66話 宣言
ルイン学園第一闘技場ーー
闘技場の控え室にいるアキト達は結局作戦会議に設けられた三十分の内最初の十五分で殆ど決まってしまい時間がもったいないので、残りの十五分は各々体を温めたり準備運動をしていたり、談笑、集中力を高めるなど時間の使い方はバラバラだった。
アキトは特にすることもなかったので長椅子に横になって時間になるまで目を瞑っていた。前回はこのまま寝てしまったが、前回ほど寝不足なわけではないので寝ることはない。
「そろそろ時間だし行こうか」
「そうだな。少し早く行った方がいい」
「楽しみだぜ!」
エルの一言を皮切りに控え室からみんな出て行く。
闘技場にはすでにウタゲとシェルの二人が結界魔法を構築していて、二次試験の時より高度だった。
前回アキトとハヤトとの試合で、懲りたウタゲは今回は例え正規の試合でなくとも万全を期していた。
アキト達が時間より少し前に現れるとなぜかウタゲは少し驚いていた。
「早いなーもう時間だったか?」
「いえ、まだですが一応早めに来ておこうかと……」
「ほーん。律儀だな」
あまり興味なさげに頷くウタゲ。
それから他の人も集まり始め、いよいよ戦いが始まる。
「一応ルールを確認しておくぞ〜」
全員が集まったところで先生がこの戦いにおけるルールを述べて行く。
七対七の戦いで外部からの妨害は禁止、見つかり次第即刻負け。
魔法、スキル使用可能で武器は貸し出し武器のみ許可する。アイテムの使用は一切禁止。
敗北条件は、二次試験の時と同様だ。
二次試験よりも闘技場のフィールドが大きくなっていた。
二次試験の時は場外のルールもあったので、ある程度場外分の広さを確保しなければならなかったが今回は場外という概念はないのでアキト達は余計感じる。
そして、アキト達が七人でフィールドに残っているとウタゲが訝しげに見てくる。
「ど、どうしたんですか?ウタゲ先生」
「いや、なんでお前達七人残ってるんだ?」
「え?チーム戦なんじゃないんですか?」
「何言ってんだ?今回は勝ち抜き戦だぞ」
「え?」
皆勘違いしていたのか、ウタゲの勝ち抜きという言葉を聞いて驚いていた。
急いでエルを筆頭に順番決めに取り掛かる。といってももう始まってしまうので付け焼き刃になってしまうがしょうがない。
「順番どうしましょうか?」
円陣を組む形で話し合う。
「バルトで良いんじゃない?今回の元凶だし……」
「え?いいのかユイ!!」
バルトが勢いよく反応し唾が飛んで地面に着地する。
「ちょっ唾飛ぶから」
「じゃあ、一番はバルトね二番は?」
「それはバルトの戦闘中に考えれば良いんじゃないか……すぐにやられるようなへまではなかろう」
トルスの提案で二番目の人はあとで決めることになり一旦まずこの場所から退散する。
二次試験と違って各々戦闘を好きなところで観れ、観客席や控え室、フィールドのすぐそばに野球選手が控えているベンチのような場所で見る者様々いた。
ただし次に控えている人は終わったらすぐ入れるように近くに控えていないといけない。
因みに二番手はユイ、その次がトルス、エーフ、エル、シロネ、アキトの順番に決まった。
この順番には特に無く、じゃんけんで決めたものだ。
勝ち抜き戦なので勝ち続ければ一人目で終わる可能性もあるしましてやアキトはシロネの後なので出番はまずない。
闘技場中央にバルトとその相手、審判のウタゲと副審のシェルが集まっている。
今はちょうど正午過ぎ。
昼ごはんは各々食べて良いということでアキトは試合を見ながら一人観客席のベンチで眺めている。
今日は一年生の説明会の趣旨が強いので二、三年生は休みになっているが、暇なのかまばらに人が集まってくる。
そろそろ始まるのかお互い一定の距離を取り始める。
二人の距離は大体二十メートル。二次試験の時よりも遠くなっている。
アキトとしては相手の力量はまだ定かではない分どんな戦いをするのか非常に興味深かかった。
アキトはアイテムボックスからトマトジュースを取り出し昼ごはんのお供としてちびちび飲む。
そして、アキトがトマトジュースを取り出している間に二人は火蓋を切った。
バルトの戦闘をユイやシロネ、エーフ達は闘技場のベンチで見ていた。
「ユイはどっちが勝つと思う?」
戦闘が始まるとユイに隣にいるシロネを抱きかかえて座っているエーフが質問する。
ユイの出番は次なのでベンチで控えている。
「バルトがボコボコにされて負けるに一票」
即座にユイは返すとエーフはユイの答えを聞いて「やっぱり……ユイちゃんらしい」とだけ言い残し、戦闘中のバルトがいるフィールドの方を眺める。
「まあバルトなら大丈夫じゃろう……多分」
シロネはバルトの方を心配そうに見つめる。
ユイにはシロネの気持ちは痛いほど分かった……トルスやエル、アキトは戦いを見ても安心感がある戦い方をするので割と落ち着いて観戦していられるがバルトの場合は終始ハラハラドキドキさせられるし、危うい場面や簡単に自分の身を犠牲にして突っ込んでいくところなど他三人とはストレス度合いが違うのだ。
「うんうんバルトもああ見えて強いしね〜」
「あのウタゲ先生とも途中までは互角に渡り合えてたし」
「あーあの時か一次試験の……ぶっちゃけ言うがウタゲ・ミル先……生は実力をこっちに合わせていたのじゃぞ」
「シロネちゃんはウタゲ先生のこと先生って呼ぶの?」
シロネはどうだと言わんばかりに解説するが拾われたのは違うところだった。
「うーむ。今模索中なのじゃが、どうもしっくりこなくて悩んでいるのじゃよ」
シロネは目を瞑り腕を組みながら首を右に倒し考える。
「ウタゲって呼び捨てもなんか生徒が教師にだとあまりよろしくないし、ウタゲちゃんっていうのも……これも軽さがね〜」
「今度ウタゲ先生に直接相談してみよう」
「っげ本人じゃと?!」
シロネが今までにないくらい過去一番の反応を見せる。
「今はウタゲ先生としとくのじゃが、お主らは一次試験で顔を合わせとるから話しやすいかもしれんがわしはちょっと話しづらさが残っておっての……」
「大丈夫だよ!私も一緒に行ってあげるから」
エーフはシロネを思いっきり抱きしめながら高らかに宣言する。
周りにちらほらいる人たちがシロネとエーフを一瞬物珍しい目で見てくるがエーフはそんな事微塵も感じずはしゃいでいた。
「私も行く」
「そうそう!!三人で行こう!!」
両手を挙げエーフはもう一度高らかに宣言し直すのであった。
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