180話 少ない選択肢

 夜が開け、戦闘開始まで残り五分を切った。

 幸か不幸かフィールドは昨日と変わっておらず、シャーロットらレイ・クラウド学園三人のいた火山フィールドだけが変わり凍原となり、気温が昨日と打って変わって急激に下がっていた。


 昨日ギルガ・オウライが倒れるのを沼地で見ていたアギト達三人は息を潜め開始まで待っていた。

 ハロ・ババロアとカルア・コルクの二人は倒されたのかシャーロットとピルチ、コウザンは合流し最悪な状況だった。

 まだ一人ならやれるがほぼ三人は無傷に近い状態だったので、昨日の戦闘から見ても心がやられるレベルのものだった。


 アギト、ヴェルダ、テストの三人はシャーロットに捕捉されている事は分かっていたので、実際潜んでいる事自体あまり意味がない行動だった。

 だが、その事はヴェルダにしか分からなかった。

 そして、昨日見ていたシャーロットの属性は異様だった。ヴェルダの予想では、相手の属性をコピーか盗み、自分で使う事が出来るというもので、蓄積可能という所までだ。


 その事をヴェルダはアギトが寝た後、夜の内にテストには教えてあった。

 ヴェルダとテストの中ではあのシャーロットだけでも厳しいにも関わらず、さらにもう二人付いてくるとなっては三人でやるより、アギトをリゼラの方に向かわせた方が良いという結論に至った。

 つまり確実に勝てないという前提の元に考えた案だった。

 こちらで勝てない事が分かっているならリゼラ達の方に賭けるしかない。


 だからと言ってヴェルダとテストは諦めるわけでもない。最大限時間稼ぎと相手を消耗させるくらいの実力は持ち合わせているので、ヴェルダとテストはリゼラ達に賭けるのと同時に生き残っているルイン魔導学園の仲間に託す為でもあった。


 残り一分ーー

 これからアギトを説得しなければならないがこれが一番難しいとヴェルダは考えていた。

 一番生徒執行会の中で口が悪いがそれと同じくらい頑固でもあるアギト。

 ヴェルダの一言でどう動くかは分からないが開始したら時間もないのですぐに決断しなければならない。


 ヴェルダは立ち上がり、隠れていた場所から姿がよく見える場所まで移動する。

 それに追随するようにテストも動き、その横にいたアギトは目を丸くしていた。

 何を言われても答えられるよう頭の中で最適解を張り巡らせるヴェルダだったが、アギトは何も言わずテストの後ろを付いて歩く。


「アギっ」


 その事を若干変に思いつつもヴェルダはアギトの方を向き、喋ろうとする。


「すまねぇ二人とも、何も言わず聞いてくれ、俺はちょっとリゼちゃんの方に行かなきゃならねぇ。ここ頼んでもいいか?」


 突然の事にヴェルダもかなり久しぶりに驚く。

 だが、この問いには最適解を用意していなくとも答える事が出来た。


「私達も同じよう考えていました。ここは私達に任せて行ってきてください」


 ヴェルダはテストの分も代弁するようにアギトに伝える。

 すると、何も言わずにアギトは背を向け、走り出す。


「あららら、なーんじゃ気づいておったのか」


 沼地と凍原のフィールドの間にいるシャーロットはヴェルダ達三人を視界内に捉えながら観察するように氷塊の上に座っている。その横にはピルチとコウザンが立っている。


「流石にそこまで遊ばれたら嫌でも気づきますよ」

「そうか……それにしては少し気づくのが遅かったがのー」


 ヴェルダとシャーロットはお互いに笑みを浮かべながら言葉の攻撃をしあう。


「しかも自分達の戦力を一人削るとは……舐められたもんじゃの」

「あなたよりも強いハル・クロ二クスを確実に倒す方にシフトしただけですわ」

「まあ、私より会長の方が強いのは認めるし、その選択もお主らにとってはまた正解じゃ……じゃが、私を下に見ると痛い目見るぞ」

「はい、それは昨日見させてもらいましたので重々承知の上です」


 そう言ってヴェルダはシャーロットの方へゆっくりと歩き出す。

 シャーロットをヴェルダは一人で抑えるという風に予め決めていたのでテストは他の二人の方を見る。

 ピルチとコウザンもそれを承知の上、シャーロットから少し離れ、テストが向かう方向へ一緒に向かう。


 ヴェルダもまた他の人達よりも頭二つは抜きに出ているので、邪魔をされない一対一という形式を選んだ。


「テストさん、申し訳ありません」

「いえ、気にしないでやっちゃってください!」


 テストは振り返りざまに笑顔で言う。

 だが、常に鼻が詰まっているテストが鼻声でない時は本気モードの証拠だった。

 これは、テストと仲が良いヴェルダだけが気づける事だった。


「それじゃ、やるかのー」


 シャーロットは氷塊から飛び降り、湿った地面に着地する。

 沼地の地面は凍原とは違い水気が多いので着地した瞬間シャーロットの白衣が汚れる。


「はい、始めましょう」


 シャーロットは子供のように無邪気に笑い、ヴェルダは魔王のように冷ややかに笑う。そんな歪な空気の中、二人はお互い向かって走り出しその途中、戦闘が始まる音がフィールド中に鳴り響く。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る