49話 空気

 ようやく審判は時間が止まった空間から動き出すように口を開ける。


「ビーン・ガベル!フライングだ一度仕切り直す。次やったら即反則負けとする!」


 審判を務める試験官がビーンに実質のイエローカードを出す。


「いや、俺の負けでいい……」


 ビーンがそう言ったのでアキトは手を離す。


「お前もハヤトと同じ側か……」


 そう言い残し、控え室に帰って行った。審判の試験官はまた突然の出来事に驚いたが、今さっきも起きたことなので今回はすぐ立て直す。


「勝者アキト!!」


 そして、審判は躊躇なく即告げる。


「何と!!一回戦の最初と最後のみ試合が一分以内での決着だぁあああああ!!!」


 興奮冷めやらぬ実況がまたさらにヒートアップする。


「「「うぉおおおおおおお!!!」」」


 観客が、騒めき興奮の渦に包まれる。


 アキトもそのまま控え室に戻る。

 アキトはビーンはもっと理性なく突っ込んで来るかと思っていたが意外と考えている事に感心した。

 あのままやっても無意味だったという事をビーンは察したのだ。

 そこを気づける危機察知能力があるからこそこの二次試験まで残っていたのだ。


 一回戦が終わると一旦昼休憩なので何かお昼ごはんをたまには買って食べようかと外に出て見るとそこには夏祭りを彷彿とさせるような人混みと屋台が学園を彩っていた。

 アキトが朝来た時には全くそんなそぶりを見せてはいなかったのにこの短時間で屋台を組み上げ物資を運び込んでここまでの準備したのだ。


 アキトは人混みが嫌いなので再び控え室に戻るとみんなが戻って来ていた。


「あーアキトいるじゃねぇかよ!!」

「これで私の勝ち、バルト夜ごはん奢ってね」


 ちくしょう!とバルトが地面を転げ回る。

 アキトが帰って来るかどうかの小さな賭けをゆいとバルトでしていた。


「どこに行ってたのじゃ?」

「ああ、昼ごはんでも買いに行こうかと思ってな」

「あら、昼ごはんなら作ってきてあるわよ!」


 ホルドさんが気を利かせてご飯を作って来てくれていた。

 控え室にあるテーブルには様々な料理が並べられ屋台で並ぶよりアキト的には断然こっちの方が嬉しかった。


「バルトいつまでやっている食べるぞ」


 トルスが言うと項垂れつつも起き上がり席に着く。


「いつもありがとうございますホルドさん」

「いいのよー私こういうの好きだから」


 全員が席に着くとみんな食べ始める。バルトもさっきまでのテンションと思えないほどがっつきながら食べている。


「みんな一回戦どうだった?」


 アキトがそれを聞くとみんな一斉に食べるのをピタリと止める。確か1回戦身内どうしはバルトとシロネだけであとはみんなバラバラだったはずだ。


「私負けちゃいました」


 エーフが悲しそうに言うと、アキトは聞いてはいけないことを聞いてしまったと理解する。


「あ、ごめん……」

「アキトは悪くないよ。私がちょっとドジちゃって」

「僕らは特訓で足腰を鍛えて一週間前とは比べものにならないほど軽快に動けるようになり体力も増えた。だけどそれに慢心しちゃったんだ」


 一番理解できるであろうエルが説明してくれる。

 アキトも強くなったらはしゃぎたくなるというか自分が今一番強いってくらい気が大きくなるという気持ちも良く理解できた。

 アキトもOOPARTSオンラインで初めて課金した時はエーフと同じような感じだった。


「……それだけ」

「ごめんねみんな空気悪くしちゃって」


 泣きそうな顔して言われると余計アキトは心臓を鷲掴みされてるような罪悪感がやってくる。


「いやいや聞いちゃった俺も悪い」


 そんな重い空気が流れる中ホルドさんが手を叩き一喝する。


「はいはい、反省は後、まだ1回戦終わったばっかりだし負けちゃった人も勝った人も精一杯やったならそれで良いのよ。この経験は次までに取っておくのよ!」

「はい!」


 エーフはシロネを抱きかかえ元気を出す。


「さ!食べるのじゃ!」


 バルト以外全員また食べ始める。バルトは終始食べて続けていたのでユイに怒られていた。


 **


 昼食を食べ終わった後はみんな控え室に戻って行った。

 エーフはホルドとシロネ、ナナミと一緒にBブロック観戦席に行った。


 また一人になったアキトは今度は寝坊しないよう座りながらステータスや魔法スキルの確認、アイテムボックスを整理して時間を潰していた。


 それからは、低位無効化のパッシブスキルを発動しハヤト同様圧勝し、勝ち進む。特に問題なく勝ち進みついにAブロック決勝まで来た。


 アキトは重い腰を上げ会場へ向かう。

 因みにBブロック決勝はバルトとアキト達は知らない貴族になった。

 バルトはこの一週間で一番急成長しており、トルスのような高火力、エル達のような機動力を兼ね備えた以前からは考えられないほどだった。


 その報告を聞いて、皆から見られながら、闘技場の中央に行くとすでにハヤトはいた。

 決勝ってだけあって人が増えている。

 次のAの優勝者対Bブロック優勝者の決勝はアキト達の方の会場でやるので今の内に来てる人もいるからだ。


「さぁああ!!やってまいりましたあああ!!ついにAブロック決勝戦です!!」今回はどんな戦いを見せてくれるのか!!超絶楽しみですぅうううう!!」


 もはや実況者が熱く、楽しんでおり、それにここまで一人で全力で実況していたせいか声が若干掠れいている。


「やあ、やっぱり来ると思ってたよアキトくん」

「くん付けはやめてくれむず痒いから」

「じゃあ、アキトだね。よろしく」

「ああ、よろしく」


 そう言うと、白線のところまでアキト達は下がる。

 審判が両者を見交わし、準備完了の意を確認すると中央に立つ。


「さぁ、もうすぐ開始だぁああ!!」


 会場のボルテージも徐々に上がっていき熱気と歓声があたりを支配するが、アキトは相手をじっくり観察していた。


 審判が手を振り上げる。


 両者唾をのみ一拍、


「始め!!」


 審判が手を振り下ろし試合の火蓋が切られる。

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