95話 椀物

 アキトはちょうど時間を見てみるととっくに午後の授業時間は終わっていて時間帯的にはちょうど夕ご飯だった。

 倒れているルナにポーションをかけて直したが今日はまだ初日ということで終わりになった。


 だが、ミルゲリオスとの戦闘に夢中になりすぎてか時間が意外と経っていたことに気づいたアキト達はそれぞれ別々に地上に戻ってきた。

 ルナはこの後、魔導書館で少し用事を済ませてから寮に戻るのでアキトは一人寮に戻り食堂で夕ご飯タイムだ。

 今日は色々あって精神的に疲れており、ゆったりとのんびりと夕ご飯を食べていると特訓が終わったのかトルス、バルト、エルの三人が食堂に入ってくる。


「お!アキト!どこ行ってたんだー」


 お盆に椀物のご飯を何種類か置きアキトが座っているテーブルに三人共座る。


「ちょっと魔導書館に用があってな」

「でも第一の魔導書館って人多かったからなー僕は距離置いてるな……

「俺も第一の魔導書館には懲りたから第二の魔導書館使ってるよ」

「え?第二なんてあるの?」

「ああ、この寮の近くにあるんだ」

「へー知らなかった」

「それにしてもみんな泥だらけだね」


 相当激しく特訓するので制服を着ておらず、皆上の制服を脱いで中のシャツだけでやっていたので汚れがよく目立つ。特訓していると暑くなり制服を脱いでしまうのだ。


 アキトも制服を汚してしまったので先に風呂入って洗濯して今自室のベランダに干してある。

 今は運動着だ。


「うん今はアキトやバルト、シロネに負けないようみんな特訓に躍起になってるからね」

「え?そうなの……」

「あの二次試験の時は凄かったからなそれからみんな意識しているぞ」

「まじか……」

「魔導修練際に向けて三人に負けないよう特訓してるんだよ。シロネはエーフとユイの三人で特訓してるみたいだしね」

「ま、俺達は仲間であり、ライバルみたいなもんだしな!」

「男の性だねバルト」

「おうよ!」


 バルトは、口の中に食べ物を含んで喋るのでアキトの方に飛んでくる。こう言う話はもう少し後ですれば良かったとアキトは後悔する。勿論バルトは気づいていない。


 それからは、特訓内容などを色々喋ってそれぞれ自室に戻る。


 アキトはベッドの上で明日のレベル上げについて考えていた。

 まずはルナが一人で魔物の卵の魔物レア度Bを倒せるようになったら今度は二人でレア度Aをさらにレア度A二体に段階的に上げる。


 あと半年でどこまで行けるかは分らないが最終的にレア度A二体と一人で相対しても動じないレベルに強くなれればいいと思っている。


 アキトも後レベル三上がれば良い方かなと思っており、流石に経験値量がレア度Aなので多いのだが午後からだけなのと一体を倒せれば良い方なのでレベル上げとしてはあまり良くない。


 レア度Bを十体くらい用意して倒していったほうが早いがやはりギリギリでの戦いをしないと努力レベルが上がらないし緊張感を持たないといざという時に臨機応変に対応出来なくなる。


 そんなことを天井を見ながらぼんやりとアキトは考えているといつの間にか眠ってしまった。



 次の日からはアキトとルナは本格的に特訓(レベル上げ)を始めていた。


「はぁあああああ!!」


 ルナはレア度Bの魔物の首を刎ね飛ばし一回転して綺麗に着地する。だが魔物はその刎ねられた首を掴み取りはめ直す。

 今日のルナ相手の魔物は鶏のような鳥類の形をしており人並みに大きい姿をした魔物だ。今は急所を探している最中で、首を刎ねても元に戻してしまう。


 魔物の持つ羽毛の中に弱点があるのではとルナは思うが、持っている刀剣じゃ届くかどうか分からない程の厚みを有している。

 対してアキトはレア度Aの魔物、ルナが前戦っていたゴーレムの真っ黒なバージョンだ。

 ゴーレムは物理防御は魔物の中でも結構上に位置しているが魔法やスキルへの耐性がその分脆弱なので後方から魔法、スキルを打ち込んでいるだけで勝てる。

 ゴーレムは移動速度が遅いのでこういった広い場所では基本負けることはない。ゴーレムと対峙したくないのは深手を追っている時や狭い場所での戦闘時だ。特に深手を追っているときなんかは絶望的だ。


 アキトはレア度Aの魔物を三体とレア度Bの魔物五体を狩った。その間ルナも四苦八苦しながら何とかレア度Bの魔物を一体倒していた。


 というのもルナには固有属性の使用を禁止してある。あれを使うと一回でバテてしまうので固有属性を使っても問題なくいられるぐらいになるまでは属性の魔法、スキルと剣術、体術で戦わせている。


「そういえば今日ウタゲ先生休みだったわね。出張?ってシェル先生は言ってたけど」

「まあ、おおよそ魔導修練際の先生同士の会議みたいなものだろう。学園長も居なくなってたからな」


 一旦休憩として、おやつ代わりに学園の売店で見た目はビスケット中身にホイップクリームが入っているお菓子を購入したデザートを食べている。

 アキトは結構直感で適当に取ったものを買ったのでなんて言う名前だったか覚えていないが。疲れたときの甘いものは、ほんと身に染みる程美味しい。


「それにしてもこのお菓子美味しいわね!」


 お菓子を口に含み身を捩らせながら頬に手を当て美味しさに浸るルナ。

 これにトマトジュースを付け合わせるとまさに最強タッグの完成である。


「あ!思い出した。確かクイップっていう名前だった」

「へぇー私も今度買おうかしらね」


 この学園は食べ物の種類が豊富でアキトがアイテムボックスを開けなくても十分なほどの料理は揃っている。毎日日替わりで色々なお菓子から朝食、昼食など様々な売店や出店があるのでまず食べ物に飽きることがない。


 飲み物も食べ物同様だ。ただ、トマトジュースが無いのでそこにはアキトは少しがっかりした。


「計画的に使わないと散財しちゃうから注意な」

「そんなこと分かってるわよ。アキトと違って私、計画性はあるんだから」

「その割には俺と最初に会った時は昼ごはん抜いてたじゃないか」


 あの時の事を思い出したのか少し目を細めてこちらを睨んでくる。


「あの時は例外!」


 それからはまた「ランダム魔物の卵」を使い、午後いっぱいを特訓に時間を割く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る