89話 可憐

 魔導修練祭へ向け皆自分自身のレベルアップのため学園中のあちこちで特訓している声が聞こえるようになった。


 学園は魔法やスキルを使える場所が限られているのでその場所は日々取り合いとなっている。

 午前の授業も途中から座学と実技の二つになるらしく残り二月になったら座学は終わり実技だけの授業となる。


 そして昨日聞けなかったウタゲ先生の魔法とスキルの発動限界について今日話を聞ける。

 本でも一応読んではみたもののやっぱり実際に魔法やスキルを使っている異世界の人の方が現実味がある意見を聞けそうだったのでアキトは楽しみにしていた。

 

 今日は流石に遅刻はしなかったがなぜか知らないがバルトとトルスは異様に疲れておりシロネやユイ、エーフは異様に席が近くなったというか仲がさらに良くなっている。

 エルはトレインと息が合い、色々魔法についてご教授を受けている。


 セアもこの間以降アキト達に干渉はあまりしてこず、いたって普通の対応に変わっていた。

 エルがアキト達とセア達との外交官のようになっており、変な立ち位置になっている。


 アキトは他の貴族連中は大丈夫なのかと聞いたがセアが良いと言うなら良いらしく、エルから黒聖クラスに入る貴族は大概変人なのでそこらへん素直だとアキトは聞いた。


 アキトは意外と黒聖クラスは統率を取れているのには驚きを隠せなかった。

 ちょうどその時始業の鐘が鳴り響きウタゲとシェルが入ってくる。


「それじゃあ始めるぞー」


 ウタゲはいつにも増して眠たそうだった。


「えーっと今回は前回魔導修練祭の話で時間がなくなって話せなかった魔法とスキルの発動限界について説明する」


 アキトは日本で寝ながら受けていた授業よりも集中してウタゲの説明を聞く。

 この異世界では、走れば疲れて走れなくなるように魔法、スキルも使い続ければ使えなくなる。

 走ったら減っていくスタミナに対し魔法やスキルはその魔法、スキルの位に応じて消費量が異なる。

 ランニングとダッシュの差みたいなものだ。

 この魔法とスキルを発動できる量は生まれつき変わってくる。努力で補うことは可能だがスタミナと同じように全てを努力で補うことは不可能。

 なので、自分が魔法とスキルどちらが多く放てるのか試してみて得意な方を伸ばしていくのがこの世界ではベター。


 そして、この魔法やスキル為のエネルギー源を’天恵’という。


 これはアキト達転生者で言うSPとMPだが異世界の人たちはこれを感覚で行なっているのに対しアキト達は視覚的に確認できる。


 このアドバンテージは大きいものがある。


 スタミナも限界が来て最後の一滴を振り絞れるように魔法やスキルも条件によっては天恵が空っぽでも使用することが出来ることがあるという。


 これは火事場の馬鹿力のようなもので、桁違いの威力になる。

 そしてこれが起こった後その人の魔法とスキルを放てる量が増大し成長する。

 筋トレで筋肉を壊して肥大化するようにスキルや魔法も使い切ってさらに振り絞ると大きくなる。


 天恵は使い切っても自動的に常に少しずつ回復しようとするので休息でもしっかり回復する。

 さすがにしっかりとした休みが必要なので戦闘中に自然回復することは殆どない。

 

 勿論こういったことは魔法やスキル、アイテムを使って解決することが可能だ。


 アキトは真剣に聞いていたらあっという間に午前の授業が終わったしまった。


 アキトは席を立ち一人で適当な売店で昼ごはんを購入する。

 シロネ、ユイ、エーフは三人で特訓し、トルスとバルトは二人で、エルはトレインとセアと三人でそれぞれ皆特訓している。


 アキトは一人で木の木陰で休みながら昼休みを過ごす。これならハヤトにレベル上げ手伝ってもらえば良かったと後悔する。

 

 昼ごはんを食べ終えたら毎朝やっているランニングをしながらみんながどんな特訓をしているのか見て回る。

 バルトとトルスは二人でただひたすらに実践を積む、天恵が無くなったら残り時間を基礎トレーニングや柔軟で時間を潰していた。


 シロネ、ユイ、エーフはシロネが軸となってアキトがやっていたような特訓をしており、時には二対一で実践を交えてお互いアドバイスし合うというなんとも綺麗に計画された特訓だった。


 最後にエル達だが、三人はシェルを相手に三対一で実践を積んでいた。ちょうどトレインが前衛、セアが中衛、エルが後衛なのでそれぞれが自分の長所を活かせる特訓だった。


 アキトはそれぞれの特訓を遠目に見学した後結局魔導書館に来てしまった。


 ここの雰囲気がアキトに合い、すごく落ち着くのだ。


「ここは全く変わらんな……」


 アキトはいつも通り一瞬寮に戻り読み終えた本を二冊ほど魔導書館に返却する。

 本来ならアキトはそのまま帰るが今日は自然と以前見つけた地下へ続く本棚型の扉を押し開き階段を下っていた。

 薄暗い階段を下りている途中魔導書館にはそぐわない金属音が徐々に大きくなっていく。

 すると、以前来たときは気づかなかったが地下の魔導書館に続く階段の他にもう一つさらに地下へと続く階段を見つける。


 アキトは少しの好奇心と今の心境からそのさらに地下へと続く階段へ足を進める。

 階段を一段下りるごとに金属音が少しずつ大きくなっていく。


 アキトは階段の終わりにある空間を使って中の様子を確認する。

 中は地下の魔導書館とは違って地面をそのままくり抜いていて装飾は一切なく中央に闘技場の三分の二くらいの大きさの整地された土のフィールドが広がっている。


 中央で以前会った少女が鉱石で出来たゴーレムと戦っていた。

 あのふわふわした感じからは想像出来ないほどの身の捌きで正直アキトは驚いていた。

 ゴーレムは訓練用で学園から支給されているアイテム。

 一定時間経つか最初に設定した合言葉を言うことでゴーレムは消滅する。

 ゴーレムは学園で支給されている中でも最も最上級で、実力が一定以上あり先生から認められていないともらえない。


 中央で戦っている少女は両手にゆるく丸めに曲がった桜色の刀剣二本で戦っており相当疲れているのか動きが鈍い。

 そして、疲れからか足が絡まり尻餅をついてしまう。だが、ゴーレムはそんなこと御構い無しで攻撃する。

 こう言う時の為に合言葉は決めてあるが何故だか少女は合言葉を口にしない。


 そろそろ止めないと大怪我してしまうのでこの辺りでアキトは軽く闇属性魔法を発動しそのゴーレムを叩き潰す。

 地面に叩きつけられた衝撃でゴーレムはバラバラに分散しそのまま役目を終え消滅する。

 流石にここまでやって姿を見せないのは気まずいのでアキトは少女の前に姿を現す。


 その少女は疲れているのかアキトの姿を見ても特に驚かず、少女は何故かアキトを睨みつけていた。

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