33話 蟠り
次の日、朝起きると木々の葉っぱに朝露が輝いており薄い霧が辺り覆いとても気持ちの良い朝だった。
昨日の夜若干雨が降りアキトは、明日どうなるか心配だったが、杞憂に終わった。
地面が若干湿って気をぬくとこけるくらいどろっとしている。
アキトはまだ、この時間帯の見張り役のトルスに寝るよう伝える。
「トルス交代の時間だ、変わるぞ〜」
「そうか、あと頼んだ」
トルスはアキトに言われるとそのままテントの中に入って行った。
「あーねむ……」
OOPARTSオンラインでもよく使っていたアイテムを取り出す。
人の形をかたどってあり、どことなく小さなダビデ像みたいな雰囲気の像をテントの前、本来アキトが見張る時に座る位置に置く。
このアイテムは「代わり者/デコイ」で、OOPARTSオンラインでは低級モンスターからたまにドロップする、もしくは道具屋や商人からも買うことが出来る普通のアイテムだ。
このアイテムはアキトのような見張りの時、置いておくことでこのアイテムを中心に半径五十メートル以内に何者かが入ると知らせてくれる便利な効果を持つ。
OOPARTSオンラインでは遠隔起動型の魔法やスキルを使う際に使われていた。遠隔起動の魔法は本当に操作がうまい人がやらないと誤って味方にぶつけてしまったりするので使う人は玄人が多かった。
アキトはちょっと朝の散歩を楽しみたいので基本見張りの時はこれを置いていた。
朝の見張りの人はご飯準備が始まるまで寝ていられるのでトルスもあと一時間半は寝ているし、他の人も起きて来ることはないので基本バレることはなかった。
アキトは音を立てないようそのまま森の奥へどうせ準備しなきゃならない薪を拾いに行く。
木々を搔き分けるたびに朝露が飛び散りアキトは濡れる……さらに雨が降ったせいで乾燥した枝が見つからない。
どれも湿っており、なかなかいい枝が見つからないので少し注意深く探しているとーー
「やあ!おはよう」
アキトは即座に振り向き、後方へ跳び魔法の準備をしながらアイテムボックスからいつでもアイテムを取り出せるようにする。
「そんなに驚かないでくれよ〜」
アキトは無意識的にその話しかけてきた男を睨んでいた。
敵意がないのを確認するとアキトはとりあえずそいつの方へ少し近づく。
枝を探すのに気を取られていたとはいえ、気づけなかった。
相手に攻撃の意思があったら初撃を避けられなかっただろうと思うとアキトは久しぶりに肝を冷やす。
「なにか……ご用でしょうか公爵様」
それを聞いたその男は眉を少し動かすがすぐ笑顔で対応する。
「やだなぁ〜公爵はやめてくれよ、この学園の試験を受けている同士じゃないか気軽にハヤトって呼んでよ」
あの時、庭で見た女に囲まれていたイケメン公爵、シロネが今回の試験で一番強いと言っていた人物だった。
「俺はアキトっていうんだ、よろしくなハヤト」
何が目的で近づいてきたのか色々考えたいことはあったが、挨拶されては返さないわけにはいかないので不本意だったが、アキトは返す。
ぶっきらぼうに警戒心全開で適当に挨拶を交わす。
「僕のチームはもうゴールの手前にいるんだけど、ちょっと気になって会いにきたんだ君に」
アキトはいつもなら、何の愛の告白だよと心の中でボケているところだが今は相手の会いにきた意図がわからないのでその余裕がない。
「俺、何かやらかしたか?」
「いやいや、そうじゃなくてね。単純に今回の試験の中で僕の次に強いのが君だったから……敵情視察だよ」
「二番だなんて光栄だね、これまで何やってもトップ三にすら入ったことなんてなかったんだがな」
「ごめんごめん君を僕の次にしたのには悪気はないんだ。ただやればすぐ分かると思うよ」
さっきまでの柔らかく鋭かった威圧感の質が硬く雑な威圧感へ変わる。
「いや、今ここでやり合うのは僕的にナンセンスだ。二次試験、機会があれば白黒はっきりさせよう」
「意外と、冷静なんだな。てっきり平民だからって潰しに来たのかと思ったんだがな」
「あ〜僕はそういうの興味ないんだ……僕の一番の弊害になるものには興味があるけどそれ以外のことに基本興味ないから」
ハヤトは、何かを思い出したかのようにアキトに対し背を向ける。
「もうそろそろ見張りの時間の交代だ、それじゃまたねアキトくん」
そのまま踵を返しそそくさと森の奥へ消えて行ってしまう。
普通に会いに来いよと思ったアキトだったが、薪拾いを再開する。
**
時刻は昼過ぎーー
ゴール到着は夕方前くらいになるだろうとエルが言う。
昼は非常食(森に生息している果物を干したもの)を口にしながら進む。
朝は気温が比較的低かったのだが、今はかなりあったかいというか暑い気温だった。
火属性使いなのに暑い暑いと愚痴をこぼすバルトの尻をユイが蹴り進ませる。
その様子をぼーっと見ているとエルが横から肩を叩いてくる。
「アキトも食べるかい?」
するとエルは非常食をくれる。
アキトは遠慮がちにもらい口にする。形は干して元の果物とは思えない色になっているが、一口食べると最初に梅干しなみの酸味が広がり、後から少しずつ甘みが出てくる。歩き疲れた体にはよく染みる一品であった。
「どっか痛めてるのか?元気ないけど」
そう、エルだけじゃなくトルス、エーフまでもゴールに近くに連れ最初の頃よりかなり口数が減っていた。
最初は疲れからかなとも思っていたが、三人とも同時ってのもおかしいし、しっかり休みは取れている筈なのでその線はない。
「いや……大丈夫、ちょっと暑さにやられてね」
「そうかなら少し休憩を……」
「いやいや大丈夫だよ、暑さにやられたと言ってもバルトじゃないけど愚痴が行動に出ちゃってるだけだから」
そう笑って誤魔化す、エルーー
「きつくなったらちゃんと言うんだぞ」
ちゃんと釘を刺しておく。アキトとしてもこれ以上戦力を失うのは痛いからだ。
「うん、気遣いありがとね」
そして、なんだかんだうだうだ歩いていると、ゴールが見えて来る。
ゴールの旗、試験官の監視塔や簡易宿舎が立っており、森を抜けた先にある二百メートル程の草原を歩くともうゴールだ。
ゴールには試験官や先に着いている貴族達であろう人たちがいるのが見える。
不可解な点が一つアキトにはあった。それは、一部ゴール手前で明らかに待ち構えている人がいることだ。
アキトが警戒しようと皆に声をかけようと思った矢先ーー
「戻って!!」
後ろからユイの焦りの含まれた怒号が飛んで来る。それを聞いたアキト達は即座に森の方へ全力で走る。
すると、二十秒後この一帯は火の海となっていた。
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