179話 シャーロット・バイク
魔導修練祭ステージ北西部ーー
ハル・クロ二クスはアイテム「遠遠通通/リモート」を使用し、シャーロットと連絡を取る。
ズ・バイト、バハイン、カルイン学園による攻撃を受けたと報告され、大まかな勢力図をハルは頭の中に浮かべる。
だが、シャーロットなら即座に倒せると即座に修正し、シャーロットの相手を削除する。
今はリアルに対しアンナとベースが戦っているが、完全にリアルの暇つぶし相手にしかなっておらず、いつ飽きて終わらせてもおかしくない状況下にあった。
リゼラはハルを牽制し、三人の戦いに入らないよう正面にあぐらをかいて座っていた。
なので、ハルもゆっくりと座って連絡を取り合う事が出来る。
そして、今リゼラとハルとの戦闘は行われない。
二人が戦うとなると一時間程度ですまない、時間的に今始めてしまうと夜に入り強制的に止められてしまうので動いていなかった。
リアルはただただ体を動かしたいという事だったので仕方なく二人が相手をする羽目になっている。
日が徐々に落ち始め、抉れた歪になった地面を照らしいくつもの影を作り、幻想的なフィールドとなる。
「心配かい?」
ハルは先ほどリアルが壊したアイテムのせいで連絡が出来ていない、リゼラを思って声をかける。
他の二人、アンナとベースは持ってはいるが只今戦闘中なのでそんな隙を見せたらまたリアルに壊されるはめとなるので渡しては貰えない
「まあな……其方の副会長がいるからな」
リゼラはじっとハルの方を見つめた後口を開く。
「確かに他の二人よりも二つか三つ下手したらそれ以上抜き出てるからね」
「だが、こっちのチームもそうだが、他の学園のチームも合流しているはずだ、全員を相手に出来るとは思えんが」
リゼラは、探るような目で問いかける。
「そんな探らなくとも君の質問には何でも答えるよ」
ハルは、にこやかに嘘なく本心で告げる。ハルはこんな言葉の駆け引き程度で何か変わる事はないと考えている。
なので、作戦などを相手に聞かれてたまに口が滑る癖があり、それにはよくシャーロットに怒られてはいるが、もう飽きられている。
「そうか、なら今のあちらの戦況を聞きたい」
「うーんとね……ルイン学園以外全滅だね」
表情を一切崩さず笑顔のままで淡々とハルに無意識的にリゼラは恐怖を覚えるが、そんなことを気づく暇なく頭を回転させる。
「もう……」
「いや、それはシャーロットだけで後の二人は予定って感じかな。ごめんごめん」
ハロは少し訂正し、謝罪する。
その動きには隙しかなく、リゼラはだんだんと気張るのがばかばかしくなってくる。
「そうか、ならこっちと同じく明日になるか」
「そうだね時間的に教師陣が止めるだろうね」
「だが、よくあれだけの逸材を持ってこれたものだな」
「ん?シャーロットの事かい?」
「ああ」
本来、レイ・クラウド学園では実力が高い者が生徒執行会に選ばれる。前回、シャーロット・バイクは生徒執行会の副会長ではなかった。だが、生徒の殆どを蹴散らす程の実力者という所に皆肝を冷やした。
今年になって副会長として全学園から警戒される一人となったが、ハル・クロ二クスがいる分やはりどこか軽く見えてしまうがはっきり言って時代が違えばシャーロットが確実に会長をやっていた。
そう言った情報が去年の魔導修練祭後から明るみに出てきて一時期話題となった。
「シャーロットは最初、今程強くなかった。というより自分で自分の実力を知らなかったっていう方が強いかな」
「今では考えられんな」
「最初は、ずっと属性の事に関する研究をするためだけに学園に入ったんだ、全く戦闘などはする気が無かったと聞いてるよ」
「ほう」
「だからね、そんなに研究したいんだったら実際魔導修練祭に出た方が色々な属性と触れ合えるから出てみたらどうだって促しんたんだよ」
ハルは少しばかり楽しそうに話す。
「そして去年、好きなようにしていいよって言ったら生徒の殆どを倒しちゃってね、これは僕も驚いたよ」
「だが、実際お前も出来るはずだ、本気を出せばな」
「うーん……まあそうなんだけど、あの子は特殊なんだよ固有属性が」
「それも教えてくれるのか?」
「どうせリゼラは戦いわないから記念に教えてあげるよ」
座りながら暗くなっていく空を見上げハルは言う。
シャーロット・バイクの固有属性……属性辞書(アトリエ)、相手の属性をコピーし己の物にする。さらにそのコピーするためには条件があり、相手から一撃、属性による攻撃を受けなければならない。最大十個まで属性は保存でき、データベースのように削除、更新、追加など自由に出来る。更新と言うのは、シャーロットの実力が上がるたびにそのコピーした固有属性の超属性などを使える。
だが、アキトやハヤトのような超属性より上の属性を使おうとするなど実力が足りないと発動出来ない仕様になっている。
だが、シャーロットの場合実力的にはハルに迫る勢いなので、そのデメリットは殆どないに等しい。
その概要をハヤトの口から聞いたリゼラは口に軽く手を添えながら考える。
「だから去年あれだけの人数を相手にさせたのか……」
「そう言う事、去年シャーロットのお眼鏡にかなった属性を取り込ませて、いくつか飽きを作らせておいて今年も属性収拾してる」
この話を聞いて、リゼラは自分のチームにシャーロットを倒せるのか無意識に考えてしまう。
だが……リゼラにはシャーロットを倒せるという解しか出てこなかった。
自分を信じ付いてきてくれた人、あれだけの特訓をした仲間がそう簡単には落ちるとは微塵も思わなかった。
「流石だね、これを聞いても勝てないと思ってない」
「当然だ、負けるようなチームは作っていない」
「そうか……楽しみだ」
そうハルが告げるとちょうど教師陣から戦闘中止の達しが来る。
さっきまで赤く染め上げていた絵の具で描いたようなフィールドは黒く染まり、真っ暗になる。
視界を闇が支配し、明日目の前にいる人物との戦闘が始まると考えるとはっきり言って今にでも仲間をおいて逃げ出したいくらいだった。
だが、リゼラは勝たなければならない。
全ての人に凡人な人間でも才能に勝てる事が出来るという事を……
それは、ルイン学園生徒執行会の他全員同じ思いであり、目標だった。
結局、全員一睡もする事が出来なかった。
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