175話 参戦

 二人を包み込んだ光は周囲を包み込みながら膨らみ、約二分もの間輝く。

 やがて光は収束し、気づけばこの一帯には緑色の草木や花々が咲き乱れていた。

 だがアンナとアカメ、二人の間合い周辺はごっそりと地面が抉れており、両胸元を深く斬られたアカメは意識はあるが、全く喋れていない。

 本当にただ意地だけで立っていると言っても過言ではない。


 対してアンナは固有属性’暗根’状態を解き、普段の姿に戻っていた。傷は殆ど無く、ほぼいつも通りと言ってもいいくらいだ。


「ぐふっあ……あなた、何故……私を……」

「喋らない方がいいですよ、体に響きます」

「……」


 アカメは、途中で言葉を発することが出来なくなり、そのまま横に倒れそうになる。

 ここでアンナは助けようと考えたが、完全に倒れるまでは演技の可能性があるので、このまま警戒しながら見過ごすことしか出来なかった。


 いきなり襲われても困るので一旦アンナは距離を取る。


「あなたは……」


 着地した際に顔を上げアカメを見ると倒れたはずだったアカメをハル・クロ二クスが支えていた。

 そのままゆっくりと地面に寝かしてあげてアイテムボックスからポーションを取り出すが、アカメの様子を見て振りかけることをせず戻す。


 選択するアイテムにはここまでの重症の傷を直すほど高精度なポーションはなく、アカメの傷からハルは判断した。


「すみません……会長……」

「仕方ない、あれは相性悪すぎた」


 アカメは教師陣に回収されるとハル・クロ二クスはアンナとリゼラを見る。


「あなたは初めましてだね。まさかアカメを倒す一年生がいるとはね……さすがリゼラのとこの子だよ」

「仲間がやられているのに嬉しそうだな」

「こうやってまた君と、君達ルイン学園と戦えると思うとワクワクしてね」


 リゼラはアンナの横まで来る。

 ハルは仲間がやられたのに特に何かする訳でもなく、顎に手をやってふむふむと何か考え事をしていた。


「何をしているんだ?」

「ん?ああ……さっき何故アンナさんがアカメを捉えられたのか気になってね」

「それは……」


 アンナが答えを言おうとした所をリゼラは静止する。

 ここで解答を示そうともハルにとっては何のメリットもなかったが、リゼラは一応伏せさせた。


「いきなり答えは面白くないだろ」

「へぇ……面白いことするね。考えるに、あのアカメの太刀が当たった血の匂いからかなって考えてるんだけど……違う?」


 ほんの少しアンナは目を通常よりも大きく見開き、ハルにそれがあっていると示してしまう。

 ハルに嘘を嘘をつくのはかなり難しいことで、ちょっとした動作、空気感、筋肉の運動など様々な要因でバレてしまう。


「そうか、そこまではあってるか」

「はい」


 リゼラも諦め手を下げ、アンナに好きなように話させる。


「でも、アカメのあの力は匂いですら追いかけられないはず……なのにあれだけ微量の血液でよく追えたね」

「私は……そうですね、たまたまです」

「答えは教えてくれないか。残念」


 アンナもこれ以上先は言うのをやめる。

 構造的には単純だが、いたずら心が働きアンナは言うのをやめた。

 実際はアンナが固有属性を使うと、視覚が無くなりそれ以外の感覚がその分上がるので元々視覚がずば抜けて高く、アカメを捉えられていたアンナはその視覚の力の分他の感覚が強化されるので、嗅覚でも同様に捉えられるようになっていた。


「さてとおしゃべりはここまでにしてと……リアル!一旦戻れ」

「こっからじゃ聞こえないと思うぞ……」

「いや、あいつは耳がいいから」


 すると、ハルの横に小さな噴煙が現れその噴煙の中からリアル・シルバーが姿を現す。


「いつも早いなリアル」

「うるせぇ……暇してたからちょうどいいと思ってな」

「で、倒せたのかい?来ちゃったけど」

「だからうるせぇ!」

「その様子だと間に合わなかったみたいだね」


 リアルとハルは二人で何かと喋っているが、リゼラとアンナはベースが帰って来ないことに不安を抱いていた。

 せっかく、アンナが一人倒し、数的有利を作ったのでこの形勢を出来るならば維持したいというのがリゼラの思いだった。


「ベースか……」

「すみません……はぁはぁ……リアルを倒すどころか全く歯が立ちませんでした」


 薄い雲がリゼラの横に出現しその中からベースがリアル同様姿を現す。

 だが、リアルとは違い膝を付き、息が荒く、身体中に火傷跡を残し、相当量のダメージを負って帰って来たことだった。


「やられていないだけ十分だ。助かる」

「いえ、流石にここで落ちるわけにはいきませんから」

「ポーションないのか?」

「はい、もう使い切りました。既にポーションでどうにかなる傷ではないのでそこは大丈夫です」


 ベースはゆっくりと、太ももに手を付きながら立ち上がる。


「まだ、余力はあるか?」

「ふっ……まだまだありますよ」


 痛みがひどいのかベースは小さな歯ぎしりを立て、堪えながら喋っており、無理していることが十分に分かる。


「てか!アカメのやつどこ行ったんだ?」

「アカメはやられたよ。あのアンナって子にね」

「はっ!あいつまじ弱ぇな!もう退場って。終盤なら分かるけどよ!!」


 明らかに、リアルは怒りを露わにしていたがそれは口調だけで、何故か顔は怒っていなかった。


「相当相性悪い相手だったみたいだからね。ここは相手を褒めよう」

「あぁ!相性って、ハルはほんと優しいねぇ!」

「起きてしまったことにどうこう言ったってしょうがないさ、今は二人でどうするかを考えなきゃね。ただリアルは、そうは言うけどほんとは居なくなってくれて嬉しいでしょ」

「良くわかってるねぇ会長は!あいつがやる分俺が担当出来るんだから嬉しいに決まってんだろ!」


 ここにハルがいるので、リゼラはもう一つのチームの方を気にかけていた。

 そんなにすぐやられる連中ではないのでそういった面ではなく、単純にどこにいるのかということだ。

 まだ他にもレイ・クラウド学園には参加生徒がいるのでそちらと対峙しているのかはたまた、レイ・クラウド学園以外の学園と対峙しているのかいずれにせよ、そろそろ連絡を入れた方良いとリゼラは判断する。


 今はちょうど若干の隙があるのでアイテム’遠遠通通/リモート’を使おうと手にした瞬間ーー


「やはりそう簡単にはさせてくれないか」


 リアルの噴煙がリゼラの持つアイテムを的確に狙い火属性魔法が飛んでくる。その魔法はアイテムに直撃し燃やしきる。


「させるわけねぇだろバーカ!」


 燃えているアイテムをリゼラは放り捨てる。


「増援は期待せずやるしかないな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る