32話 成り行き

 試験日3日目ーー


 アキト達六人は初日よりはスピードが落ちるものの、中々の速さでゴールを目指していた。


 今森の中腹を過ぎた辺りを歩いている。

 陣形は昨日前衛だった二人を中衛にし中衛だったアキトとエルが前衛に位置取っている。

 基本魔物を見つけたらアキトとエルがダメージを与え、その隙にユイが矢で貫き、エーフが遠距離魔法やスキルで対応する感じになっている。


 前衛の二人が一番疲弊しているので昨日までの魔物を元気よく倒す気力は流石にない。

 今は極力休ませている。


 疲弊している二人を加味しても明日にはゴールにつくだろうとアキトは考えていた。

 とは言っても、アキトとユイはまだしもエル達のチームは三人で戦っていたのでトルス程ではないが疲労は感じられた。

 夜の野営の準備は俺たちが率先してやるかな……とアキトは考えながら歩いているとシロネが久しぶりに話しかけて来る。


(久しぶりじゃのアキトよ)

(おう、久しぶり)

(しばし、影から抜けて学園の様子を見てきたのじゃ!いろいろあって面白そうじゃぞ!)


 シロネの口調から、学園に入るのが楽しみなのか凄い無邪気に笑っているのが影からでも分かる。


(だけど、シロネはこの試験受けてないだろう?)

(わしは影の中にいるから大丈夫じゃ)


 少しだけシロネのトーンが下がる。


(俺が頭でもなんでも下げてシロネが入学出来るよう頼んでやるよ)

(しかしじゃな……そんなことが可能なのか?)


 訝しげに、シロネは喉を唸らせる。

 普通なら無理だろうが、何故かアキトには根拠のない自信が湧いてくる。


(どんと俺に任せなさい!)


 アキトは特に案も浮かんでもいないのに口走ってしまう。

 だが、こう言ってしまえば絶対にやらなければならない、自分で逃げ道を塞ぐため、やったのだ。


 この世の中、大抵のことは何とかなるに決まっている、これがアキトのポリシーでもあった。

 元の世界でもやれたんだから、こっちの世界でやれない訳がない。


(さすがアキトじゃの〜!どんな案なのじゃ?)

(今言ったらつまらんだろうよ、後でのお楽しみだ)


 そう、こう言っとけば大体の人ならば信じてくれる……九十九%の人は……

 アキトは、少し昔を思い出す。


(アキトよ、お主案など浮かんどらんじゃろ)


 ギクッと音が出たかのようにシロネへの答えに一瞬嫌な空白が生まれる。


(ま、そう言うことだからあとは俺に任せておけ)

(冗談で言ってみたんじゃが……あ、ちょ、まつのじゃ、逃げるのか〜)


 アキトは逃げるように<和衷協同>を切断する。


 もう大分日が落ちてきており、辺りは夕焼けにより木々や草花が燃えているように赤く染まっている。


「そろそろ野営の準備としますか〜」


 すると、さっきまで元気がなかった元前衛二人は、猫背でだらだらと歩いていたのにアキトの一声を聞くと突然背筋を伸ばし元気よく歩き出す。


 その姿を見て後ろからそれぞれバルトはユイにトルスはエーフに思いっきり頭を殴られる。


「「痛ッてぇええー何すんだ!」」


 元前衛二人は息ぴったりに後ろの女性陣の方へ振り向き涙目で文句を言う。


「「元気があるならもっと早く歩きなさいよ!!」」


 女性陣も息ぴったりに、しかも勢いは男二人に負けず劣らずで口論がはじまる。


「元気がいいね四人とも……僕は疲れててあんなにはしゃげないよ……」

「混ざってきてもいいぞエル」

「遠慮しとくよ」


 歩いていると、森の中に二十五mプールくらいの湖を見つける。

 水場があると何かと便利なのでアキトはこの場所に決める。


「今日はここの湖畔にしよう」


 そう言って喧嘩を終えた四人が来て納得する。


「へぇー湖と言うよりは池の方が近いのかな……」

「どうんだろうな……」


 後から来た四人は野営の準備に取り掛かり始める。

 どうやら池と湖の違いよりもご飯にしか目になかった。

 エルもそれに続いて行ってしまう。


 一人になったアキトは今来た道を戻りながら薪を集めに行く。

 すると、さっき<和衷協同>をブッチされてご立腹のシロネが登場する。


「さっきの続きでも聞かせてもらおうかの〜」


 明らかにお怒りのご様子で、腕を組み鋭い目つきでこちらを凝視している。


「案がないならないで最初から言えばよかったんじゃ。初めからわしは影の中で妥協しとるからの……」


 妥協出来ていないのが分かるくらい声がどんどん小さくなっていく。


「まぁ確かに案は無いが、自信はあるから問題無いだろ」


 あっけらかんと言うアキトに呆れたシロネはこれ以上は何も言わないといった様子でため息をつく。


「そう気にするな。偶には任せなさい」

「そこまで言うなら、信用するのじゃ。ただし、出来なかった時は罰ゲームじゃからな」


「誰と話してるの?」


 アキトとシロネが話していると突然後ろからユイが話しかけてきた。

 驚きのあまり体を急旋回してユイの方向を見る。

 その瞬間シロネは影の中に入っていた。


 アキトは、思考をショートさせるくらい回転させ絶妙な言い訳を考える。


「あ……あれだ、俺は独り言が癖でな。今日あまり話せてなかったからその反動で……」


 自分で言っていて、訳がわからないことをつらつらと口から発せられる。ユイの目が徐々に悲しい人を見る目に変わって行く。


「そ、そうなんだ。ごめん」


 ユイは踵を返して早々にみんなの元へ帰ってしまう。

 止めようと口に出す前にアキトの前からいなくなってしまった。


 アキトは心に深い傷を受け、胸を抑えながら過去最悪の薪拾いに出向くことになった。


(なんかすまん)


 謝らないでくれ、余計悲しくなるから……

 アキトはこのせいで薪拾いに時間がかかり、待ちくたびれたみんなに怒られるという負の連鎖を受けその日は速攻で寝床についたのだった。

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