29話 火VS炎

 アキト、ユイ、バルトの三人は目の前の赤髪の少女?ウタゲと対峙していた。


「死ぬ気で戦ったら合格って事でいいのか?」


 アキトは自分で言っててよくわからない事を口にする。


「ああ、その通り。ま、要は本気でこいってことよ」


 ウタゲは上に羽織っていたジャージを脱ぎ、体操服のような姿になる。


「アキト、俺にやらせてくれないか?」


 バルトも着ていた上着を脱ぎ、半袖シャツ一枚になる。


「別にいいけど……」


 正直アキトからしたらウタゲの実力を一度見ているので止めたい所だったが、突然真剣に聞いてくるので断れず、承諾してしまう。


「いいの?あのアホに任せて……」


 ユイはバルトの本当の実力も知らないし、もしウタゲに即やられでもしたら三対一という数的有利のアドバンテージが少なくなってしまう。

 だが、これをバルトに言っても余計火をつけそうなだけだったので、アキトはまずはバルトを信じてみる事にした。


「大丈夫だ、やばくなったら仲裁する。ユイも油断せず戦闘から目をそらさないようにしてほしい」

「わかってる」


 そう言うとユイは弓を地面に縦に突き刺し固定する。空いた手で魔法を発動する。


「自然属性魔法<治癒衣/リジェネレイト>」


 ユイが魔法を発動すると、緑色のオーラがバルトの体の表面に付着し、優しい光が放たれる。

 自然魔法<治癒衣/リジェネレイト>は魔法をかけられた本人の体力三%を三秒おきに徐々に回復していく魔法で、一日続く。

 OOPARTSオンラインでも初期にかなり役に立つ魔法だ。

 これがあると無いとではかなりの差がある。高位の魔法になってくるともっと%が上がる。


 アキトはこの世界の体力(HP)の三%となる部分はどう言う風になるのか気になったが、今は状況が状況なので一つの調べる候補として一旦脳の隙間に保存しておく。


「おー!ユイ、ありがとうな!!」


 ユイはふいっと顔を背ける。

 ユイもいつもバルトに対してひどい事をしているが、しっかりと状況を判断し、対応する。


「ほーう……私と一対一とはいい度胸をしているな!!」


 ウタゲがそう言うとアキトと戦った時同様、自分のアイテムボックスから木刀を取り出す。

 ウタゲの炎が木刀に浸透していき木刀と一体化する。あの木刀は受験生用に貸し出ししているのと同じやつだが、あの炎を纏ってしまえば関係ない。


 木刀からは禍々しいほどの炎が発せられている。

 バルトはそれを見ると、同様にアイテムボックスから貸出用の剣を取り出す。少し長めで細い作りになっている。


 バルトは剣を構え集中する。

 すると、バルトもウタゲ同様剣に火を纏わせる。ウタゲほどではないが、かなり上出来に仕上がっている。


 バルトとウタゲが対峙するだけでこの辺り一帯の温度が上昇するのをアキト達は肌で感じていた。


「お前も火属性系統とは……面白いじゃないか」


 ウタゲは笑みを浮かべながら体勢を低く木刀を構える。木刀を持つ方の腕を後ろにしクラウチングスタートに近い体勢になる。


「うぉららああああ!!!!」


 バルトも己に言い聞かせるように大声で叫びながら先にバルトが動く。 真っ直ぐにウタゲの方へ走り出す。

 剣を腰の位置に構えながらの疾走は綺麗で無駄がなく、少し前のめりになり、ウタゲとの距離が十mほどまで近づいた瞬間ーー


「穿て斬撃!!!」


 バルトは勢いに任せ剣を下段から上段へ斬り上げると斬撃と共に火の斬撃が追随してウタゲへ放たれる。

 地面を焦がし空気すらも焦がす斬撃は一瞬でウタゲの元まで飛んでいく。


 これは、火スキル<火流斬痕/ファイヤカイン>、このスキルは片手剣と火属性の合わせ技で片手剣スキルの斬撃に火属性を織り交ぜたもので、ただ斬撃とまぜるのではなく二段階の攻撃とすることで威力は少しばかり落ちるが防ぐのが難しくなる。


