189話 リアルな狂気

 魔導修練祭フィールド北東部ーー


 リアル・シルバーと相対している、ベース・パルクとアンナ・カートレットは午前中からずっと、やり合っていたが二人は疲弊するばかりで一切リアルの攻撃は衰えない。

 全速力でマラソンをしたような汗と、息遣いで限界が近かった。


「おい!おい!おい!まだやれんだろ!!」


 リアルは言葉を荒げながら魔法やスキルを連発する。辺りにはリアルの噴煙属性の効果で噴煙が漂い、呼吸をするだけですった息に噴煙が乗り肺が焼けるように痛む。

 さらに、リゼラとハルは二人だけで、ベース達から姿は見える程度の距離で戦っていた。お互い、軽い小競り合いをしながら午前中の時間全てを使いウォーミングアップの最中だった。


「はぁ……はぁ……アンナ、後どれくらい持ちそうだ?」

「ゴッホゲッホ……えっと……」


 ベースはアンナの残り体力を把握するべく問いかけるが、聞かずともその表情で何となく察してしまう。


「正直に答えろ」


 だが、もしもの事があるのでベースははっきりと解答させる。


「後、超属性一発撃てるくらい?」

「何故、疑問形だ」

「いえ、頑張れば二発いけそうなんですよねぇ」

「なら一発でいい」

「は、はい……」


 アンナとベースは一緒のタイミングで額の汗を拭いながら視界にリアルを入れる。


「お!何だ、作戦会議か?」

「いや、あなたを倒すのに作戦も糞もありませんからね。真正面から正々堂々と行きますよ」


 アンナは横で笑っているベースをみて、「この人も……あっち系の人か……」と心の中で先輩に対し悪態をつく。

 汗がぼたぼたと垂れ、雨でも降ったんじゃ無いかと思うほどアンナのユニフォームは濡れていたが、そんな事気にする事なく前を向く。

 既に荷重を外した二人にはもう奥の手など無い。なので最後はかっこよく散る……その思いは二人同じだった。


「そりゃいい。ここまで生かしておいた甲斐があるなぁ弱小ども!!」


 リアルは両手を左右に大きく広げるとそれぞれの手に天恵を集中させる。

 するとこれまで漂っていた噴煙がリアルの両手に集まっていく。


「さぁアンナ、二人であれを吹き飛ばしましょう」

「これまでに無い……あれは……」


 ベースは何とかアンナの気がそらすために無理やり会話を作ったが無意味だった。

 勘の良いアンナはリアルが今から放とうとしているものがどういったものなのかを理解してしまう。


「ベースさん、正直これ……」

「……悲しくなるので言わないで下さい」


 リアルの属性を見て、緊張と疲労、ストレス、怪我の蓄積で体が悲鳴を上げ足が震え、アンナは立つだけでも精一杯になる。


「おいおい!!どうした!こっちは準備完了だ!早く用意しやがれ」


 噴煙には真っ赤な雷のようなものが無数に走り、リアル周辺は地割れのような事象が発生し、その隙間からも噴煙が溢れ出す。耳をつんざくような音を轟かせその威力を物語っていた。


「全く……」

「無意味ですよ」


 ベースはアンナを守るように前に出ようとするが、それをアンナは静止する。

 そのままアンナは両手を前に出し、天恵を全て使い全身全霊をかけ一本の小さな剣を作り出す。

 緑色に光るその剣は通常の短剣よりもさらに小さい、剣と呼ぶには不恰好すぎるものだった。

 ゆっくりとその剣はリアルの方へ向く。

 それと同時に、ベースもアンナ同様に全ての天恵を使用し、アンナが作った剣の上に手をゆっくりかぶせる。


「初めてなので上手く行くか謎ですが……ゴホっうっ」


 リアル付近はもう超高濃度の噴煙だらけで肺を焼かれるような感覚がさらに強くなり、喋るのも困難になる。

 ベースの手をかぶせた部分は真っ白な雲がアンナの剣を剣をかたどるように覆い、本来の短剣の大きさとなる。


 そして、それを見たリアルはもう何も言う事はない。

 ただただ口角を上げながら、


「時代級噴煙属性魔法<爆・大地噴流/リ・エンゲル>」


 を両手を地面に打ち付け放つ。

 その瞬間ーー

 リアル付近の地面がめくれ上がり、真っ黒で巨大な噴煙が真っ赤な雷を帯び津波のように現れる。

 二十メートルを超えるその魔法の高さは……恐怖を超越していた。鳴り響く音は人の唸り声のようで、付近の温度は一気に上がる。塵や誇り、小さな岩や砂、土など様々な不純物が竜巻のように荒れ狂い、もうリアルの姿は見えなかった。


「超雲泥属性スキル<雲海剣/シルクロブレッド>」

「超暗根属性魔法<緑暗剣/グルヴゥールブレード>」


 迫るリアルの魔法に対しベースとアンナは二人で作った一本の短剣をその噴煙に投げ入れる。

 それと同時に二人は噴煙に飲み込まれる。

 巨大な噴煙は爆発し、それがさらに連鎖する。真っ白な雲が噴煙を飲み込み、雨を降らせそれを覆うように緑色の光がその雲の動きをさらに活発化させる。


**


 時間にして一時間近くうねり、この周囲を荒らしたリアルの魔法はようやくおさまる。


「イッテェえええ!!!」


 リアルは肩に刺さった一本の短剣を引き抜き地面に捨てる。

 その短剣は地面に刺さる前に光となって消え去る。


「あーあ、もう終わりかよ……おもんねぇな」


 視線の先で倒れ傷だらけになっている二人を見てリアルは独り言を小さく言う。

 ダラダラと今も二人の間に血が溜まっており、ベースはアンナを守るように最後まで抵抗していたのでアンナよりも傷が深く、多かった。

 その二人を急いで回収して行く教師陣を見て、リアルはハル達が戦っているであろう方向へ足を動かそうとしたその時だった。


「遅かったか……ベース、アンナ……チッ!!」


 その声にリアルは振り返る。


「久しいな……誰かと思ったらその二人よりも弱いアギトくんじゃないですかぁっ!!」


 目を見開き、リアルの威圧感はベース、アンナと対峙していた時よりもに倍以上に膨れ上がっていた。


「ああ、てっきり二人がまだ残ってると思って来たんだがな……」


 アギトはリゼラの戦っているであろう方を見ながら、今の状況が最悪であると悟る。

 まだベースかアンナは残っているとアギトはふんで行動していたがここまで早く二人がやられるとは思ってもいなかった。


「んな事はどうでも良い、去年みたく俺に殴られればな!!」

「クソが!!」


 迫るリアルにアギトは覚悟を決め、迎え撃つ。

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