99話 領地

 レイ・クラウド帝国……全ての国の中で一番北部に位置し、豊富な食料資源から食料系の産業が豊富であり、レベルが高い。

 いい食料はいい体を作り、軍事産業にも強く他国に引けを取らない。軍事面は魔法やスキル特化の法国や武器やアイテム特化の皇国、回復アイテムなど医療に特化した聖王国に対し帝国は兵士の潤沢さが売りだ。

 どんなにアイテムや魔法、スキルが優れていてもそれを使う人がいなければまず成り立たないというのが帝国国王の考えだ。


 帝国の北側は雲よりも高く頂上付近は岩肌が隆起した山々に囲まれている。しかもその山々は北へずっと続いており高さもさほど変わらないので好奇心旺盛な冒険者が何人もの挑戦者が向かって行ったがその半数の人間が引き返し、もう半数は帰らぬ人となっているほどだ。


 山という環境、その地で成長した強力な魔物など理由は様々。


 なので帝国が後ろから責められることはまず無い。未開拓地だからこそ他国からの攻撃を受けない点の他にも山から流れてくる水は綺麗なので帝国の食料産業に一層の磨きがかかる。

 よく山から降りてくる魔物がいるのでそこに資金を費やす必要があるがデメリットに比べてメリットの方が大きいので苦にならない。


 そして、帝国内の中央北部側に王族の敷地がありさらにその中心にこの地を統べる帝国国王がいる城が聳え立っている。

 どこの国の王も上から指示を出すただの老いぼれではなく皆一線級の実力の持ち主だ。実力といってもただ力が強いだけでなく、戦略面やカリスマ性などの上に立つものとして持つべき物を持っている。


 帝国の人口約二十万人、その内王族や貴族といった高位な存在が約八千人という比率になっていて帝国に支えている騎士は一万人弱いる。戦時などは国民も動員し兵士として戦う制度もあるので一年に一度各地で鍛錬する機会がある。

 主に成人男性だが、各地で一斉にやると労働力がなくなるので各街や村で一年目は半数が次の一年はそのもう半数の人間がといったようにローテーションでなんとか切り盛りしている。


 その際、本当に労働力が足りない場合は冒険者組合からの派遣(税金)もあるのでサポートはしっかりしている。

 帝国の人口は二十万人だが、これは帝国国内にいる人間の数で村や街の人間はカウントしていないので実際はもっといる。それに、兵士の動員の際私達村や街の人も戦わなければならない。


 冒険者組合は独立した組織でどの国にも属さないと表向きはあるが、結局その国に雇われ兵士として使われている。



 あれから一時間経ちウタゲ達は一向に帝国に入ることが出来ない。 審査する箇所は四つあり一つの大きな列を三つの審査口に誘導している。もう一つの入り口には貴族達が悠々と入っていくのが見える。


 審査口を解放して四つにすればもっとスムーズにいくし、貴族達の方には人員も三つ合わせた人数分が一つの審査口にいるので効率が悪い。

 ウタゲは気づくとさっきから膝を縦に揺すってイライラが思いっきり態度に出ていた。それに待ち時間についてイライラしていたが審査時間、審査をする人間の作業スピードにもイラついている。


「なかなか終わりませんねー」


 ツルミも窓の外を眺め「はぁ〜」とため息をついていた。

 すると、御者の人が帰ってきて荷馬車を進める。列を外れてそのまま四つ目の審査口に向かう。


「いやはや……お主らだったら四つ目の審査口を使えるのすっかり忘れとったわい。はっはっは」


 笑いながら説明する御者爺さんに聞こえないようウタゲは舌打ちをする。完全に御者の爺さんは四人の事が学園関係者だという事を忘れていた。


 それからはスムーズに入国審査を終え宿屋に向かう。学園によって帝国から宿屋を提供されている。

 紹介された宿屋に到着し、時間まで部屋で待機する。時間になったら一階に集合になっている。この宿屋は三階構成で一階は食事処やロビー、二、三階が客が泊まる部屋だ。当然今回も全員一部屋ずつ割り当てられている。


 ウタゲはこのまま部屋にいると寝てしまいそうなので一階の食事処でちょっと遅い昼ごはんを食べて時間を潰していた。

 

 ちょうど食べ終わった頃、集合時間なった。

 ジルとツルミ、リゼラの三人は部屋で待機しておりそれぞれ十分前、五分前、時間ぴったりと五分置きに集合する。


「さてと、それじゃ王族領に向かうかの」


 今回会議が開かれるのは王族領の人間がよく会談などで使用する屋敷を貸し切っている所だ。この魔導修練際は帝国主催なので普段入れないような王族領にも入れるが、ウタゲはこの雰囲気が苦手だった。

 

 もちろん帝国にも魔導学園はあり、王族の人間も通っている。全ての魔導学園で一番レベルが高く、毎回魔導修練際の優勝校だ。故に他の学園は二位争いをしている。

 これも別に接待や優遇されているというわけではなく個人のスペックが高すぎるのでただただ、実力で勝てないだけだ。

 ウタゲの見解だが、ルイン魔導学園の生徒三人分でやっと帝国の学園の生徒一人分の実力しかない。


 帝国内も馬車で進む。だが、帝国の王族領に入るため御者が代わり、馬車も豪華になる。

 貴族が乗っていそうなほど高級な外装と内装になっていて広さも1.5倍ほどになっている。さらに馬車を進める御者の人の他に専属で執事が同行しており飲み物や食べ物を提供してくれてたり王族領内を案内してくれる。

 帝国には馬車が通りやすいように道路が舗装されていて、歩行者との事故が起こらないよう区別されている。

 

 二十分ほど馬車を走らせると王族領の入り口が見える。

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