178話 半覚醒

 雷を帯び、さらに圧を増したギルガをシャーロットは見上げる。

 白目を向き、よだれと血が混ざったものを口から垂らし、ギルガ本人の意識は無かった。


「これが、’火事場の馬鹿力’と呼ばれる状態……人間の底力……面白い」

「あが……はぁああああ!!!」


 予備動作無し、ギルガは口から突然ーー

 圧縮された高圧力の雷を口から押し出すように吐き出し、一直線上にシャーロットへ向けて、超静雷獣属性魔法<静雷放台/ギルガサンダー>を放つ。


「ほう……」


 シャーロットは一瞬反応が遅れたので避ける事はせず、真正面、超至近距離で超鋼健属性魔法<百錬成鋼/ハンスティールボディ>を自身に付与する。

 シャーロットの体は一瞬で体が銀色になり、瞬く間にギルガが放った超静雷獣属性魔法<静雷放台/ギルガサンダー>に飲み込まれる。

 超鋼健属性魔法<百錬成鋼/ハンスティールボディ>は己の防御力か攻撃力どちらか一方を一定時間引き上げる事が可能になる。


 痺れる体を制御しながら、高圧の雷を全身に浴びてシャーロットは痛みを感じ、感慨する。


「流石じゃな、もっと見せてみよ!!ギルガ・オウライ!!」


 ギルガの一撃を受けて後方へと吹き飛ばされたシャーロットを追おうと荷重を振り切って立ち上がる。

 意識が吹き飛んでいる今、重さや平衡感覚など意味が無かった。


「ガァアアアアア!!!!」


 ギルガは吠えるように、咆哮を放つ。

 それだけで地面がえぐれるような音圧がシャーロットを襲う。鼓膜が弾け、耳から出血するがすぐさまアイテムボックスからポーションを取り出し、耳に突っ込む。


「来い!根性見せてみよ!!」

「ウゥラアアア!!!」


 シャーロットの声に呼応するようにギルガはその重い体を一歩前に出し、踏み込む。それだけで地面が凹み、熱風が吹き出る。

 雷をまとい、そういった熱風などの外的要因を全て無にし、シャーロットへたった一歩で再接近する。


 超鋼健属性魔法<百錬成鋼/ハンスティールボディ>を再度使い、シャーロットは攻撃に特化させる。

 身体機能が著しく向上し、ギルガの速度ですらゆっくりに見えるほどだ。

 だが、いくら攻撃力が向上したといってもギルガの攻撃を生身で受ければ重症は免れない。


 そんな緊張感が、シャーロットの集中力を一気に高めて行く。

 ギルガは超静雷獣属性スキル<静雷獅子/ヴェルグリンボ>を発動し、両手両足に超高濃度の雷を纏わせる。

 青白かったさっきまでの雷とは違い、真っ黒な焼けこげたような匂いがする、雷だった。

 このスキルは己への痛みを課す事で威力をさらに増幅させる。

 禍々しいほどに渦巻く雷は、爆音と共にギルガの四肢を傷つけながら攻撃範囲を増やして行く。


 そのギルガの周りに漂う静電気によって触れるだけでシャーロットの白衣はボロボロになって行き、徐々に切れ傷のような出血箇所が増えて行く。


「遅いねぇ!!」

「ガアアアアア!!!」


 超接近戦となるが、シャーロットは少し違う意味で焦っていた。

 ギルガは今の傷で己を削りながら攻撃し続けている。

 このまま行けば数分後に致命傷になる。死なれてしまってはレイ・クラウド学園やハル・クロ二クス、通っている生徒の顔に泥を塗る行為に等しい。


「楽しみたいが仕方ないな……」


 両腕を交互に足を絡ませながらギルガは攻撃しているが、シャーロットはそれをギリギリでかわす。

 せっかくの楽しみを自ら終わらせるのは惜しいとシャーロットは強く思うが、その思いを抑え込む。


「ウゥルアアアアアア!!」


 全ての威力は上がるが、やはりギルガの意思がある時とでは攻撃のパターンやフェイントの入れ方などが単調なので、シャーロットはギルガが振り抜く拳に簡単にカウンターを入れる。

 ギルガの右手拳が当たるすれすれでシャーロットは左に体勢を落としながら下からアッパーのように振り上げ、ギルガの横腹に拳を打ち込む。


 打ち込む際に手首を縦に上下させるようにし、振動をギルガの全身に響き渡らせる。最後には脳までも揺らし、泡を吹いてその場に倒れる倒れる。

 聖槍属性魔法<聖王槍/キングスルー>による三箇所の貫通した傷、荷重属性魔法<体重増加/ウェイトゲイン>による百キログラム以上の荷重、酔属性スキル<平無行無/バランスクラッシュ>による平衡感覚が狂った状態を全て解く。


 すると、すぐに教師が割って入り担ぎ上げ連れて行く。

 教師もその傷具合に驚き、慌てながらかなり急ぐ。


「良い肩慣らしじゃったな」


 シャーロットは汚れた白衣を着直し、回復属性魔法を己にかけ小さな傷を直す。

 戦っている最中は気づかなかったが、辺り一帯はおびただしい程の穴が空いており、フィールドが崩壊していた。


「いてっ……」


 ギルガの雷で手足が少し痺れてシャーロットはその場で尻餅をつく。別に抵抗は出来るし、立つことも容易だがキリが良いのでそのまま流れるように体勢を移動させた。

 他の二人がどのような状況かは分からないが、まだ戦闘は続いているのが分かるので、少し休憩しようとその場に寝っ転がる。

 ピルチとコウザンが終わってから次に移行するので、それまで近くにあるフィールドの沼地で様子を伺っている三人に意識を向け監視する。


 シャーロットの感知範囲は常人を遥かに超えており、隠れていようと関係ない。

 今の所何かするわけではないのでほっといてはいるが、次戦うとしたらその三人なので、警戒は怠らない。


「恐らくルインの生徒執行会のやつらじゃな……」


 次はどんな属性が出てくるのか楽しみにしながらシャーロットはギルガとの戦いの余韻に浸る。

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