48話 寝坊

 上空約二十メートル……そこから降る水の量は尋常ではなく、その水圧に圧倒されカーブルは失神する。

 水が的確にカーブルがいるところと頭を捉えているので勝負は一瞬だった。

 カーブルはその水圧に耐えることすら出来ず地面に体を持っていかれ頭を打ち付ける。


「な、なんと言う事でしょう!とてつもない水の量だ!!!カーブル選手立てない!!」


 水属性というわけではなさそうだな……

 アキトはハヤトの属性を考察しようとしたが、こうも早く終わってしまっては全く検討もつかない。


 カーブルは確かに姿を隠すのは良い案だったが、相手が悪すぎた。

 ハヤトはカーブルの投げる短剣の位置から次の位置を察知し、範囲系の魔法を叩きつけた。


 ハヤトの放った威力なら多少位置がずれていようとも関係ない。


 やるなら、魔法やスキルで短剣を多種多様な方向から飛ばして攻撃し、その中に自分の短剣を混ぜ込んで場所を分かりづらくするとかやりようは沢山あったが……どのみち、ハヤトに低位武器、魔法、スキル無効化を使われているので勝ち目など初めから無かった。


 アキトもまさか、ここまでやるやつだとは思ってもいなかった。

 低位無効化……低位、OOPARTSオンラインでは主に武器や魔法、スキルにあるランクの一番下を指す。


 魔法とスキルは八段階に分けられる。

 OOPARTSオンラインでは魔法とスキルは上から<超古代級/オーパーツ>、<太古級/エンシャント>、<時代級/エイジ>、<超固有属性>、<超属性>、<固有属性>、<属性>、<何も付かない魔法、スキル>の八つからなる。


 上にいくほど強力な威力や能力を誇る。

 そして低位に分類されるのがただの<魔法、スキル>と<属性>が付いた<魔法、スキル>。

 <固有属性>+<魔法、スキル>の魔法やスキルが中位、上位は超がつくものになりその上になるともうアイテム以外で無効化する手段はない。


 なので、今回の試験でハヤトにダメージを与えることができるのは魔法、スキルのみとなった。


「勝者!ハヤト・ゾルデ!!」


 審判がカーブルの失神を確認し、告げる。その瞬間もの凄い歓声が沸き起こる。


「「「おぉおおおおおお!!!」」」

「今日一番早い決着だー!!」


 カーブルを一瞥することなくハヤトは早足で控え室に戻って行った。

 アキトもこれ以上見るものは無いので控え室に戻る。


**


 控え室に戻るとちょうど二回戦が始まった。


 低位無効化には中位、上位と後2段階上がある。

 ハヤトがどこまで使ってくるか分からないが上位まで使われたらアキトはかなりきついことになる。

 アキトはレベル上げ一週間で予定通りレベルを四十二まであげることが出来たが、上位に含まれる魔法やスキルを使うことは出来るには出来るのだが、回数が持たない。


 アキト自体、そこまで使われたら戦う意味がないので棄権しようと考えていた。

 一回戦を見てアキトの中でハヤトとなら戦って見たいとやる気が出ていた。


「ふぉわわあああー!」


 アキトは寝っ転がると欠伸が出る。

 そのまま全身を伸ばし体の力を抜く。一週間ギリギリまで、昨日から寝ていないのでかなり眠い……瞳には涙が溜まりそれを片手で拭う。


「……」


**


「起きてください!!起きてください!!試験失格になってしまいますよ!」


 アキトは女性試験官に体を揺さぶられ起きる。

 アキトは眠気まなこなところを襟を引っ張られながら会場に連れてかれる。


「おっとおおおやっと来ました!!あの寝癖から察するに、試験中に居眠りだぁあああ!!!」


 闘牛のように興奮した実況お姉さんが叫ぶ。会場は笑いに包まれ今アキトは過去史上最大の失態真っ最中にいた。


 まさか、あのまま寝てしまうとは……

 アキトはせっかく久しぶりに寝れたのに最悪の寝起きになってしまった。

 闘技場に行く途中寝癖を直しながら向かっていたが結局無理だった。

 左右の髪が横に強烈に跳ね、所々小爆発していた。

 恥ずかしさを肌で感じながら闘技場中央に到着する。


「すみません。遅れました」

「貴族を待たせるとはいい度胸だな平民!」


 対戦相手のビーン・ガベルが強めの口調でアキトを威圧する。

 がたいが良く、いかつい顔と目でアキトを睨みつける。

 確実にあの二十人に含まれるアキト達に恨みを持ってる人だと一発でアキトは感じる。


 なのでアキトはあまりいい気分では無かった。


 アキトははビーンを一瞥することなく受験生用観戦スペースを見ると案の定ハヤトがいた。


「さぁああトーナメント一回戦を締めくくるのはー!なんとなんと今回の試験では平民が初めて全員一次試験を突破したのです!そして彼はその内の一人!アキト選手だー!」


 とんでもない紹介でアキトは羞恥心が一層増す。

 アキトは注目されるのはゲームでは慣れているが、現実身のある眼差しで見られると少し怖かった。


「さらにさらにそれを迎え撃つのは、えーっとーー貴族上がりのちょっと見た目がおっさん風だがしかし中身はまだまだ若人だ。ビーン・ガベル選手ー!!!」


「おい!聞いてるのか」


 アキトは、観客席を眺めていると少しあきれた様子で審判が近づいて来る。


「そろそろ、試験を始めるぞ!」

「分かりました」


 試験官がそう告げるとアキトは中央に地味に書いてある二本の白線の内の片方に位置を取る。


「ちっ!俺を無視するとはいい度胸じゃねぇか!!」


 目の前に立つとかなり威圧感があるビーン、アキトは見上げる形で顔を上げる。


「さぁあああいよいよラストバトルの始まりだぁああああ!!」


 審判が片手を上げ振り下ろす。


「はじめ!!」

「うぉおおおおおお死ねぇえええええ!!!」


 その審判の合図でというより明らかにフライングをしながらはアキトへ迫る。明らかなフライングだったので審判が止めに入ろうとしてるが間に合わない。


 ビーンは明らかに普通の威力ではない拳を振りかざす。

 明らかに何らかのスキル、魔法をあらかじめ仕込んでいた事が分かる。


 だが、この行為はルールに載って無いし違反という訳ではない。

 これを見るだけで、ビーンはこの試験に対し対策して来ているのがわかる。

 アキトはそのスキルや魔法やがパンケーキのように沢山盛られているであろうビーンの右拳を何の魔法、スキルを使わずに片手で受け止める……


 審判をしていた試験官は何が起きたのか良くわかっておらず目を何度か擦り、拳を繰り出したビーンも目を丸くして静止している。

 

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