34話 作戦
アキト達は約五百メートル程後退していた。
「おい!どうなってんだよーあんなの聞いてないぜぇー!!」
バルトが叫ぶ。
だが、それは無理もない。森を抜けたら魔法やスキルのバーゲンなんて普通の人ならこの反応で正しかった。
「やばかった」
ユイの声がなければ何発か受けながら後退しないといけないはめになるとこだった。
幸い奴らは追いかけては来ていないので、今はどうするか作戦会議中だ。
「すまなかった」
すると突然エルとエーフ、トルスが頭を下げ謝罪する。
アキトは何事かと思って理由を聞こうとするが続けてエルが言う。
「僕たちは実はこのことを知っていたんだ」
「去年僕たちはこの試験を受けたんだ。試験内容は違ったけど、僕たちは最後まで残りあと少しのところで貴族達に邪魔され失格になってしまったんだ」
「だから今回も恐らく何かしらはして来るだろうと思っていたけど、僕らの予想を遥かに超えていた……」
そのことを頭を下げ続けながら言う。
流石にこれだけ頭を下げ続けられるのはアキト達としても気まずいので頭を上げるよう促す。
「僕たちはこうなることを知っていて少しでも対抗できるようアキト達に共闘を持ち寄ったんだ」
三人で無理、そしたら次六人でやるってのは別に普通な考えであり、すがりたくなる気持ちもアキトには十分理解できた。
「言い訳にしかならないが、どうしても入学したかった。悔しかった……」
エルは去年の事を思い出し悔し涙を浮かべる。
「私は入学する」
「俺もだぜ」
ユイとバルトは特に何も思っておらず、アキトもそれは同じだった。
「謝罪してくれてんだ、僕たちはそれだけで十分伝わった。それに入学したいって気持ちはここの六人全員同じだからね」
あ、七人か……
アキトはちらっと自分の影を見る。
「もう一回行って突っ込もうぜ!!」
「バカ」
バルトがアホなことを言ったのでいつも通りユイに蹴り飛ばされる。また喧嘩勃発だ。
「二人ともそこら辺でストップ」
アキトが言うと二人は喧嘩をピタリと止める。
「なんでそんな冷静でいられるの!?」
エーフがエルとトルスの言いたいことを代弁する。
「ま、いつでも冷静でいられるよう心がけてるし、奴らを突破しなきゃ合格はないしな」
「あの人数相手だよ!勝てっこない!!」
エーフは激しく言い寄って来る。
「ああそれなら大丈夫だ、今回は俺一人でやるから……」
それを言った瞬間、皆静まりかえる。まさかそうなるとは思わなかったので、アキトは少し後悔する。
「アキト!そりゃないぜ俺もお供するぜ」
最初に沈黙を破ったのはバルトだ。
だが、ウタゲ先生との戦闘もあって少し無理しているのは分かりきった事だった。
「バルトはウタゲ先生との戦闘でのまだダメージがあるだろう」
「それはあのシェなんとか試験官に治療してーー」
そう、バルトの傷はシェル試験官によって全て綺麗に治療してもらった。
しかし、精神面の疲労はそうとうなものだったらしく、アキトが夜見張りをしている時、バルトが悪夢を見たかのように唸りだしたと思ったらむくっと熊のように突然起き上がり外へ出て原っぱで黄昏ているのを昨日の夜に見ていた。
やはりあのダメージを受けたら体への負担は自分が思っている以上に深い。ウタゲ先生に傷をつけられたもの同士だ、アキトには凄く分かった。
「いや、今回はダメだ。それと、エル達三人もバルトと同様の理由でダメ。あとユイだが、ユイは皆んなを出来るだけ守ってくれないか?」
「わかった」
ユイはすぐに自分の役割を理解し、頷く。
ただ、バルトはやはりまだ不満があるのか駄々をこねる。
「なんだよ!アキトだけずるいぞー!」
「バルトはこれからやるアキトの作戦には足手纏い理解しろ」
ユイは冷たく言い放つ。
いつもは冗談半分、本気半分のユイの言葉だが今回は本気度百パーセントの言葉にバルトも萎縮する。
「あー分かったよ。大人しくしとけばいいんだろ」
ユイに強く言われたバルトはお菓子を買ってもらえなかった子供のように拗ねる。
「それでいい。私が全員守るから……」
「うん、今回はアキトに任せるよ」
エル達三人も同意し、あとはアキトの案を聞くだけとなった。
「ただ、本当に危なくなったら流石に今回の試験も棄権する。いいね」
エルが釘を刺すようにメガネの少し下がっていたブリッジを上げながら言う。
「ああ、それでいい」
そして、一拍置いたあとアキトは話を再開する。
「作戦というか皆は俺の半径二メートル以内にいてくれ。それだけだ」
アキトは皆んなの反応を聞く前にそれだけ行って森と草原の境目ぎりぎりまで機を伺いに行く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。