96話 決定事項

ーールイン魔導学園 ウタゲ宅


「あら?どうかしたのウタゲちゃん」

「いや、もう学園長から魔導学園祭についての詳細事項が届いた」


 ウタゲは貰った用紙を開きシェルに渡し見てもらう。


「内容は別にいつもとあまり変わらないけど……早いわね……」

「そうなんだよな……いつもなら後三ヶ月後くらいに説明を受けるんだがな異例だ」


 ウタゲはシュガースティックが切れたので新しくポケットから取り出し咥え直す。


「で、これは生徒達にいつ伝えろって?」

「そこは、いつもと変わらず三ヶ月後だ。んでそこに書いてある通り帝国にルイン魔導学園代表として学園長と私で行くことになった。あのジジィとだと調子くるうからなぁ……面倒くせぇ」

「じゃあウタゲちゃんが居ない間は私が授業?」

「まあそうなる。明日から出るから授業は頼んだシェル」

「任せてよ」


 シェルはドヤ顔で胸を叩く。

 シェルはこう見えてウタゲよりも博識なところがあるので授業に関しては問題ない。

 だがこのゆったりとした喋り方で寝る奴が続出しないかウタゲは心配だった。


「あ、期間は?」

「一週間だ。明後日は休みだから実質六日だがな」


 リ・ストランテから帝国までは距離があるので行くだけで日数を取られてしまう。


「はぁーあの教師達と会議となるとほんと嫌になる……」

「もし何か言われたら遠慮なく言ってね魔導学園祭の時に制裁を下しーーいたっ!」

「やめんか」


 ウタゲはシェルにチョップしてその以上の言葉を静止する。

 ウタゲ自身心配してくれるのはありがたいが、シェルが暴走すると大変なので早いところで芽を摘まないと大変な事になる。


「まぁ例年この学園は最下位だからな立場が無いに等しいんだよ」

「そうなのよねぇーでも今年は逸材が揃ってると思うから大丈夫よ!!」

「その言葉何度目だよ……去年も同じこと言ってたからなー」

「何年か前に皇国の学園に現れた最強一年生みたいな子が出てくるかもよ」

「あのなーそれ都市伝説だろ」

「でも、ロマンあるじゃないー!」


 シェルは頬を赤らめながら少し上を見てニコニコと想像する。

 確かにロマンはあるがそんな奴そうそう出てくるわけがない。魔導学園祭の一回戦で三年生相手に圧倒的な実力差を見せたのにも関わらずリタイアしたってていう噂が流れてるかそれさえも本当かどうかウタゲ達には分からない。

 

「じゃあそうなるようにうちのクラスのやつらを特訓しといてくれ」

「うーむ……むむむ……」

「おい!面倒臭いんだろ」

「まあね!それにまだ座学が残ってるから実技系は先だよ」

「はぁーシェルお前なー……」


 シェルはウタゲにはあまり見せないが隠れてやっている事をウタゲは知っているので嬉しかった。


「お土産何がいい?」

「ウタゲちゃんが買ってきたら何でもいい〜」


 その日はウタゲの部屋にシェルが入ってきて出て行けと言っても全く言うことを聞かず結局ベッドで二人一緒に寝てしまった。


 うーむ……こう言う時にシェルにはどうしても強く出れないと言うか目が怖いんだよなほんとに。

 ウタゲはそう思いながらも安心しているのかその日は意外とぐっすりと寝ることが出来た。


**


「お尻痛いなこれ!」

「ほっほっほお主は荷馬車に慣れてないのかの?」

「そんな乗んねぇからな」


 四人用の荷馬車に乗りウタゲ、ジル、ツルミ、リゼラの四人はレイ・クラウド帝国へと向かっていた。

 ルイン学園にはルーエが無いのであまり良い荷馬車に乗る事が出来ないので振動がもろに伝わり、お尻も痛くなる。


 ウタゲやジルやツルミの三人は理解はしておりしょうがないがやはり良い荷馬車で楽に移動したいと考えていた。

 ウタゲはシュガースティックの箱から一本取り出し咥える。


「これってあとどれくらいで着くんですかね学園長……」


 お尻を摩りながら学園長ジルの秘書ツルミがジルの代わりに書類に目を通しながら言う。


「さぁのーわしもさっぱりじゃ。なんせ今年からの就任じゃから、リゼラくんなら分かるんじゃないかの?」

「……あと一日ですね。このまま順調に行けばですが……」


 なぜか異様な間が空いたあとリゼラはゆっくりと答える。ルイン学園トップの実力を誇るリゼラは発する言葉も密閉された空間だと重く聞こえてしまう。

 ウタゲはそんなことを呆然と考えていると隣に座っていたくジルは寝てしまった。

 今日で二日目もう間も無く昼だ、到着が明日と考えるとまだまだ先になる。


「それにしてもいいのかこんな所に学園の戦力を集中させてしまってよー」

「それは問題ないですウタゲ先生。俺が居なくても執行会がどうにかしますし、先生方にも優秀な方は沢山いるので問題ありません」

「いや、外部からは大丈夫だとは思うんだが……どっちかって言うと生徒同士のいざこざの方が心配何だがな……」

「あーこの間の白聖クラスの……」


 ツルミはこの間の報告を思い出し苦笑いをする。

 ウタゲも正直白聖クラスの生徒を一人であそこまでひどい状態にするとは思ってもいなかった。


「確かに白聖クラスの人達は手を出すことは無いでしょうが他のクラスが心配ですね」


 リゼラはジルと同じくもうすでに目を閉じ仮眠を取っていた。


「えーっと学園長の秘書の……」

「ツルミ・シユです」

「ああ……ツルミさんは去年の魔導修練際には参加を?」

「いえ、私も今年から学園長と同時に就任したので分からない事だらけですね」


 ウタゲとツルミはジル達が寝てから色々喋ってはいたが、今日の夕方に中継の村に到着するのでそれまで時間が余ってしまい、暇なので結局寝るしかなかった。荷馬車は幸いなことに四人が大の字で寝ても大丈夫な程大きい。


 ウタゲとツルミも少し仮眠を取ることにした。

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