35話 土の味
「平民達がまた戻って来ます」
ゴール地点にいる、学園の試験を受けている人の中に忍び込んでいた、執事のその一声でさっきまで喋っていた人達も全員森の方を向く。
「やっと覚悟を決めたようだな」
貴族の一人、コールデル・バウアは横一列に並んでいる他の人らより少し後方でその報告を聞く。
「一人を囲むように固まって行動しております」
バラバラで動いた方が的が分散し、確率は上がるだろうにやはりバカだな……
コールデルは平民を心の中でバカにする。
「あと一分程で森を抜けて来ます」
「よし!全員もう一度用意しろ、威力はさっきよりも高くして構わん!!」
また、同じように皆が一斉に魔法、スキルの準備を始める。
火属性水属性など多種多様な属性の魔法、スキルがざっと見た限りでも五十以上ある。
一人が複数発撃てるので、かなりの数になる。
これだけの種類があればどうやっても防ぐことは不可能、多少死人が出たところでどうせ責任を問われるのはルイン学園の教師陣という思惑の元行なっている。
しかし、これだけの人数全員がコールデルに同意しているわけではない。皆様々な思考を持っているので全員を支配することは出来ない。
では、なぜ皆一同が俺の指示に従うか……それは保身のためだった。
この人数の中、コールデルの意思に賛同するのが約七十パーセントそして反対が二十%どちらでもないが十パーセントだ。
ここで正義ぶってコールデルに反抗するればその七十パーセントの奴らからは相手にされず、どちらでもないの十パーセントからは陰口を叩かれ味方は二十パーセントのやつと思うがその悲惨さを見て、その二十パーセント中の十パーセントはコールデルに嫌でも傾くと踏んでいた。
最後の十パーセントもそいつのようにはなりたくないと思い心の中では反抗心があるもののもう反抗することはない。
結局皆自分が可愛いく、圧倒的な力……コールデル達に無関心な公爵家のハヤトレベルにならなければどうすることもできない。
ーーさて、出て来た瞬間お前達の最後だ。今年は残念ながら不合格だ、また来年受けるといい。
コールデルは心の中でほくそ笑み、残り時間をカウントする。
「全員放てぇええええええええええ!!!!」
刹那ーー先ほどよりも高火力な魔法やスキルが上空を弧を描くように森めがけ飛んで行く筈だった。
そう、魔法やスキルは確かに上空に達し、半弧を描くとこまでは行った。その瞬間、地面に引き寄せられるように、飛んでいるスキルや魔法が垂直に落ちてゆく。
本来簡単に届くはずの距離なのにも関わらず、いくら飛ばしてもそこに壁があるかのように草原の途中、静止し、そのまま落ちる。
その光景を尻目に、アキト達六人は徐々にゴールへ近づく。
コールデル達の魔法、スキルの嵐をまるで意に介していない。
コールデルは焦る。
焦ったら負けだといつもコールデルは己に言い聞かせているのにこういった時、いつも焦りが先に出てしまう。
「くそが!!休むな放ち続けろぉおおお!!!」
コールデルの怒号で皆、己が放てる全てを振り絞る。
だが、それでもアキト達には届かない。
気づくとアキト達はコールデルにかなり接近しているにも関わらず、コールデル達の魔法やスキルが落ちる場所が徐々にゴールまで寄って来ている。
「くそっ!!くそっ!!くそっ!!」
魔法が飛び奴らに届く前に垂直に落ち、地面に穴を開ける。
決して、威力がなくなっているわけではない。
コールデルの焦りは横へ伝染していく。
自分達が放った魔法やスキルが相手に届く前に落ちる。相手が近づいて来ているにも関わらず、落ちる場所が徐々にこちらに寄って来ているのだ、当然皆焦りが出てくる。
得体のしれないものが近づいてくるのは焦りから恐怖心へと変化する。 自分が見たことも聞いたこともないものを目にした時人は硬直する。
そう、さっきまで魔法やスキルの被弾音でうるさかったのが徐々に小さくなっていく。
焦った時、人というのはまだ何とか普段に近い動きは出来るが、それが恐怖心に変わった瞬間、いつも当たり前のようにしていたことが出来なくなる。
いきなり皆が一斉に発動するのを止めたのだ。
「おい!!何してるそんなすぐ魔法やスキルが使えなくなるわけないだろ!!」
すると、一人の女が叫ぶ。
「違う!さっきから徐々に体が重くなっていくの!指先から徐々に……」
そう言い、女は膝を崩し、そのまま泣き崩れてしまう。
あ、重くなるだと……そんなことあるわけーーその瞬間。
コールデルの体も指先から手首に向けてに重石を徐々につけられるかのように重くなっていく。
ハッと前を向くとアキト達はもう半分くらい近づいていた。
残り約百m、もう半分以上進まれていた。
それに焦りが最高頂まで達したコールデルは思い腕を振り上げ、魔法を放とうとする。
だが、その刹那ーー
さっきまでは指先から徐々に重くなっていたのが急に、コールデルの体に誰か飛び乗ってきているんじゃないかと思うほどの重さがかかる。
コールデルはいきなりだったので、重さに耐えられず両手を地面に付き四つん這いの状態になる。
咄嗟に手を出さなければ危うく顔から突っ込んでいるところだった。
コールデルがそう思うのもつかの間、顔をあげ他の人達の方を見てみるとーーそこにはとんでもない光景が浮かんでいた。
全員地面に引き寄せられるようにコールデルの四つん這い状態からさらに地面に手足頭が食い込み、誰一人顔すら上げられない状態になっていた。
コールデルも徐々に顔を上げられなくなって行く……
誰かに思いっきり顔を抑えられ押し込まれて行く感覚に襲われる。事実、気づくと地面にめり込み顔が半分くらい埋まっていた。
それからはもう体の一部分も動かせないくらいに重くなり聞こえるのは呻き声だけだった。
そして、数人の地面を踏みしめる音が聞こえ俺の横を通過する……
コールデルは何とか最後の力を振り絞り、顔を上げる。
そこにはアキト達の姿があった。
震える唇を噛み何とか口を開ける。
「な、なん……なんだこの……魔……法は……」
アキトはコールデルの方へ近づき、ポケットにある合格印付きのスクロールを奪い、答える。
「そんなことは自分で調べるといい。それとスクロールは貰って行くから……じゃな」
それだけ言うとアキト達はコールデルの横を通り過ぎて行く。
「あ、あと……次は正々堂々とやろう……」
そうアキトは言い残し、去って行く。
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