176話 潜み

魔導修練祭フィールド北東側レイ・クラウド学園陣地近くーー


 ちょうど、この辺りは溶岩や火山などのフィールドと、足元が悪い沼地にたくさんの巨大な水草が生い茂るフィールドとの境目になっており、前者の方は見渡しが良いが、後者は見渡しが悪いという両極端なところになっていた。


 そして、その火山のフィールドの方にはレイ・クラウド学園の三人とそれを迎え撃つような形でズ・バイト学園、カルイン学園、バハイン学園の三校合同チームがいる。


 それを、沼地のフィールドから息を潜めながらルイン学園生徒執行会の三人は観察している。

 巨大な水草は縦横約十メートルはあり、それぞれ不規則に生えているので姿を隠すにはうってつけの場所になっている。

 ただし、フィールドの殆どが水分で出来ているので、今伏せながら様子を見ているヴェルダ、アギト、テストの三人はもう大雨が降る中野ざらしにされたようにベチャベチャに濡れていた。


「はぁ……ベタベタで気持ち悪いですわね」

「鼻がかめない」

「うるせぇ静かにしろ」


 愚痴をこぼす二人にアギトは掠れる声で静止するが、一人は超自己中悪女、もう一人は年中鼻づまり女とあまり入りたくない特殊部隊に配属されているアギトは、ここまで来るまでに相当なストレスを貯めていた。


「何で俺がまとめてんだか……」

「いつもアギトさんには感謝してるのよ?助かるわ」

「はいはい。あとお前寝るなよ」

「ずず……ずぅーずっ……はい、ねまへん……」

「はぁー」


 アギトは顔を下にやり物凄い深いため息を吐きつつ、そろそろ始まる二つのチームの行方を見守る。


 レイ・クラウド学園生徒執行会の三人、書記ピルチ・パルプ、広報のコウザン・ケールン、副会長のシャーロット・バイク。

 それに相対するのが、カルイン学園生徒執行会長のハロ・ババロア。同じくバハイン学園の会長ギルガ・オウライ。

 そして三人目、ついさっき合流したズ・バイト学園会長、カルア・コルク。


 今は三対三だが、元はもっと他にも人員はいた。

 各学園の会長よりも先行していた生徒執行会のメンバーそれぞれがレイ・クラウド学園の三人に挑んだが、全員一切歯が立たなかった。

 そして、その光景を見て後から来た三人が良い気がする気もない。


「はやすぎねぇか……おたくら」


 ギルガが睨むようにレイ・クラウドの三人を見る。

 そう、会長達が到着するまで約五分程しかなかったのだ。それなのにも関わらず、実力がある自分達の仲間がいない。

 特に真ん中に悠長に座っているレイ・クラウド学園副会長のシャーロットの方を強く睨む。


「お主ら何か勘違いをしておらんか?」


 すると、はぁと深いため息をついてシャーロットが答える。


「どう言う事だ」

「恐らく、お主らは自分達の力を付けた仲間がこんな数分で倒されるはずがないと思っておる……違うかの?」


 そうシャーロットに問われた三人は特に何も言い返せない。

 そして、それを肯定と捉えシャーロットは地面に落ちている石ころを弄りながら再び口を開く。


「そこがもう勘違いなんじゃよ、私らにとってお前ら他学園など誰でも同じじゃ、多少力量差の誤差はあれど全て丸く切り捨てられる」

「ほう、俺達が誤差だと」


 ギルガは少し怒り気味に答える。手のひらを強く握り自分を抑え込む。


「そうじゃ」

「ほう……だが、去年、お前を抑えたのは俺だ。結局数的有利に持って行かれ負けたが、さしではそう実力は変わらん」


 去年、ギルガは一度シャーロットと対戦している。ルールは違ったがバトルロワイヤルという形式は変わらなかったので好戦的なギルガは挑んだ。

 だが、結局決着をつける前に他の学園が全員やられ一人ギルガはレイ・クラウド学園全員を相手にし負けたのだ。


「はっはっは!!面白いのーギルガと言ったか。実にくだらん!!」


 その言い分を聞き、シャーロットは腹を抱えて笑い転げる。


「貴様!!」

「おい、まてギルガ!」


 ギルガは怒りで攻撃に出ようとするが、隣にいたハロに手を捕まれ静止される。


「おい、離せ。お前から殺すぞ!!」


 とんでもないギルガの重圧に気圧されハロは手を離すかどうか迷ったが、ここでギルガという戦力を失いたくないハロは何とか目で訴える。


「ここで怒り任せに行ったって相手の思う壺だ、冷静になれ!」

「俺は、至って冷静だ。邪魔をするな」


 遂に手を振りほどかれ、ギルガの周りには青白い静電気が漂い始める。


「くっ!カルア、あなたも手伝いなさい!」

「私は、ピルチの方をやる」

「はっ?」


 一切会話には興味が無く本を読んでいたカルアは急に言い出し、ハロは一瞬理解出来なかった。


「どうした、仲間割れかの……見苦しい……」

「ふんっ!元から仲間などではない。行くぞ!!」


 ギルガは全身に静電気と雷を自身に纏わせ、超速でシャーロットへ向かう。

 それと同時にカルアも横に歩いていきピルチとシャーロットを離すように距離を取りながら接近する。

 ピルチもそれを分かっているのか一対一をわざと受け入れる。


「くそ!こっちの気も知らないで!」

「気にするな、俺もそれは同じだ」


 コウザンはピルチと逆方向に歩いて向かう。それを追うように、ハロも歩き始める。


「ちょうどいい三対三じゃの」

「黙れ!はあぁあああああ!!!」


 わざと自分から三対三に調整したシャーロットは不敵に笑うと、一瞬で背後に回って来たギルガの方を振り向く事なく何もせず、その場に佇む。

 ギルガから放たれた拳によってこの辺り一帯の地面には亀裂が走り、電気を帯び、爆風によってフィールドの特性によって地面から百度を超える熱風が吹き出る。


 一発拳をふるってスッキリしたのかギルガは一旦シャーロットと少し距離を取ったところに位置を取る。


「痺れるのー相変わらず」

「嘘をつけ、シャーロット」


 ギルガは笑いながらシャーロットの方を見る。

 周りはギルガの拳によって吹き飛び、地面は割れ熱風が吹き出ていると言うのにシャーロットの座っている所は全くの無傷。


「確かにお主の言う通り去年の事を思い出す。まだ私も初めての出場じゃったからな」


 シャーロットは突然去年生徒執行会の副会長として現れたのだ。これまで色んな生徒が副会長に候補に上がっていたが、それら全てを蹴散らし、レイ・クラウド学園の副会長という地位を得た。


「はっ!初めてで、他の学園の生徒八割を一人で片付けたやつが何を言ってやがる!」


 後ろで結ってある己の髪を揺らしながら、ギルガは再びシャーロットに迫る。

 そう、去年シャーロットは学園の生徒の殆どを一人で倒した。だが、それは自分を抜擢してくれた会長のハル・クロ二クスの助言でもあり、シャーロットの目的でもあった。


「ギルガ・オウライ少し図に乗りすぎじゃぞ……」


 その瞬間ーー

 シャーロットの小さな背中からあり得ない程の重圧をギルガは感じ取るが、一度動いてしまったギルガは止まらない。

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