 初見での攻略は難しいスキルだ。


 威力が落ちるのはゲーム上システム的に言っているだけで、アキトはバルトの技を見ていたが、威力が落ちているのか分からないなくらい差がほとんど無かった。


 相当な練習量とバルトの野生じみた才能、この二つがうまく合わさり、属性スキルでもここまで火を吹くようになったのだ。


「いいねぇ〜これぐらいじゃないとやりがいがない!!!」

「なっ!!」


 ウタゲは予め用意していた炎スキル<炎斬/フレイムキラー>を超下段から木刀を振り上げる。巨大な炎の斬撃がバルトの二回分の斬撃と衝突し火柱が空まで上がる。

 辺りに火の粉が飛び散り斬撃同士の衝突で爆発のような衝撃、衝撃音がこの場にいる全員に降りかかる。


 森の木々に火が燃え移り燃え盛り、辺りに木の葉や木が燃えた焦げ臭い匂いが立ちこむ。


「ユイ煙を吸い過ぎないよう注意しろ」

「うん」


 このままだと一酸化中毒や煙の中に含まれる噴霧など、別の意味でやられる。

 火属性に関連づく人はこういった影響を受けない……だから火属性同士の戦いでは火傷によるダメージはない。


 そこら中が燃えていてバルトとウタゲの二人は煙に飲まれてしまい、アキトは認識できなくなってしまった。

 アキトは焦る。

 これでは、バルトが危険な状態になっても介入できず、さらにどこに行ったかも分からなくなってしまう。


 そんな真っ黒な煙の中バルトはウタゲと対峙していた。

 バルトは辺りを見渡すが、煙でアキトとユイの姿が見えなかった。

 すると、ウタゲ先公は頭を掻きながら申し訳なさそうにしている。


「すまん、ちとやりすぎちまった。大丈夫かなあいつら……」

「いや、俺もっす」


 バルトとウタゲの二人はこの森の惨状を見て、一応反省する。


「でも、戦闘中に相手の心配とは余裕ですね先公」


 バルトはわざとわかり易い挑発を思い出したかのようにする。


「お前面白いな」

「よく言われるっすよー」

「確かに、死ぬ気で来いと言って相手の心配なんてはなはだおかしい話だ。私も丸くなってしまったものだ。すまんかった、ここからはお前を殺さない程度で相手をしてやる」


 一瞬で集中力を先程までの倍近く上げ、ウタゲの威圧感が上昇する。

 バルトもこの威圧感には緊張感が全身に走るーー

 だが、バルトもそう思っていた時には勝手に体が動き出しており、ウタゲに向けて目に見えぬ速さで剣を振り抜き二発の斬撃を飛ばす。


 一糸乱れぬ動きでバルトは片手剣スキル<斬撃/ヴァルド>を放つ。


 このスキルは片手剣を使っていたら誰でも使えるようになるスキル、基本中の基本のスキルだ。

 だが、バルトが放ったのは基本とは言い難い威力の斬撃。

 しかも二発放った中に火属性魔法<発火装置/フライングデバイス>を仕込んである。


 火属性魔法<発火装置/フライングデバイス>は約一センチメートルの火の玉である。一定時間(自分で設定できる)が経つと勝手に爆発し、その後、中から火属性魔法<火/ファイヤ>がその玉の周りを燃やす。


 斬撃の中にこの火属性魔法<発火装置/フライングデバイス>を入れておくことで、もしその斬撃をスキルで防ごうとした瞬間、火属性魔法<火/ファイヤ>がその相手を燃やし、尚且つ斬撃に火が浸透し、火の斬撃と化す。


 ウタゲはさっきと同様炎属性スキル<炎斬/フレイムキラー>を放ってくる。

 バルトは心の中でガッツポーズを取り、これで勝ちとだと思った瞬間ーー


 ウタゲの木刀とバルトの片手剣がぶつかる瞬間、火の玉の爆発により火の斬撃と化した一撃は炎属性スキル<炎斬/フレイムキラー>の炎と合わさり、巨大な火炎へと昇華し、とんでもない熱を放つ。


 だが、バルトが放った火属性魔法<火/ファイヤ>の威力の乗った火はウタゲの炎に飲み込まれてしまう。


「温いねぇえええ!!」

「くっそ!硬すぎだろ!!」


 ウタゲも全ての火属性魔法<火/ファイヤ>を飲み込むことは出来ず少し被弾していたが、ほぼ無傷だった。


 ウタゲは強いだろうとは思っていたバルトもこれには少し凹む。

 視界にうつるのは真っ赤な世界で、バルトも実際は感じないが、体が勝手に暑いと勘違いし、脳のたがが外れる。


「うらぁああああああ!!」


 片手剣の突きから入ったバルトの攻撃はウタゲの首元を通り抜ける。

 その勢いのままバルトは片手剣を手放し、バルトの突きを避け斬りかかろうとしてくるウタゲの炎を纏った木刀を素手で受け流す、そのわずかに出来た隙に、バルトは痛みを堪えながら片手剣を手放した手から一緒に握っていた火属性魔法<発火装置/フライングデバイス>をウタゲの顔の横まで移動させ爆発させる。


 玉砕覚悟の自爆行為と誰もが思うだろうが、火属性魔法<発火装置/フライングデバイス>は発動者(バルト)にはダメージが少ない。

 そのままウタゲの顔横で問題なく爆発し、その攻撃を受けたウタゲはバルトを蹴り飛ばし距離を取る。


「いい攻撃じゃねぇか!!」


 ウタゲはこれでも意外に冷静だった。

 耳からは血を流しており、鼓膜が破れ、耳も血だらけで形がよく分からなくなっていた。


「はっ!どうだ!!……痛っ」


 バルトは痛みを感じ、さっきウタゲの受け流した時に受けた傷を見る。

 木刀で斬られたはずなのに血だらけで、傷から肉、骨まで見えておりもう利き手で剣を持つことは不可能な状態になっていた。


 バルトは自分の意志で手を焼き止血する。

 痛ってぇえ!!!!

 鉄板で肉を焼いているような音がなり、生々しく辺りに響く。


 それと、同様の処置をウタゲも行なっており、耳を抑えながらウタゲは木刀を力強く握る。


「おいおいお陰で片耳聞こえねぇじゃんか」

「あの攻撃で逆に鼓膜だけってバケモノすぎだろ!」

「うるせぇ!耳立って少し欠けてるんだよ!」

「だからそれがおかしいんだって!!」


 バルトは勢いよく喋ると傷に響く。

 その痛みで我に帰り、片手剣をほうり捨てる。捨てた片手剣はバルトのアイテムボックスの中へ入っていく。


「まだ何かあるって顔に書いてあるぞ」


 ウタゲは無邪気な子供のように笑う。


「………」


 二人の中に静寂が生まれる、周りの木々が灰になり崩れれる音や、黒煙、火花が散る音だけが辺りを包み込む。


 やってやる。

 その考えた瞬間バルトは動き出していたーー

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