148話 なかなかの実力

「いい反応だね!」


 二本の腕でシロネはペルナの攻撃を何とかガードしたが、付け焼き刃みたいなやり方だったので軽く百メートルは吹き飛ぶ。

 途中の木々を背にぶつけ何とかそこまでの距離にはならなかったが、かなりの威力だった。

 シロネの両腕はジリジリと痺れ、二本ほど樹木を経由しているので背中にも痛みが徐々に浮き彫りになってくる。


「久しい痛みじゃ……これ、直撃してたらやばかったかのー」

「どうだ!私の、固有属性’獄拳’は!」


 ペルナの手は焼けこげたような黒さになっており、腕を振るたびにじわっと赤く灯っている。

 それは腕だけでなく、徐々に胸や足腰、背中まで侵食していきその姿は人間とは形容しがたい表皮になっていた。

 これまで、シロネは度となく様々な女性と戦ってきたが、ここまで己を犠牲にした奴は中々見ない、かなりの逸材だった。


 さらに言えば、ペルナの固有属性が起動してから他二人の様子も変わっていた。

 ハザマの方は、持っている剣の刀身ががペルナの腕のように黒くなり所々赤く静かに灯っている。

 少し離れた場所にいるシャルアは両手の指先が全てペルナのようになっていた。


 変化をざっと確認したところで、パッと立ち上がりユニフォームが汚れていたので、軽く払い影属性でユイとエーフの元へ戻る。


「姉弟三人よく似た属性じゃの」

「うん!よく言われる!」

「そうかの……」


 他の二人はまだいいが、やはり問題はペルナだった。

 さて、どうしたものか……


「シロネ、そろそろいいと思うんだけどどうかな?」

「わしは構わんよ、エーフはどうする?」

「二人がやるならやろうかな」


 シロネは初日からあまりやりたくはなかったが、特訓の成果とやらを確認するいい機会だし、早めに解除しておかないと慣れるまでに時間かかりそうだという理由付けする。

 そして、シロネ達三人の解除する合言葉は、


「あ」「い」「う」


 それぞれ一文字だけだ。

 もし、危機的状況になったら一文字の方がいいと思っていたが、まさかこんなに余裕で言えるとは思っていなかった。

 そして、ユイとエーフもシロネに続いて合言葉を言うとユニフォームが本当に軽くなる。

 だからと言ってペルネ達のように何か表面上が変わるわけではないが、内面の変わりようはペルネ達以上だ。


「凄いねこれ……」

「自分の体じゃないみたい」


 ユイとエーフは軽く体を跳ねさせて、体の感触を確かめている。そして、自信がついたのか二人の目つきが変わる。


「さ!やろうか!」

「ユイ、エーフ来るぞ!」


 ペルネはど正直にまっすぐ三人へ向かって走る。

 そして、そのペルネが視線誘導しているうちにハザマの方は木の陰へ隠れ、向かって来る。ペルネを支援するようにシャルアはさっきとは比にならない魔法の雨を降らす。


「ユイ奴は頼んだのじゃ」

「了解」

「エーフもハザマには目を凝らしておくのじゃ」

「うん!」


 シロネもペルネの方へ突っ込み、属性のことは一切考えない。

 後ろで、ユイは体勢を低くし弓を構え上を見上げ狙いをすまし、魔法に向けて矢を放つ。

 最初は一本矢が、弓から放たれただけだがしばらくすると上空で拡散するように矢が増える。


「ふっ!」

「っ!!」


 ペルネはポニーテールを揺らし、シロネの上空を体勢をひねりながら超えていく。

 そして、足を地面に着けた瞬間右足を軸に回転し勢いをつけ、蹴り上げる。その蹴り上げられた足をシロネは手のひらで受け止める。

 その蹴りもさっきものとは比べ物にならないくらいの衝撃が腕に走るが、今回はこちらも陰属性を腕に付与して緩和させているので問題はない。

 その軽い鍔迫り合いの状態になっただけでも共に押し合う力が周りの空気に振動が伝わり、地面に亀裂が走る。


「へぇー!やっぱり貴方は別格だね!」

「そんな余裕の顔してられるのも今のうちじゃぞ?」

「?」


 そうシロネがペルネから距離を取っても蹴り上げた時の体勢から動けていない。

 これはシロネの陰属性スキル<陰の沼地/シャドウスワップ>……このスキルは相手に触れないと発動できないスキルだが発動さえしてしまえば体の機能に制限をかけそう簡単に動けないようになるスキルである。


「うぐっ……」


 何とか抜け出そうとペルナは力一杯振り絞るが中々抜け出せない。 それを見て、シロネの後方からシャルアが魔法を放つが全てユイが打ち抜き、徐々に焦りが見え始める。

 さっきまで隠れていた、ハザマはシロネに攻撃を仕掛けようとはしているが、エーフのトラップや魔法、スキルによりエーフを相手にせざる終えない状況になっていた。


 そして陰属性スキルを発動したのと同時に、もう一つ影属性魔法<影転送/シャドウワープ>の影を残してきた。


「うぉあああああああああああ!!!」


 ペルネは力づくで抜け出したその一瞬をつき影でワープし、ペルネの目の前に即座に到着する。

 それを理解する間も無く、反応もさせる暇なく、シロネの両拳を腹直筋上部を撫でるように皮膚に触れた瞬間に捻りを加えて思いっきり拳を食い込ませ、もう一つ魔法を発動する。


「死霊術属性魔法<骨鉄拳/ボーンレン>」

「ぐぇああっ!!」


 殴った場所に二本の骨を埋め込み、その骨が砕けるまでの間ずっとこの殴られた感覚がずっと残り続けるという魔法。

 なので、一撃が重ければ重いほどその効果は倍増する。

 今回はまさにその重い攻撃しかも二つの拳分なのでそのダメージは耐え難いものになる。


 不意打ちでこれだけの攻撃が入ったのでいくら固有属性で体を強化していても、こちらはこちらで特訓で制限していたのを解放したのでその固有属性を軽々超えていく。

 そのままペルネの目から一瞬光が消えかけ、口から逆流してきた胃液を吐き出しながら吹き飛び、二転三転するが全く抵抗する様子がない。


「お姉!!くそっ!下がるぞハザマ!獄伝属性魔法<獄伝光/ライロード>」

「そんなことするわけねぇだろ!!獄刀属性魔法<獄斬り/キルギル>」


 ペルネが倒されたことを悟り、すぐさまこの場から後ずさろうと魔法を使うシャルアと、シロネを無理やり狙うハザマ。ここが経験値の差だった。

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