177話 雷獣
固有属性……静雷獣
電気と静電気を折り合わせたような属性で、己に纏う事で真価を発揮する。超物理型の属性だ。
最強の肉体を持つギルガとの相性は抜群で、その攻撃を止める事も、その体を貫く事も殆ど無かった。あるのは前回戦った時に付けられた、シャーロットとの戦いの傷のみ。
「超静雷獣属性スキル<静雷拳/クワゼルガ>」
シャーロットの背中に向け、受けた重圧を押し返すように放ったギルガの超属性スキル。
ギルガの拳に天恵を集中させ雷を作りそれを圧縮、拳になじませ大人しくさせる。
ここで雷が暴れてしまうと威力が散ってただの拳に毛が生えた程度にしかならない。
そのコントロールをギルガは一瞬でやりきる。
「お前の属性は把握済みだ!!俺がこの程度で怯むと思うなぁあああああああああ!!!!!!」
スキルを発動した瞬間、ギルガは目に見えない程の早さでシャーロットの背後に到着し、腰を低くそのまま軽くひねり拳を突き出す。
空間が捻れるのではないかと思うほど、辺りにおびただしい数の雷が落ち、大地が唸るように吹き荒れ、熱風をも巻き込む。
そうなっても一切シャーロットは動く気配が無いが、ギルガはそれがどんな意味をなし、どんな事をされるかなど一切考えず、ただただ己を信じ突っ込む。
「私の属性か……確かにお主は知っておるかもな」
「なにっ!!!」
突如ーー
あれだけうるさかった雷音はやみ、ギルガは拳を振り抜いたはずなのに腕は弾かれ、さらに、空中に浮いていた。
そのまま、ギルガの拳の威力をまるで自分が受けるように吹き飛ぶ。ギルガはすぐさま体勢を空中で回転させ腕を地面に突っ込み勢いを殺す。
身体中に熱が走り、ギルガは遠くの方でまだ座っているシャーロットを睨む。
「くっっそがぁあああああ!!!」
何が何だか分からない物に己の属性攻撃を防がれ、しかも相手は無傷、自分がダメージを受けているという差にギルガは怒りを殺すことが出来ない。
だが、それと同時にギルガを覆う雷はさらに練度を増し、薄く、鋭くなっていく。
「やはり、バカじゃな」
遠くで吠えるギルガを見て、シャーロットは立ち上がる。
ギルガは不敵に笑うシャーロットに向け再び走り出す。
「はぁああ!!」
ひと蹴りで、ギルガはシャーロットとの距離半分を詰め二歩目にはシャーロットの目の前に現れると先程同じようにギルガは小さなシャーロットに向かって上から拳を振り下ろす。
「ほう……少しは成長してるか」
ギルガの拳に合わせ、先程同様シャーロットは固有属性を発動するが、ギルガの放った拳は途中で止まっており、完全には振り切っていなかった。
「そういう事か……」
「よく止めたなギルガよ」
「そらどうも」
ギルガは静止したコンマ数秒でシャーロットの放った固有属性を確認し、理解する。そのままギルガは空中で体勢を倒し、下から突き上げるように逆の拳を振り上げる。
それをいとも簡単にシャーロットは右片足を後ろに引き顎を少し上げわざとギリギリの所でかわす。
シャーロットとギルガはお互い目を合わせる。
「こうじゃったかの……」
シャーロットはギルガへ向かって超静雷獣属性スキル<静雷拳/クワゼルガ>を放つ。シャーロットの拳に突如雷がまとい、ただの拳がギルガ放った物と同じような威力を持つ拳へと変わる。
「まさか!!俺のものまで!!うlぐっ!!」
少し触れただけで大柄なギルガを数百メートル吹き飛ばす。
同属性だけあって付与効果は殆どダメージとはならないが、威力が上がったシャーロットの拳だけでも相当量の重さがあった。
「ぐふっ!!」
何とか地面に手を付き受け身を取り、ギルガは体勢を起こすが立ち上がった瞬間立ちくらみを起こす。
今シャーロットに受けた拳が原因と見るがすぐに違うとギルガは目の前に立つシャーロットを見る。
「ほら!休む暇などないぞ!」
シャーロットは酔属性スキル<平無行無/バランスクラッシュ>をギルガの周りに発生させた。
これは、相手の平衡感覚を鈍らせるもので上手く立つ事も、軸がブレるのでしっかり腰を据えての攻撃も出来なくなる。
「くそっ!!」
「なんじゃ、来ないのか」
挑発するようにギルガの目の前に立つがギルガは、シャーロットを上手く捉えることが出来ない。
「一体……」
「ん?」
「一体いくつの固有属性を……」
ギルガはシャーロットに問いかける。
だが、そんな問いに答える気の無いシャーロットはギルガにさらに荷重属性魔法<体重増加/ウェイトゲイン>を発動する。
「なんだ……これは……」
「私にくだらん考察をする暇があったら一つでも多くの攻撃をするべきなんじゃよ」
ギルガは平衡感覚がおかしい上に、自分の体重以上のものが身体中にのしかかり、動く事がままらなかった。
体重に耐えられなくなったギルガは膝をつき、シャーロットを睨む。
「相変わらず怖いのー」
「……はっ!お前が言うか」
シャーロットはゆっくりギルガに近づき、ギルガの腹部に手を触れる。
「さっきの解答でもするか、一体いくつ固有属性を持つのか……何個じゃと思う?」
「それを分かんねぇから聞いてんだよばぁーか」
「そうか」
それを合図とするかのようにシャーロットは聖槍属性魔法<聖王槍/キングスルー>を放つ。
「うゔっ!!」
シャーロットの手からまばゆい槍が生成され、ゼロ距離でギルガの腹部を貫く。
焼けるような痛みの中、ギルガは吐血しその血がシャーロットの白衣にべっとりこべりつく。
ギルガの意識が徐々に遠のいて行く……
「ほう……まだ耐えるか……」
シャーロットは目が虚ろになり、ふらつくギルガを見て関心する。
だが、容赦という二文字はシャーロットには無く、もう二発聖槍属性魔法<聖王槍/キングスルー>を二発放ち両太ももを撃ち抜く。
「……」
意識が死んだのか、何にも発しずただ体が痙攣するだけのギルガを見て、急にシャーロットは目の前にいる人物がどうでもよくなる。
ただただギルガが去年とどう属性が変わっているか見てみたかったという興味でしかなかったのでそれが分かった今、次を欲するだけだった。
シャーロットが振り向き、行こうとした瞬間ーー
「が……がぁあああああああああ!!!!!!」
ギルガは突然奇声のようなとんでもない大声を張り上げる。それと同時に辺りには雷が降り注ぐ。身体中を覆っている静電気が膨れ上がり、青白い光がギルガを覆い尽くす。
目は白目を向いており、無意識で奥底に眠る自分を引っ張り上げている状態でしかなかった。
「これが……面白いぞ!ギルガよ!!」
シャルロットは興奮が隠せなかった。
宿主が追い込まれた時にある一定の実力者と確率、その人の人生など様々な要因で起こる、天恵の覚醒。
いわばドーピングのようなもので動けない体を勝手に天恵が支配し、宿主を動かす。
極限状態で起こるそれはまだ解明されていない、人間の謎だった。
シャーロットはもう一度振り向きギルガの方を向く。
周囲に吹き荒れる雷鳴によって痺れる感覚を肴に、シャーロットは笑う。
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