131話 波乱な予感

「凄い人だなぁ……」

「バカでも緊張するのね」

「ぁあ!!!なんだとユイ!!俺はバカじゃねえ!」


 アキトはバルトに誘われて会場に行ったら、たまたまユイ達と出くわし、そこからバルトとユイはずっと喧嘩している。

 シロネやエーフがいるのでそちらの方にアキトは喧嘩に巻き込まれないよう少し離れている。

 まだ、開会式が始まるまでは時間があり、周りには控え室にいられないやつだったり時間前に出ておきたい人や興味本位など様々な理由で各学園の生徒が何人もいる。

 会場の観客席はもう殆ど埋まっており、雑音がこれまでに聞いたことのないほどのもので耳がおかしくなりそうだった。

 純粋な応援だったり、ヤジだったりと様々だが、ちょうど観客席の中央には貴賓席、いわゆる帝国国王が座る席が用意されている。


 本来は国王は城内から見るが今年は国王の気まぐれで特別の観客席が用意されている。

 まだその姿はないが、そういった人物なら何かしらけんの情報やシロネのことなど情報は持っていそうだとアキトは思ったが、まず喋る事は出来ないので即座に切り捨てた。


「アキトくんは……持ち込むアイテム選んだ?」


 エーフも緊張しているのか、いつもより口調が硬い。

 気合い入れなのか、制服の上から魔法使いのような黒いローブをただ一人着こなしている。

 久しぶりにこの格好を見たのでアキトは入学試験の時のことがフラッシュバックする。


「ああ、もう大体は決まってるけど……」

「えぇ!!じゃあシロネちゃんは?」

「わしも決まっておるぞ」

「ええぇ!!」


 エーフはまだ決まっていないのかかなり驚いた感じで、アイテムのリストを見ながらあれだこれだと唸っている。

 だが、こんな公の場所でそういうことをするのは好ましくない。それは、シロネも同じなのかこちらに目配せしてくる。


 いや、<和衷協同>で話してくれればいいのにとアキトは思ったが、そんなことしなくてもすぐに対処できるようなことなのでアキトは溜飲を下げる。


「エーフよ、わしと同じのにしておけば問題ないのじゃ、変わってくるのは持ち込む武器くらいじゃろうに」

「え!そうなんだ……私優柔不断だから……助かる!」


 エーフとシロネが控え室に向かって行ったのを見て、アキトは今もなお続いているバルトとユイの二人の様子を見るため振り返る。


「まだ、喧嘩してるのか?」

「あ!アキト聞いてよ!このバカがさっきから……」

「あ!ずりいぞ!ユイだけアキトに助けてもらおうだなんてよぉ!!」


 はぁー相変わらずこの二人は仲いいんだか悪いんだか……

 アキトは呆れながら喧嘩の原因を聞いてあげようとしたその時ーー


「ルイン学園の方々ですかね?」


 二人を他所にアキトは後ろから誰かに声をかけられる。

 振り向くとそこには細めのヒョロっとした変な笑みを浮かべた身長の高い男が立っていた。手足が長く、スポーツ刈りの頭、時よりゆらゆらと体を揺らす癖が目立つ。

 アキトは制服でどの学園とかは分からないが、明らかに良いイメージではない。


「ああ、そうだが何か用でも?」

「そんな警戒しないでくださいよー!まだ試合は始まっていないのですからー!」


 ヘラヘラとした態度で接してくるが明らかに何か含みのある言い方で、嫌でも警戒心は強くなる。

 後ろでバルトとユイもアキトの方を見て喧嘩を一時中止している。


ーーそれほど、異様なやつなのだ。


「こんな大勢いるところで話しかけられれば警戒もするだろう、これから敵になるのだから……」

「うーん……確かにそうですねぇ……では!私はズ・バイト学園所属、ムルド・ラクシーと申します……生徒執行会の副会長をしております」

「生徒執行会か……ならば三年か……」

「いえ、私は一年生ですよ。ルイン学園のアキトさん」


 アキトはムルドを睨むように見てしまう。

 それを楽しそうにムルドは眺めるので、アキトは考えるのが馬鹿らしくなり、適当に会話を進める。


「で、改めて聞くが何のようだ?こんな俺なんかに一々挨拶に来るもんじゃないだろ」


 ここで反応しても良いが、あえて今回は聞いてないことにする。


「アキトさんがいう通り、挨拶ですよ単なるね……」


 ムルドはそういうとそっとアキトの前に手を出す。

 アキトは、無意識に反応してしまい、そっとムルドの手を握る。その瞬間、ムルドは瞳の奥で笑ったような感じが遮ったが、気のせいだろうと自分の中で落とし込める。


「へぇーよろしくな!俺はバルト!!」


 アキトが握手をし終えた途端、バルトが後ろから話しかけてきて半ば強引にムルドと握手をする。


「え、えぇ……よろしく」


 突然だったので一瞬反応が遅れたムルドは半分程度しかバルトの手を握れておらず、何も詮索しないバルトの純粋な行動に驚いているようだった。

 そのままムルドは去って行き、結局本当に挨拶をしただけだった。


「アキト、大丈夫だった?」


 少し心配そうにユイが話しかけて来る。


「いや、ただ挨拶しただけだぞ?何かあったのか?」

「うん、先輩から聞いたんだけどあの人、今朝からずっと一年生にだけ挨拶してるんだって」


 それを聞いて、ますます怪しさが増すが今はどうしようも出来ないのでアキトは頭の片隅に置き今考えるのはやめる。


「まあ何にせよ、俺達じゃあ今から警戒するくらいしか出来ないからな」

「そうだね、一応三年生にも伝えて来る」

「ああ、分かった」


 ユイはこの場を離れ、結局アキトとバルトの二人だけになってしまった。

 時間が徐々に迫ってきていたので、アキトとバルトは一旦自分が並ぶ待機列に移動する。

 列には同じルインの学園の生徒がいるので安心感があって良い。

 もう直ぐ始まるサインなのか徐々に人が控え室が出てきて、周りの観衆の熱も徐々に上昇しているのが分かるほどあたりはさらに騒がしくなる。


「もうそろそろだな」

「おうよ……やっと兄貴をぶっ飛ばせる……」


 アキトはそれを聞いてバルトとの過去の記憶を辿っても直ぐには出てこないので諦める。バルトの表情を見る限り、あまり良い雰囲気では無いので一応喚起しておく。


「バルト……それもいいが、やるなら最後にしろよ」


 こういう、真っ直ぐやつはいつ突進してもおかしく無い……ちゃんと見張っておかないと大惨事になりかねない。

 結局アキトも調べたいことを調べられなかったむず痒さが残っているので、魔導修練祭を早く終わらせて、帝国での滞在時間の残りをそれにあてたいと密かに思っているので、あまりバルトのことは言えない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る