127話 決意表明

レイ・クラウド帝国闘技場’バーテンダー’控え室ーー


 扉が静かに閉まり、ユイ、エーフ、シロネの三人がいなくなることでこの場は再び静寂に包まれる。

 ツランのメイドは飲みかけの食器を片付け、もう直ぐ始まるイベントの衣装の準備を開始する。


「ツラン様、準備が御座いますので奥の部屋へどうぞ」


 一番信頼している、昔からの知り合いで幼馴染のメイド、ウレミに連れられツランは着替えるため、いつもの部屋へ入る。

 この部屋は、ツランとウレミだけしか入れないようになっており、厳密性を有する事などをここで話したりする。

 ここでは、上下関係は一切無し、むしろツランが下になるレベルなのだ。


「ですが、良かったのですか?せっかくユイちゃんに会えたのに」


 ウレミは昔、ユイの事をよく面倒見てくれていたのでユイとは親しい仲だ。

 外見など色々昔と変わっているのでウレミだという事は気づかれなかったが、ユイは若干感づいていたんじゃ無いかとツランは思っている。


「いい訳ないだろー!!」


 ツランは、ふかふかのベッドにダイブし顔を枕に埋める。


「ほんと、昔からあなたは妹の前だと本心を言えないですね」


 ウレミの言葉にツランはぐさっとくるが、反論出来ないから困る。


「でも、あの子があそこまで強くなってるとはね……」

「ええ、それは同感ですね。ユイちゃんが学園に入る前に一度お会いしましたが、あそこまで成長するとは微塵も思いませんでしたよ」

「でしょ!!さすが私の妹ね!!」


 衣装タンスから適当な衣装を見繕い、ウレミが着替えさせてくれる。


「ですが、いいのですか?あんな事言ってしまって」

「うん?」

「ほらツラン、あなたが認めないとなんちゃらって……」

「うぐっ……」

「はぁーまた、考えなしに言ったのですか」

「だってさー!私だってユイには村に帰って安全なとこでいてほしいもの……」

「はぁーそろそろ信頼してあげてもいいんじゃないですか?」


 ウレミは少しからかうようにツランを詰める。


「心配性なんだもんしょうがないじゃん!!」

「ですが、このままだとあなたの元に来るのも時間の問題じゃないですか?」

「そうだった!!どうしようウレミ……」

「あのね……」

「大丈夫よ……あの子はお父様似ですもの……」

「そうだったわね……今年はお墓参りしたの?」

「ええ……もちろん」

「あれからもう五年……早いものね」


 ツランの父は帝国でも、有名で上位に位置していた冒険者だった。 だが、五年前にあった帝国と皇国の戦争でかなりの数の冒険者と帝国兵士が命を落とした。それに、ツランとユイの父は巻き込まれてしまった。

 戦争をしていると言っても、帝国と皇国は毎年軽い小競り合いが行われているだけだった。これは、ある程度相手の資源を蓄えさせないという理由もあるが、お互い今戦争を始めても勝った方のメリットが少なすぎる為に軽い小競り合いで済んでいる。


 だが、五年前は違った。

 帝国と皇国が取り合っている領土、’ボルガ丘’という場所があり、そこで毎年行われるが、その日は様子がおかしかった。

 いつもなら、開戦の合図と同時に両国が動き始めるが、その時だけは皇国側の兵士達は一切その場を離れなかった。

 代わりに、相手側が建設した高台に一人の青年が立っていると、部下から情報を受けた次の瞬間ーー


 その青年の魔法かスキルか分からないが、数キロも離れているはずなのに目につくほどの、巨大な属性の陣が天に連なり巨大な地鳴りと光を生み出した。

 そして、父は瞬時に何が起きるか察知し、近くに立っていたツランを押し倒した。

 昔から、ツランとユイの父は自然好きの野生児だった、そのため危機察知能力に長けていた。その一瞬の変化で、ツランを守るために押し倒したのだ。


 その刹那ーー


 まばゆい光と共にツランのいた右翼の半分の人間の命をその光は葬り去って行った。

 父はツランに覆いかぶさるような状態でいたが、ちょうど半分……背中側半分をその光によって消し飛ばされていた。

 その攻撃の恐ろしい所は、死体が一切残らないとこで、文字通り消し飛ばされていたのだ。


 本来、小競り合いで済む戦争がだったはずだったものが、約一万もの兵士と冒険者が亡くなるという、とてつもないダメージを受けたのだ。

 勿論、こちらは撤退しか出来なかったし、それ以降皇国との仲は最悪。

 この間も、国同士の会談があったそうだが、皇国と帝国は不参加でもう成り立っていない。

 そして、それ以降ツランは、ユイに同じ目にあって欲しくないとこちらの道を諦めるよう説得して来たが、とうとうここまで来てしまったのだ。


「ユイちゃんにとってはたった一人の親だったものね」

「ええ……」


 ユイとツランの母はユイが生まれると同時に死んでしまい、ユイにとってたった一人の親だったのだ。


「それに、あなたこそ大丈夫なの?」

「勿論、悲しかったけど。私があたふたしたらユイに示しがつかないでしょ!」


 姉は常に妹を導く存在でないといけないのだ、そんな事でツランはくよくよしてられなかった。


「ほんと、あなたは変わらないわね」

「何を!!」


 ツランが、ウレミの苦手な脇でもくすぐってやろうかと思ったが、その体勢に入る前に腰あたりの紐をきつく締められる。


「ほら、出来たわよ」

「あ、ありがと」


 すると、外が騒がしくなり、イベントの始まりを知らせてくれる。

 二人は顔を見合わせると軽く笑い合う。


「それじゃ、行ってくるわね。後は頼んだわよウレミ」

「はい、分かっております。行ってらしゃいませツラン様」


 二人は部屋を出て、いつも通りの口調に戻す。

ーーユイのを見る前にまずは私の方ね……

 あまり、乗り気ではないのが体に現れているのかツランは少し体が重く、これから相手にするだろう化け物の事を思うと例えただの手合わせってだけでも考えたくなかった。

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