98話 ミニサイズ
今日滞在している村はざっとだが住人三百人以上はいる。村の大通りは人で溢れかえっており仕事を終えた人、買い物している人など様々だ。
その中をウタゲは出ているお店などを覗きながら良さそうな食べ物を買い込んでいた。学園には無いものや村限定品もあったのでついつい手が伸びてしまう。
買い物をし終えた頃にはすっかり日も暮れ辺りは店や建物に付いている灯りが光を放ち、村を照らし意外と明るく足元や周りはしっかりと把握できるほどだった。
買い物をし終えて宿屋に帰る途中ウタゲはさらにもう一軒寄って食べ物を追加する。
ウタゲは宿屋に戻るまでに我慢できなくなって串肉焼を頬張る。この串肉は、肉を刺し上から特製のタレをかけたブリンディシという名前の串肉焼だ。シンプルだが超味の濃いソースが荷馬車での疲れを吹き飛ばしてくれる。
ブリンディシに舌鼓を打ちながら気分良くウタゲは歩いていると不注意から人にぶつかってしまう。ウタゲの背が小さかったからか相手の腹あたりに顔をぶつけてしまう。
「おっと。申し訳ないですねぇ〜大丈夫ですかぁ〜」
「こちらこそすみません私の不注意……」
ウタゲは顔を上げるとそこには二人の男性が立っていた。
背丈には合わない大きな青黒いマントを装備の上から被せて着おり、顔の目元から下までの全身を隠した服装の男性が目だけでにこやかに笑いかける。マントには見たこともない文字が金色で刻まれていてどこか不気味さが際立つ。
マントの下からわかるほどウタゲがぶつかった男性は背中に背丈以上の大きさの大剣を背負っている。
「おやおやぁ〜迷子かなぁ〜」
「いえ……私は迷ってはないので大丈夫です!」
何か不気味な雰囲気を感じ取ったので、ウタゲは挑発に乗らないよう我慢し笑顔で返してわざと子供っぽく振舞ってみる。
「おい……その少女をからかうのもその辺にしろ。ここには無い、次の村に行くぞ」
「分かってますよぉ〜それではぁ〜」
もう一人隣いた同じ種類のマントを羽織っており黒髪で若い男性ということくらいしかウタゲは分からなかった。ウタゲがその人を見たときなぜか目に惹きつけられ少しの間目を反らせなくなるほど体が硬直し、そのままその二人が通り過ぎるまで動くことが出来なかった。
そして、ウタゲが動けるようになり振り返れるようになった時にはもう二人の姿は消えていた。
「なんだったんだ?」
ウタゲは不審に思うが、今はそんなことより早く宿屋に戻って夜ご飯を食べたい気持ちの方がが強かったのでそこまで気に留めず道なりを進む。
さっきぶつかった際に串肉焼を落としてしまったのでついでに三つ買い足して宿屋に到着する。
**
次の日、再び荷馬車に乗り帝国を目指す。
「いやー昨日はぐっすり眠れたわい。やっぱりベッドはええのぉ〜」
ジルはこの荷馬車の揺れで眠くなったのかあくびをしながら言うのでまったく説得力がない。
そんなことを思ってはいるが結局昨日食べ過ぎて、ウタゲはそこまで言う気にはなれず、今日は今の所一言も喋れていない。
それに、飲み過ぎて頭も痛いし気分は最悪だった。
「……」
ジルのボケに誰もツッコむことなくそのまま静かに目を閉じ寝てしまう。
あの秘書のツルミですら朝からずっとうとうとしながら仕事をやっているが限界に達したのかかれこれ一時間位寝ており隣に座っている生徒執行会長のリゼラは目を瞑って瞑想しているしで、一人で何とかツッコんでもらおうと必死に独り言を喋っていたジルが可愛そうに思えるほど荷馬車内は静寂を貫いていた。
今でも聞こえるのは馬の鳴き声や御者の独り言、車輪と大地との摩擦音や小石などの障害物を弾き飛ばす音など静かといっても人によっては騒がしい。
窓のカーテンを開けて外の光を入れる。ちょうど昼過ぎで強い日差しが荷馬車内に入り込み空気が一転する。
この光で秘書のツルミが目を擦りながらゆっくりと体を起こすと現実を知ったのか愕然とし涙を流していた。
残っていた仕事を途中やりのままで寝てしまっていたのでその悲しみから涙が溢れていた。
昨日もほとんど寝ずに仕事をこなしていたツルミだが、本来はこんなに仕事があることはないはずなんだがなぜかいつ見ても仕事をしている。
別に作業スピードが遅い訳でも、容量が悪い訳でもない。
ウタゲがそう思った途端この疑問が後々まで残りそうなので重たい口を開く。
「ツルミさんって何でずっと仕事してるの?」
「えっと……私先に終わらせたい性格なのですよ。で、先に先にって思ってたら一年分の仕事を終わらせてたんです。これには学園長には怒られました……あはは」
「いやいやどんだけ凄いんですか!」
ツルミの凄さでウタゲは頭が痛いことを忘れさらに深掘りする。
「凄くは無いですよー終わらせるって言ってもこうやってその場その場の仕事は終わらせることは出来ないので確実に来年までにやらなければならないプラス今終わらせられるものに限られますからね」
「もうちょっと休んだ方がいいですって」
「私あんまり休むことが好きじゃなくて……こうやって頭とか体動かしたりする方が好きなんです。でもこうやって力尽きたら長時間寝るんですけどね……」
ツルミが仕事人間だっていうことは分かったがこのやり方は体には良く無いので心配だった。
「おーい。帝国ついたぞー」
窓を開け御者の爺さんが四人に向け言う。確かに窓から外を見ると他の荷馬車や冒険者や騎士が行き交い巨大な外壁が横にずっと伸びている。中央に見える巨大な門には帝国のシンボルが刻まれておりリ・ストランテを遥かにしのぐ豪華さと人の多さや大きさなど破格だ。
それから数分荷馬車を走らせ帝国への入国審査待ちの荷馬車の列に並ぶ。
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