67話 巨漢の男
「それじゃ、これから戦闘を開始するぞ」
「貴族側、トレイン・トンで平民側がバルト・ベル」
この学園じゃ地位や家元は関係ない、全て平等な学生という位を持つ。
それがこの戦いで決まる。
バルトは対戦相手のトレインを見上げる。
トレイン・トンは身長がとにかくでかく、筋肉もがっしりあって明らかに重量級。髪も刈り上げ、若干日焼けしていて、身長は百九十センチメートルを超える。目がパッチリとしていて童顔、遠くから見るとマスコット的感覚だが近くで見ると威圧感の主張が激しい。
二次試験では身内か、あまり骨のある相手と戦えなかったのでバルトは入学までの期間トレーニングしかしておらず実戦形式で戦えてなくてうずうずしていた。
今にも動き出しそうな手足を引張叩いてどうにか落ち着ける。
「お互い武器は自分の腕ということで良いのか?」
ウタゲは呆れた顔でバルト、トレインを見て尋ねる。
「ガッハッハッ〜問題ないぞウタゲ先生よ」
観客席に届くほど大きな声で喋るトレイン。体もでかいが声もでかい。
「むしろ素手でやりあいたい相手だぜウタゲちゃん」
「ウタゲちゃんは止めろ」
ウタゲは流石に審判やっているので殴りはしないがバルトに向ける目線が痛い。
「ガッハッハッハ〜良いのか小さいのが武器使わなくて」
「はッ!平民チビだからって舐めてると後悔するぜ」
「ガッハッハ〜俺は一度とたりとも平民を下に見たことは無い!いつでも本気の戦いが出来れば良い。今回はお前が武器を使わないで全力を出せるのかが不安でな」
「それなら心配するな、俺はどんな武器も使えるが一番使いこなせる武器はこの体だ!」
そのままバルトとトレインは背を向け逆方向にある程度歩いたところで振り向く。
「それじゃ、最後に一応私がダメだと判断したら介入するからそのつもりでな」
最後の注意事項をウタゲが言ったところでバルトは集中力を五十パーセントまで上げる。
「私が上空に魔法を放った瞬間スタートだ」
右手を天に掲げ手のひらに魔法陣を出現させる。
魔法陣は大中小の円形のリングが三層に重なっておりそこから魔法が放たれるようになっている。
このいつ放たれるか分からない緊張感でバルトはもう額に汗をかき始める。それはトレインも同じで熱気が伝わってくるぐらい闘志を燃やしている。
バルトは若干汗かいてるくらいなのにトレインはどっかでトレーニングして来たかと思うくらいの大量の汗をかいていた。
全身からは湯気のような蒸気が溢れ出ていてトレインの持つ熱量が凄まじい。
するとウタゲの雰囲気が変わる。
それを察し、バルトとトレインは同じように戦闘体勢に入る。
バルトは集中して行くと野生の勘が働き空気の代わり具合を肌で感じ取れるほど敏感になって行く。
そして魔法陣が光だし陣を構成する三つの円状の文字の入ったリングが時計回り、反時計回り、時計回りと交互に回り出す。
バルトは気が高ぶりかかとが浮く。
そして、その瞬間ーー
ウタゲの真っ赤な火属性の魔法が天高く上がる。
観客はその火に見とれ上空を見上げる。だが、もうその時にバルトとトレインは中央で拳を合わせるほんの三秒前だった。
「「はぁあああああああ!!!」」
トレインの拳をまじかで見ると通常の人の拳の約三倍はあり、バルトの拳との大きさの差は歴然だった。
お互い魔法、スキルを使わないただの拳を合わせるだけの力比べが始まる。
バルトは下からトレインに向けて、トレインは上からバルトに向け拳を放つ。バルトは身長の差からこの形になるのは分かっていたが、やはり大きい方はかなり有利だった。
魔法、スキルのなんの強化もないただの拳合わせは両者に悲惨な結果をもたらすことになった。
拳と拳が馬車同士がぶつかるような衝撃で交わるので合わさったところの皮膚は剥け出血し一番インパクトが大きいところに限っては肉を裂かれ骨が見えるほど深く入ってしまう。
今回は肉だけが裂けるだけで終わったが下手したら両者骨が粉々になっているところだった。
そして、拳が合わさった音も歪で、誰もが不快に思う重低音が会場に鳴り響く。この響きがあまりに不快な音なので観客席にいる人達は全員喋るのを止めるくらいだった。
その衝撃で返り血がお互いの顔や体に付着するがそんなことは意も返さずバルトとトレインはお互い笑い合う。その光景をウタゲとシェルはまさにドン引きと言わんばかりの視線を放つ。
バルトは気をぬくと気絶してしまいそうな痛みが全身を駆け巡る。
トレインも同じなのか顔は笑ってはいるが目が全くと言って笑っていない。
バルトは心の中で叫びながら一旦退避する。考えていることは一緒なのかほぼ同じタイミングでトレインも元いた場所へ跳んで退避する。さっきまでいた場所の石版には二人の血が歪な模様を作っていた。
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