187話 最大の一撃
「頭が……」
エルは額に手を当て、割れたメガネを気にしながら地面に手を付く。
この辺り一帯の地面が約三十センチメートル程気圧の低下によって沈み、エルとトルスは脳震盪のような症状に耳からの出血、それによる聴覚の損傷など目に見える怪我ではなく、内面的な傷の方が大きかった。
エルはまだ手を付いていれば何とかなる程度ではあったが、問題はトルスだ。
トルスはエルの症状の他にピルチによる毒で、痛覚と神経をやられているので動けないという状態だった。
「あっぶなー!!ちょっと!コウザン!それやるならやるって言いなさいよ!私までダメージ受けるとこだったじゃない!!」
「だから言っているだろう……お前のことは無視して属性は使っている」
「なっ!ひっどくないですか!!」
ピルチとコウザンは呑気に話し合うが一切油断などはしていない。特にコウザンは動けないトルスの目を見てまだ死んでいない事を知っているからだ。
「でも!もう動けないんだったらこっちのものね!」
「と、トルス……」
そう言いながらわざと油断をしているかのようにピルチは装いながらトルスへ近づく。
ピルチは自分が刺した短剣を抜き、片方の短剣を逆に持ちかえ、短剣の柄でトルスを気絶させるべく横に振り抜こうとしたその時だったーー
「ーー何!!??」
ピルチは即座に異変を察知し、その場を離れようとするが遅かった。
上空から無数の鏡が出現し、コウザンが沈めた地形を囲うように鏡が連なる。
その鏡からはミストのような光が発せられており、トルスやエル、ピルチ、コウザンに触れると何の抵抗もなく浸透していく。
「超神聖鏡属性フィールド魔法<鏡会/チャーチフィールド>……後はよろしくお願いいたしますね」
「あの人……まだ……」
ヴェルダは自分の中にある全てを絞り出し、限界を超えて放てる最後の超属性スキル、超神聖鏡属性フィールド魔法<鏡会/チャーチフィールド>を張る。
このフィールドでは全ての属性効果が半減となり、一回の属性魔法やスキルを放つ為に使用する天恵(SP、MP)の量が倍になる。
そして、このフィールドは破壊する事も出る事も出来ない。このフィールドから出る条件は、発動者を倒すもしくは何かしら設定されている条件を達成した場合。
今、ヴェルダは気絶し教師陣に回収されてしまったが今だに発動しているという事は前者はない。なので、何かしらの条件が設定されたフィールドとなっている。
ヴェルダが最後に放ったフィールド魔法の解除条件は囲っている鏡を全て叩き割る事で、かなり時間を有するものだった。
だが、ヴェルダが退場したことによってそれを知るすべは無くなってしまった。
後は力技しか残っていない。勘で鏡を割るという事に気づくか、高レアリティのアイテムの使用、もしくはこのフィールド魔法に干渉し破壊するというマイナーな属性を持っているかだが、この場にいる者はこれらの基準をクリア出来ていない。
「チャンス!」
エルはメガネをアイテムボックスの中に入れ、突如ピルチの方へ走り出す。
このヴェルダのフィールド魔法に気を向けていたピルチとコウザンはエルの動きに気づくのが少し遅れる。
「超光源属性魔法<光軸屈折/ピルプループ>」
エルは、両腕を左右に大きく開くとその両手から光が直線を描きながら真っ直ぐ進んでいく。
「まさか!!」
「ピルチ!全力で避けろ!!!」
ピルチとコウザンはその光の進み方を見て全てを察する。
だが、今から避けて間に合う程エルの魔法は遅いわけではない。
「メガネの弁償はしてもらうよ」
エルはピルチが避ける事を分かっているので走らせている足を止める事はない。
左右に真っ直ぐ伸びた光はヴェルダの張ったフィールドの端にある鏡に反射し、それが一瞬で連鎖を起こす。
一つの鏡に反射した光は様々な方向へ反射し、光が分裂し、また鏡に反射し光の数を増やす。
普段はその地形に合わせて一回反射させたり、洞窟などの狭い場所で重宝するが、今回はヴェルダの副産物によりその威力は恐ろしく脅威となる。
「がはっ!!」
目で追って避けていたピルチもその光の量に避ける事が出来ず腹に直撃させてしまう。
毒煙で守っているはずのピルチだったが、完全には守りきれていない。
このエルの魔法は反射する毎に威力が増していく。なのでヴェルダのフィールドの効果で半減はしているがそれは最初の一撃だけ、例え半減されていても増加していけばいずれ元の威力に戻る。
返って、ピルチの毒煙の効果は単純に半減され防御力も半分となっている。
そこにエルの普段と変わらない威力の魔法が突き刺されば無傷では済まない。
「クッソ!!ピルチ!!上だ!!」
「うえっ?」
コウザンは自分の身を超山河襟帯属性スキル<山河超壁/ブルドルザル>で守りながら戦況を見ていた。
そう、エルはヴェルダのフィールド魔法の範囲は横はあるが縦はどこまででも使う事が出来るという事に気づき、もう一つ今度はスキルを用意していた。
消費量が倍なのでもうエルの天恵は空になるがエルは天に向かって超光源属性スキル<光芒一閃/ランセン>を超光源属性魔法<光軸屈折/ピルプループ>と同時に放っていた。
そして、時間差でピルチの上に上空から星状の光のスタンプのようなものが降り注ぐ。
ピルチはコウザンに言われ上を見上げるがもう既にエルのスキルは真ん前まで迫っていた。
その瞬間ーー
辺りが眩く光輝き、エルやコウザンの視界は一定時間真っ白になり、状況が把握出来なくなる。
反射していた魔法も最後にエルが強制的にピルチに焦点を合わせ攻撃しそれも合間って実際の時間よりも視界が元に戻るのに長くかかる。
「はぁはぁ……これなら……どうよ」
ピルチの元へ迫っていたエルは二つの魔法とスキルに合わせ自分の右手をピルチの腹部めがけて振り抜いていた。
そして、視界が徐々に元に戻る。
隣にいたトルスはちょうど星状の隙間にいたためダメージはそれほど無いが、今だに下を向いて動けていない。
ゆっくりと目の前にいるピルチの方へ目線を向けながら一歩後ろに離れるよう動くとエルは地面に尻餅をつく。
「……あはっ!!……」
「これだけくらって動けるんですか……」
エルはピルチの方を見て地面に座りながら笑えてくる。
これだけの攻撃を受けピルチはユニフォームが切り裂かれ全身から様々な傷を作り出血していた。
さらに目も光を失っており完全に視力を失っているのが見て分かる程だった。
それでも笑いながらピルチはエルの元へ近づく。
ポタポタと垂れる血とその表情にエルは久々に恐怖を感じていた。
「……惜しかったね……うぅ……」
ピルチは腹部を抑えながら短剣をエルの右腕に的確に投げ、既に素手でピルチを殴ったエルは毒が回っていたが右腕に刺さりとうとうエルは体が動かなくなる。
「くっそ……まだまだか……」
エルは天恵の空の状態と毒、疲れや傷により体が限界に到達し、気絶する。
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