150話 オーパーツアイテム

レイ・クラウド帝国 レーン通りーー


「これが今回の実験体ですか?」

「ああ、そうだ」


 ミロクとジプロスは帝国の一角、一切人通りのない場所に来ていた。

 そして、ミロクとジプロスともう一人、気絶しているズ・バイト学園の生徒をジプロスが脇に抱えている。

 勿論三人は、ここまで来るまで一切人の目に触れていない。

 今は魔道修練祭のメインイベント中なので国民はそっちに目がいっており、警備の兵士や冒険者も本当の中枢の人達以外は意識が欠けているのでミロクとジプロスにかかれば造作もないことだ。


「ジプロス、ここからは姿を現してこの店を通る……」

「店ですか?そんなものどこに……」


 ミロクは視線を動かし、ここにあると訴えるとジプロスは不思議そうに首を傾げる。

 ジプロスが首を傾げるのも無理はない。

 何故なら、ミロクが指し示したのは地面に描かれている模様だ。しかも、別にここにあるだけの特殊な模様などではなく、向こうの道から続いている同じような模様の中の一個だ。


「ここは特殊な人間しか知らない店だ、姿を出しても問題ない。ただ、入ってからは俺が良いと言うまで一切喋るな」

「これはこれは……分かりました」


 ミロクはジプロスを軽く威嚇し、それが本当に重要なことを示す。

 そして、模様の上に立ち、足を二回、間をあけて同じ力加減で叩く。


 すると、そのまま俺達三人は地面に吸い込まれるように少しの浮遊感を感じ、景色が暗がりのバーのような雰囲気の場所に到着する。


「いらっしゃい……何にする?」


 カウンターにはマスターが一人立っているだけで客は一人もいない。

 そして、勿論問われても何も返してはいけない。

 そのままマスターを無視し、そのまま奥野部屋の扉を開く。 

 扉をあけると今度は宿屋のような長い廊下の左右に部屋が五十以上の部屋が並んでおり、ミロクは一つ部屋を選び、入室する。


 そして、扉を閉じると同時に扉についている小さな窓が無音で外から見えないように板のような黒いプレートが入る。


ーーこれが使用中のサインになる。


「喋っても良いぞ……」

「ふぅー……中々面白い場所ですねぇ……」


 ジプロスは早速気絶している生徒をベッドの上に放り投げ、部屋を物色しだす。


「ここはただの宿屋という感じですが……どうするんですか?」

「ここからこいつにアイテムを埋め込んで魔道修練祭のステージの中に送る」

「ボスもまた変なことをしますねぇー」

「まあ、実験みたいなものだろ……」


 アイテムボックスからこの世界の最高値のアイテム。オーパーツアイテムを取り出す。

 ただ、触れているだけで、ジリジリと熱を感じ、恐らくジプロスが持つと一瞬で焼けただれるほどだ。

 同じ組織内でもこのアイテムを無傷で触れるのはそういない。


「このアイテムは発動条件も分からなければ、アイテムの効果も分からん。それに、発動条件もこれが合っているという保証は無い……まさに人体実験だ」

「当たりだといいのですがねぇ……ミロクさん」

「ああ……」


 横たわる気絶した生徒の胸元に腕を突っ込む。

 軽々と腕が入っていき、肉を引き裂く感触と共に大きく生徒の体は跳ねるように動く。血液が勢いよく飛び散るので直ぐに作業を終わらせなければこの生徒が死んでしまうので即座に終わらせる。


 心臓の横にアイテムを配置するための穴を作り、腕を引き抜く。


 そして、オーパーツアイテムを胸元に埋め込むと、勝手に生徒の傷を癒し、縫合していく。

 その体は数秒で開いた傷を完全に修復を終える。


「ほう……」

「面白いですねぇーまるで意思を持っているような動きでしたよ」


 ジプロスは興味深そうに、まるであざ笑うかのように見ているが、確かに意思を持っているという点においては共感出来る。


「そんなに、面白いものでは無い……行くぞ」

「この子はほっといてもいいのですか?」

「既に転送する準備は整っている。このままで良い」

「そうですか……また喋ってはいけないですかね?」

「いや、この部屋を出たらもう外だ」


 ミロクは、扉を開けてジプロスに見せてやる。


「これはこれはまさか!外というのがこの世界のどこか分からない場所にとばされるとは面白いですねぇ!」

「落ち着け、別にこの世界のどこであろうと、またレイ・クラウド帝国に戻ってこなければならないんだ、行くぞ」

「また、旅の振り出しですか……」


 確かに振り出しだが、今回はオーパーツアイテムの考察をしなければならないので魔導修練祭が終わる前、出来ればアイテムの効果が発動している場面には出来るだけ遭遇したいので早く着きたいというのはある。


 そしてミロク達はよく分からない山の中に部屋から出るーー


 扉を閉めるとその扉は消え失せ辺りにはミロクとジプロス、そして上空に一体……


「おやぁ?ミロクさん……上に何か飛んでいません?」

「ああ、あの部屋を使った代償だ」

「代償?」

「あれだけ俺達からしたら便利な部屋だ、無償って方がおかしい」

「では、その代償と言うのは……」

「そうだな、この部屋の主の見たいという欲求を満たすといったところか……」


 上に飛ぶ魔物はこちらをジロリと覗き、ゆっくりと降りてくる。

 巨大な翼を生やしたその魔物は、全身を鎖のような物体で覆っており、緑色が特徴的な綺麗な姿をした魔物……並みの冒険者ではまず倒せないだろうな。


「見たい……ですか?」

「まあ、別に悪用しようってわけじゃ無い、本当にただの欲求だ」

「それじゃあぁあ!!」


 ジプロスは背中に背負っていた大剣を抜き放ち、目を見開く……

 すると、その魔物はゆっくり着地しようとしていたはずなのに、突然とんでもない重力で押しつぶされたように地面に不時着する。


「ぐぅぇえええええ!!」


 その後、体は無残に斬り飛ばされ魔物は原型が分からないほどにぐちゃぐちゃになり、朽ち果てる。

 そのまま、肉片は溶け水が蒸発したかのように、消え去る。


「……残念……」

「やったんだったら行くぞ、ジプロス」

「ミロクさん……これではストレス発散にもならないじゃないですかぁ」


 これだけ弱い魔物だと役不足か……

 流石に、これ以上フラストレーションを貯められると作戦に支障をきたしそうなのでミロクは困っておりいい具合にストレス発散を試みていたが、失敗に終わった。


「行くぞ、ジプロス」

「りょうかいです」

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