132話 暗雲
レイ・クラウド帝国 城壁ーー
「へえーここがあなたの故郷ですか……大きな国ですねぇ……」
「ああ、だがそれももう十年以上昔の話だ」
「この国じゃあなた超最高ランクの指名手配度なのでしょ?」
「だから、目立たないような格好にしてこいと言ったんだがな」
国の入国審査をしている門を眼下に、二人の男の内一人は横目でもう一人の方を睨む。
「いやー普通の旅人風な格好だと逆に目立ちません?」
そう言って睨まれた男はわざわざ口元のマントを下にずらすと、口元にある拷問跡の傷が無数に刻まれており、禍々しく残っていたので見せるだけの理由がそこにあった。
「仕方ない、正規ルートはやめる。まだあるかは分からないが俺が使っていた裏口みたいなものがあるあからそこから入ろう」
「普通にこの壁を超えても良いのでは無いのですか?」
「それはやめたほうがいい……」
「その心は?」
「単純な話だ、壁の上には常に兵士が巡回している、さらに感知系の属性の魔法が設置してある。それを抜けるとなると色々面倒でな」
「分かりました、では行きましょうか」
「今回は殺しはなしだぞ……」
「分かっていますよ」
二人はゆっくりと歩き出し、国の壁沿いを一定の距離を保ちながら裏口を目指す。
「そう言えば、ここまで色々旅してますが名前を聞いていませんでしたね」
「旅と言っても、ほんの数週間だがな。俺はミロクだ」
「私は、ジプロス……よろしくミロクさん」
「お互い……仲良くしましょう」
「ああ」
「そう言えばミロクさんは何故この組織に入ったのですか?」
喋る事が好きなジプロスはミロクに様々な質問をする。
喋る事があまり好きではないミロクとは人としての相性は良くなかった。
だが、放って置いても面倒臭いのでミロクは仕方なく口を開く。
「利害が一致したただそれだけだ。あまり詮索はしないほうがいい……聞くだけ無駄だ」
「ま、それでどうこうなるとは思わないですからねぇー」
「それにしても帝国は人が多いですねー」
「ああ、今魔導修練祭というイベントが開かれている。知らないのか?」
「ええ、私は基本こういったことに参加出来る機会など一ミリもありませんでしたからねぇ」
「ミロクさんはあるのですか?」
ジプロスにそう問われ、自分の過去を思い返して見るが実際ミロクもあまりこういったことに参加したことが無いことに今更ながらに気づく。
「こんな立場の人間にはそんな機会すら無いさ」
「人間ねぇ……」
マントで顔は見えづらいが確実にジプロスが笑っているのは分かる。
「何がおかしい」
「いえ、もう私は人間をとうの昔にやめているのでまだその心があるミロクさんに驚いただけですよ」
国の壁沿いに行くと、徐々に魔導修練祭での人混みは少なくなり、最終的には人一人いなくなる。
「ここだな……」
「ほう……これただの壁なのでは?」
二人の目の前には壁があるだけ。だが、ミロクの目に映っているのは、その一部だけ扉のようになっている。
「ジプロス、俺のすぐ後ろを着いてこい。俺の半径一メートル以内にいないと壁に潰されて死ぬことになる」
「成る程、分かりました」
ジプロスは何の疑いもなくミロクの後ろを着いてくる。この程度の恐怖などジプロスにとってみれば塵みたいなもで、特に臆する事なく進む。
ミロクは扉を開けるように壁にぶつかって行くと、壁をすり抜け壁内を歩き国内に抜ける。
後ろを振り向きちゃんとジプロスがちゃんといるかどうか確認するとちょうど壁から抜けてきたところで目が合う。
「あまり出来ない経験ですねーこれは……」
「行くぞ……もうすぐ試合が始まるはず、そうなれば動きやすくなる」
「土地勘のあるミロクさんにお任せしますよ」
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