30話 バカ対チビ

 離れているウタゲの方へバルトは走り出していた。

 今は剣も無いのでさっきよりも速くウタゲの目の前まで詰め寄る。 フェイントもスキルも魔法も入れずにただ突っ切っていた。

 ウタゲはバルトが近づくまで全く動こうとせず、ただただバルトの行動を観察していた。


 バルトは片手が使えないが、攻撃手段は手や武器だけではない。


 バルトはウタゲの目の前で急ブレーキをかけ体勢を低くしつつ体を全力でひねり旋回する、その勢いのままウタゲの足元を狙い薙ぎ払う。

 それを読んでいたのかウタゲはその蹴りを垂直に両脚跳びで回避する。だが、両脚跳びだったのはただ避ける為だけじゃなかった、その両脚跳びの体勢のまま足を屈ませバルトの顔面めがけウタゲはドロップキックを放つ。


 バルトはその攻撃に反応仕切れなかったが勘だけでそれを左手で往なし体勢を立て直す。

 ドロップキックを躱されたウタゲは足が地面と交わる瞬間、足を綺麗に曲げ地面との入射角が大きくなく小さくなく絶妙な角度で入り、最速で反動を軽減しバルトの方へ反転しようとする。

 その少しの硬直の時間でバルトはウタゲの元まで詰め寄っていた。


 そこに勢いをつけて詰め寄った反動を使い、バルトは力一杯の頭突きをかます。

 そこまで速くバルトが体勢を立て直していたのを予想できなかったのかウタゲの頭とバルトの頭が直撃する。

 ゴリっという骨と骨が重なり合ったような鈍い音と共に衝撃で後方へ弾き飛ばされる。


「てっきりさっき言ってた秘策でくると思っていたんだが!」


 頭突きをした頭を抑えながら、ウタゲはバルトを睨みつける。

 言葉に怒気が含まれており完全に怒らせたようだ。少し出血し血が垂れている。


 バルトは石頭には定評があるのでなんともないーーと思ったがかなりの衝撃だったのか若干こぶができていた。


「はっそんなもん当たらなきゃ意味ねぇ!使うとは言ったがタイミングぐらいは見計らうぜ!」

「なら発動出来ないよう全身をバラバラにしてやるよ!!」


 さっきまで自分から動くことはなかったウタゲが自分から攻撃を仕掛けてくる。


 ひと蹴りで、バルトは目の前まで接近され、バルトはハッと息を呑む。

 今までに見せたことないスピードにバルトは焦ってしまい咄嗟に火属性スキル<火流怒/カリウド>を後ろに逃げるように跳びながら放つ。

 火の矢約十五本がウタゲ目掛け、時速百キロメートルで向かっていく。

 かなり近づいていたのでウタゲも全部は避けきれはしないが、そんなの御構い無しにバルトの方へ突っ込んで来る。


 そのままバルトは空中で防御姿勢を取るがウタゲの木刀での横振りの斬撃を避けることができず、両腕を攻撃に合わせてガード姿勢を取る。


「うぐぅっ」


 木刀がバルトの腕に直撃し、さっき受けた傷が再び開いたのもあって大量の出血と痛みで、バルトの身体中の毛穴から冷や汗が吹き出し、そのまま意識が飛びかける。


 バルトは吹き飛ばされ、燃えかけている大木に勢いよく直撃する。

 背中の骨も何本か折れ、誰が見ようとも重症と言われるほどの傷を負ってしまう。


 ウタゲはバルトの姿を見かねて、ゆっくり近づきながら言う。


「どうする、ギブするかー?」


 ウタゲは倒れて意識があるのかないのか分からないバルトに話しかける。

 このまま意識を落とせばどれだけ楽だろうか……そうバルトは考えるが、その瞬間、バルトの兄貴アギトの顔が浮かんでくる。


 そして、バルトはこの学園に来た理由を再度確認しーー


 バルトはゆっくりと背中を庇うように倒れていた体勢から膝をつき足の力だけを使い背中に負担がいっさいかからないよう垂直に立ち上がる。


 そこまでの一連の動作が異様だったのかウタゲはバルトの行動に見入っていた。


 バルトは体全身が痛み、もうどこが痛いのかよく分からなかった。

 これならこっからどんだけダメージ受けても変わらんな!とバルトは自分でボケを入れ奮い立たせる。


 痛みが全身に走る中言葉を少しずつ探り出しはきだす。


「……俺は……しつこさと…タフ…なのが売りなんでな。絶対に諦めん」


 バルトは正しい、いつもの姿勢さえ保持できないほどフラフラしており、もう上半身は限界に近い。


 バルトは目を瞑り意識を集中させる。


 そう今のバルトは隙だらけだ。

 だがこれはもうこうなっては止まらない。ウタゲもバルトの攻撃の準備を理解したのか楽しそうに言う。


「そうだ、文字通り死ぬ気で放てよ……それ」


 すると、ウタゲが徐々に炎に飲まれていく。

 最初は足先や手先、体の先端部分からゆっくりと炎で見えなくなる。


 バルト達二人の周辺の温度が急激に上昇し、地面まで溶け始める。


 バルトは大きく二度、深呼吸をし、跳ね上がりそうな心臓の鼓動を落ち着ける。

 つーっと額から汗が流れ鼻を経由し唇まで流れてくる。それをバルトはひと舐めし、少しの塩気を舌で感じとり、笑う。


 こんな状況でこの技を試せる嬉しさはバルトの過去史上最高で、それこそ属性を初めて使えるようになった時以上だった。


「準備OKすか先公」

「私はとっくに完了済みだ。それと、先公はやめろ……」


 二人向かい合うーー


「いくぜぇえええ!!太陽属性スキル<天輪豪火/サンインフェルノ>」


 バルトはスキルを発動すると小さな火の玉が上空に出現する。

 そしてそのまま膨張し、徐々に大きくなり、直径約七十メートル程まで一気に膨れ上がる。

 中でガスが爆発し外層にはコロナができ、まるで太陽の小型版のようになる……筈だった。


 突如その火の玉が水の幕に覆われ消し飛ばされた。

 いつのまにか周りで燃えていた火も消火されており、この辺りにだけ雨が降り出す。


 そして、それを行っただろう犯人がウタゲを抱きかかえている。

 ウタゲの頭の上に胸を乗せ、その大きさがより際立っている。そしてそれを重そうに嫌そうにウタゲは暴れていた。


「たくもう……ウタゲちゃんやりすぎだよ〜あの子ボロボロじゃない」


 バルトはスキル発動同時にその場に倒れ、雨で湿った地面を背に空を見上げる。


 至る所にあった傷の出血により、意識が朦朧としながらバルトは複雑な気持ちで目を閉じる。

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