181話 テスト・アンサー

 ヴェルダと別れたテストはピルチ、コウザンと共にシャーロットとヴェルダの二人から少し離れた凍原のフィールドの方に到着する。

 沼地のフィールドと違い、しっかりとした地面に所々に氷が張っており、その上から若干の霜が乗っている。


 気温も急激に下がっておりいつもならテストの鼻からは鼻水が垂れ、鼻声になる。

 だが、そんな呑気な事を体がやっている暇がない程、緊張感、責任感、圧迫感など様々な感情がテストには押し寄せている。


「二対一、この状況下でよくこちらの方法を選択したものだ。流石はあのリゼラの下にいるだけある。その気概には素直に賛辞を送ろう」

「いやぁ……それほどでもです……」


 素直に照れるテストを見て、コウザンは一歩前に出る。


「だが、ここで手を抜くことはしない。二対一だが、恨むなよ……」

「元からそのつもりです」


 テストが覚悟を決め、前に一歩足を出した瞬間ーー


「もう……良いんですよね……」


 コウザンの少し後ろに立ち隠れていた、ピルチ・パルプがコウザンよりも先にテストの方に向かって行く。


「……ああ、行け」


 少し呆れたようにコウザンは目を閉じ、ピルチに許可を出すがそれをもらう前に飛び出していた。


 ピルチはテストへ直線を描くように体を回転させながら短剣二本を両手に携え、迫る。

 普段はおとなしいピルチは、戦闘になると豹変する。

 いつもは引っ込み思案なタイプで、あまりレイ・クラウド学園の生徒執行会の中でも喋らない……だが、戦闘中は誰よりも饒舌になり、戦闘狂に変わり果てる。

 その性格の変わりようから二重人格だと最初は思われていた程だった。


「早いですね」

「もちろんですよ!!さあ!どうしますか!」


 テストもコウザンが先手を打つとばかり思っていたので、不意を疲れる形となる。

 迫る二本の短剣には毒が塗ってあり、触れるだけでも速攻で浸透する神経毒。

 この魔導修練祭では殺してはいけないのでこう言った行動を制限する毒を使用している。

 触れるだけでも速攻で回るので短剣で切られれば一発で終わってしまう。


「すぅ……」


 テストは真正面から右手を突き出し迫るピルチに対し、一切臆することなく、ギリギリまで自分に引き寄せ腕を掴み、そのまま後ろに流す。


「やりますねぇ!!そう言うのぞくぞくしちゃいます!これなら……どうですか!!」


 後ろに流されたピルチは右手に持っていた短剣を地面に突き刺す。

 そこを軸として空中で急ブレーキをかけ、体勢を百八十度回転させ勢いをつけて後ろから今度は左手の短剣を前に構え再度テストに迫る。


「ここまでの機動力……流石です……」


 テストはコウザンを警戒しながら後ろを見ずにピルチの攻撃タイミングに合わせバク宙し、綺麗にかわす。


「はぁあ!!……良いんです、それで良いのですよ!!」


 避けられて興奮するピルチはそのまま左手に持っている短剣をちょうどテストの着地タイミングを狙って投げる。

 そのままピルチは左手の短剣を右手に持ち替え、空いた左手で地面に触れ、受け身を取って振り返る。

 そして、ここで攻撃をさらに追加しても良かったが、ピルチはどうテストが動くのか楽しみで仕方なく、わざと見つめていた。


 着地するタイミングを狙われたテストは回転する時にそれを捉えていた。

 自分の着地する地点と時間を変える事もテストは属性を使えば可能だったが、あえてリスクが高い方を取る。


 着地する手前で、飛んできた短剣の柄を握りピルチの顔めがけ投げテストは着地する。

 テストがリスクある方を選んだのでピルチも刃の部分が顔に触れる直前に短剣の柄を握りしめ回収する。


「はぁはぁ……」


 集中しすぎて徐々に体力が削られて行くテストは、ピルチが離れたことによって少し気を抜く。

 オンとオフを上手く切り替えながらやらないといつかパンクしてしまう。


「ピルチ、どうだ?」

「良い感じかも!」


 頬を少しあからめピルチは元気に笑顔でコウザンに言う。


「では、俺もやらせてもらう」

「こっからが本番だよ!!あぁ……楽しみだぁ!!」


 余裕がないテストはじっと二人の動きを見ながら、次の動き方をイメージしていた。


「ピルチ、あまりはしゃぐな、本気でやれ。二人だからと言って手を抜けば確実にやられる相手だ」


 ピルチはコウザンに言われると目を鋭くし、思いっきり睨みつける。


「私が手を抜くとでも?だから、私は追撃しなかった」


 その眼力は、コウザンですら一瞬たじろぐ程のものだった。

 コウザンはそれを見て心配していた自分がバカらしくなる。


「良い判断だ……ピルチよ」

「なっ!!」


 最大限警戒していたテストも一瞬気づくのが遅れる程静かに、そして激しく、コウザンの超山河襟帯(さんがきんたい)属性魔法<剣山/ブレードマウンテン>が襲う。

 突如として、テストの足元の地面から岩や土、その他不純物が混ざった針のような形をした小さな山が数十箇所から出現する。その山はまるで生きているかのようにテストを捕捉しながら攻撃する。


 一撃目のテストの足裏から突き出た山を一発もろに受けてしまい、穴が空き流血する。


「逃げても無駄だ」


 テストの行く場所行く場所から出現する鋭い山を避けるのはテストでも至難の技だった。

 だが、今のテストの集中力であればギリギリかわせる。


「でも、逃げなきゃ当たるでしょう……くっ!!」


 突き出て来る山だけなら良いが、その突き出た山からもさらに山が出て、連鎖するように襲うので全く出どころが読めない。

 テストは全て山が出て来た瞬間だけを見極め、反射だけで回避する。


「コウザンの山だけを見てるだけじゃ、ダメだよ!!」


 テストが山を回避した後ろからピルチが迫り、超至近距離から短剣を流れるように振り上げる。

 この突き出て来る山が当たるリスク承知の攻撃だった。


「ほんと、いきなりこんな運動量っ……」


 すぐ真後ろにピルチがいたのでテストは大きく体を動かす事が出来ない。なの小さく振り返るように振り下ろされる短剣ではなくピルチの腕自分の肘を当て軌道をずらす。

 その場に待機している事は出来ないので一旦テストは追撃か離れるかの二択を迫られるが、ピルチを守るように山が地面から突き出る。

 テストはその突き出る山の量に後方へ退避するしか選択肢しかなかった。


「制御出来て当たり前だ!ピルチに当たると思わない方がいいぞ!」

「重っ!」


 だが、既にもう一方向にはコウザンが待ち構えており、しっかりと構えた腰の入ったコウザンが振り抜いた拳はテストの背に直撃する。

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