横で膝をついていたはずのトルスはエルの攻撃でガラ空きになったピルチの懐に入りエルが殴った場所と同じ所を片膝を思いっきり殴り飛ばしていた。

 目が見えなくなっているのでトルスの拳に反応こそするが、避ける事など出来なかった。

 数十メートル吹き飛び、地面を二転三転した後受け身も、その勢いを殺す事も出来ずただただピルチはうずくまっていた。


「う……ぐ……私……の……毒が……」


 痺れてた腕を振り払うようにトルスは立ち上がる。ピルチが使おうとしていたポーションを使い、耳の傷などを緩和する。


「さっきのヴェルダ副会長のフィールド魔法によって毒は半減されたからな動けるようにはなった」


 トルスも動けはしたが決して万全な状態で動けるわけでは無い。そして、もう一つトルスはまだやる事が一つあった。


「この重荷を外す前にフィールド外に出されなくてよかった。エルの言った通り転送されてから直ぐに解けばよかったな」


 トルスはピルチに言っているつもりだったが、もう既にピルチは気絶していた。


「まさか、ピルチをやるとはな……ヴェルダ・アセイン、ただではやられんか……」

「これで一対一思いっきりやれるな」


 トルスはユニフォームにかかっていた荷重を解除し、重かった体がまるで自分のものではないかのように軽くなるのを感じる。


「一対一で何が変わるのだ。お前に俺は越せん」

「確かにそうかもしれんが……昔、師に言われたことがあってな」

「ほう……」


 小さい頃属性が三人共発現した頃、エル、エーフ、トルスの三人は村を守りに来た一人の冒険者に弟子入りしていた。

 その時に、一人呼び出されたトルスは属性について学んでいたが、その際に一つ師匠に言われたことがあった。

『トルス……君は三人、二人で戦うとどこか自分の力をどこかでセーブしてしまう。一人で戦った方が強い……ソロの冒険者向きだ』

 基本、三人でいて殆ど一人で戦うということが無かったのでトルスは自分では気づいていなかったが以前、シェルと戦った際にトルスはその言葉の意味を少し感じていた。


 だからと言って本当のその師匠の言う通りに一人の方が強いとは限らないが、トルスの中で一人で戦うと周りを巻き込まなくて済むという気を使わなくても良いという戦いの自由度が高いのでルイン魔導学園では実戦形式以外では極力一人で特訓するようにもしていた。


「毒の効果が半減したからと言って効果が無いわけでは無い。決着をつけようではないか」

「よかろう、結局俺もこのフィールドがあっては決着をつけねばならないしな。こい、トルスよ!」


 ふぅ……とトルスは息を吐き、呼吸を整え流れるような動作で岩石属性スキル<岩石砲/ロックブラスト>を発動する。

 トルスの前に岩が一つ現れただただそれを殴り飛ばすだけのシンプルなものだ。

 スキルで作られた岩なので並大抵の事では壊れない。

 さらに、空気との摩擦などで温度が急上昇し、コウザンへ向かっていく。


「だから言っている無駄だと!」


 コウザンは両手を地面につけ、超山河襟帯属性スキル<山河超壁/ブルドルザル>を発動する。

 地面から巨大な壁が出現し、その岩を水圧と壁で押し潰す。

 ヴェルダのフィールド魔法でお互い効果は半減しているので得に何か変わるという事はない。


ーーただの力比べだ。


「gぅ……」

「これほどか……」


 トルスとコウザンは一発スキルを放っただけで持っていかれる天恵の量を身を持って体感する。


「これがこのフィールドの効果でもあるのか……」

「なら、短期決戦が一番良いな」


 トルスは地面に落ちていた小さな岩を掴みあげる。

 そして、それを放り投げて超岩石属性スキル<岩石多頭龍創造/ロックドラゴンクリエイトLEVEL2>を発動する。


「ほう……」


 その放り投げられた岩が真っ黒に染まり、その岩を覆うように大きさ様々な岩が集まり、徐々に龍の形を型どっていく。

 そして、最後に二つの龍の頭ができ完成する。


「ウグルアアアアアアアア!!!!」

「でかいな……面白い!」


 コウザンは完成した瞬間、超山河襟帯属性魔法<剣山/ブレードマウンテン>を発動し、剣山が完成したばっかりの岩の龍に突き刺さる。


「何!」


 コウザンは刺さった剣山を見て驚愕する。

 剣山は確かにトルスの作った岩の龍に突き刺さってはいるが徐々に剣山が岩の龍に取り込まれてしまっている。


「……よそ見は良く無いな」

「ちっ!舐めるなよ」


 トルスはコウザンの視線が岩の龍に行っている間に直ぐ近くまで迫っていた。

 だが、超山河襟帯属性スキル<山河超壁/ブルドルザル>に遮られてしまう。


「グルァアアアアアア!!!」


 それと同時に二つある岩の龍の頭から巨大な岩石が生成され、轟音を響かせながら放たれる。

 一発は真っ直ぐ、もう一発は弧を描くように放たれ、真っ直ぐ放たれた方は一瞬でトルスの横を通り過ぎ巨大な壁にぶち当たる。

 一発の岩石でコウザンの放った超山河襟帯属性スキル<山河超壁/ブルドルザル>の壁に亀裂が入るが上から降ってくる激流によって砕かれる。


「さて……ふっ!!!」


 弧を描くもう一発の岩石が飛来する前に、トルスは右腕を後ろに回し、腰を下げ力を入れる。

 これまではここでセーブが入っていたがエルがおらず、相手は一人。この条件が整った状態という事がトルスの頭には入っていたので目一杯振り抜く事が出来る。

 そして、一瞬天恵が激減し空っぽになった事で意識がぶれるが、唇を噛みその小さな痛みで体勢を耐え抜く。

 そのまま拳を振り抜くと、そこへ時間を合わせたかのように巨大な岩石が降って来て、コウザンが作った壁ではなく、その岩石に拳をぶち当てる。


 その瞬間ーー

 超至近距離で、超岩石属性魔法<圧砕岩/クラッシュロック>を発動する。

 巨大な岩石を打ち砕き、その中に圧縮されたあった岩が顔を出しそれを押し出すようにトルスは殴る。


「まさか!ここまでかっ!!!」


 砕けていく自分の壁を見て大声で叫ぶコウザンだったが、既に毒が回り、天恵も無く、蓄積した怪我により、倒れながら、この岩と壁がぶつかる巨大な音が子守唄がわりのように、そのままゆっくりと意識を無くし気絶した。


 その直後、衝撃によりヴェルダの張った鏡が全て、原型さえも分からないほどに砕け散り、コウザンはその岩と壁の残骸、衝撃波を全て受け止め、ヴェルダのフィールドからかなり離れた場所まで吹き飛ばされるがその時にはもう既に気を失っていた。


**


「なーんじゃ、もう終わってしまったか……」


 荒れ果てた惨状と運ばれていく仲間と敵を見てシャーロットは、小さく一人呟く。

 ここでやる事はもう全て終わった。後やる事と言えば、ハル・クロ二クスの応援か……あるいは……


「会長……いや、ハルよ、悪いが私はお前さんの応援よりも探究心の方が勝ってしまったようじゃ」


 一人白衣をただし、トルスとエルが来た方面へ向かって行くのだった。

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