186話 増援

 一直線に飛ばしたトルスの岩石属性スキル<岩石砲/ロックブラスト>はその直線上に立っていたピルチだけではなく、コウザンをも捉えていた。

 トルスの放った岩はピルチの防御も殆ど関係なく威力が衰えない。


「ほう……良い属性の活かし方だ……だが!」


 コウザンは、ピルチのように避けようともせずただただ仁王立ちしながら腕を組み待ち構える。


「超山河襟帯属性スキル<山河超壁/ブルドルザル>」


 迫るトルスの放った岩とコウザンの間に、山のように高く土が盛り上がり、山のような壁を生み出す。

 上からは水が物凄い勢いで流れており、直線上に進むトルスの岩は壁により推進力を失い、上からの水圧で砕かれ消失する。


「トルスの攻撃をあんなに軽々止めるなんてね……」

「エルよ、相手を考えろこの程度当然だろ」


 エルとトルスは一旦固まり、様子を伺う。


「十分な攻撃力だー!!いいねぇ……!!」


 ピルチは負傷した肩を抑えながら、アイテムボックスからポーションを取り出しふりかける。だが、傷の深さからか完全完治とはならない。


「ピルチ、気をつけろ……やつの攻撃力は相当なものだ。俺達でも当たれば重症は免れない」


 気をつけろとピルチに警鐘するコウザンは笑いながら言っており一切説得力がない。


「分かってるよー」


 その瞬間、ピルチの固有属性、毒煙武装で作って己に纏わせていた煙がさらに大きく膨れ上がる。そしてその形は徐々にピルチの体に合わせ収束し、最終的にはフード付きのジャンパーのように変化し、武装とは程遠い格好になる。

 背中からは毒煙の爪が二つ生まれ、意思を持っているかのように動いている。


「エル、ここからは出し惜しみなしだ……思いっきりやれ」

「ああ」


 トルスは、エルよりも先にピルチの方へ歩き出す。


「いいねぇ!!その目!!ぞくぞくしちゃう!!」


 ピルチは短剣を地面に刺し、四足歩行をするかのように両手を地面につけ体勢を低くする。

 背中から生える毒煙の爪がさらに二つ増え、合計四本になる。


「じゃ!いっちゃうね!!」


 地面を掴むように力を入れ、ピルチは大きく踏み込み力強く走り出す。


「来い!」


 その速度は先ほどまでと比べ物にならないくらい上がっており、トルスまでの距離など一瞬で縮めてしまう。

 勢いをつけたまま体を回転させ、背中から生えている毒煙の爪がトルスを捉え思い思いに攻撃し始める。

 瞬時に、トルスは岩属性スキル<岩壁暖簾/ロックウォール>を発動し、自分とピルチの間に無理やり岩の壁を作る。

 一瞬で作った壁なので強度が弱く、岩の壁にピルチの毒煙の爪が突き刺さった瞬間砕かれてしまう。

 だが、壁を作った隙にトルスは左手に移動しており、そのまま体をひねり大胸筋だけで、下から振り上げるように岩属性魔法<岩石拳/ロックナックル>を発動しピルチに迫る。


「ふっ!!」


 砕かれた岩も視線を遮り、ピルチは気づきはしたが、体が追いついていない。


「コウザン!!」

「なっ!!」


 ピルチがコウザンの名を叫ぶと、トルスとの間に先程と同様、超山河襟帯属性スキル<山河超壁/ブルドルザル>によって巨大な山の壁ができ、トルスの攻撃を軽々防がれてしまう。

 殴っても一切ビクともせず、その反動でトルスは体勢を崩す。


「どうする?どうする?!!」


 すぐに右の手をついて体勢を立て直そうとするが、もうすでにピルチがトルスの後ろに回っており、既に毒煙の爪を振り下ろした直後だった。


「こっちも守りはなかなかだぞ……」

「光源属性魔法<光円/パール>」


 エルが魔法を発動すると、トルスを守るように無数の光の輪が浮遊し、振り下ろされた毒煙の爪は光の輪に触れると滑らかに切り落とされる。

 即座に、トルスは次の攻撃をするべく動き出しており、毒煙の爪が無くなったピルチに迫る。


「うんうん!そう来ないとね!!」


 さもそれが当然であると言わんばかりにピルチは頷く。

 トルスは、岩属性魔法<岩石拳/ロックナックル>で強化された腕をピルチへ向かって何発も振り抜くが、全て見切られる。


「……っなぜ当たらない!」

「遅い遅いー私の瞬発力は毒煙武装属性によって超強化されてるの!!当たるわけないじゃない!」


 トルスが久しぶりに強い口調で悔しがる。それを見てピルチは微笑ましくなってしまう。

 ピルチの背中から再び真っ黒な毒煙の爪が二つ生え、その二つは同時にトルスめがけ振り抜かれるが全てエルの魔法によって斬り飛ばされる。


「あぁ、あと!後ろ注意してね!」

「……なっ!!」


 ピルチは可愛いらしくウインクした後、それまで緩やかに動いてかわしてたピルチは突如、緩急をつけるようにトルスの最後の拳を最速で避け、身軽にトルスの肩を経由し跳び上がる。

 トルスは自分の肩に軽々と手をつくピルチに反応出来なかった事よりもピルチの後ろにいたコウザンを見て驚いていた。


「気を取られすぎだぞ一年坊」


 コウザンは右腕を前に突き出し、その右腕を左手で支え右手に天恵を集中させていた。

 その静けさに、明らかな違和感を覚えたトルスは即座に回避行動を取ろうとしたがピルチの短剣がトルスの肩に二本突き刺さっており、いつのまにか流血し神経毒が回り動けなくなっていた。

 ピルチの毒は超即効性で、これだけ深く刺さっていたらもう動けない。


「あの……一瞬で……」


 ピルチは地面に突き刺してあった短剣の場所まで上手くトルスの拳を避けながら逆に誘導し、時期を見て毒煙の爪で抜きトルスの肩をまるで新体操のように華麗に跳び上がり気づかれないほど滑らかに短剣を突き刺したのだ。

 実際、滑らかに刺したことは確かだが、どれだけ滑らかに刺しても限度はある。だが、ピルチの場合は違った……

 ピルチの短剣を突き刺すテクニックと超即効性の神経毒が上手くリンクし、短剣を突き刺した瞬間、痛覚よりも毒の方が早く回り、痛覚をバグらせてしまう。

 そのせいでトルスは自分の体が動かなくなってからでしか気づけなかった。


「あんな動き……くそっ!」


 エルもいつ攻撃してこようと対処出来るように構えてはいたが、突如緩急をつけたピルチの動きにエルは追いつけなかった。

 即座に、何かしらの属性魔法、スキルを放とうと思考するが、もう思考している時点で遅かった。


「これで終わりだ、超山河襟帯属性魔法<最・高・峰/ピークレスディション>」


 突如、周囲の音がやみ、雑音が消える。

 その瞬間ピルチは何かを察し、瞬時に毒煙で己を覆い尽くす。

 ピルチを覆い尽くし終えた瞬間ーー

 トルスを中心にして半径一キロメートルの円内にある気圧が一気に低下する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る