31話 これから

「はなせぇえええええー」


 ウタゲがバタバタと暴れている中、アキトはバルトに駆け寄っていた。


「大丈夫……なわけないな」


 アキトはバルトの姿を見て、心配をしている暇がないことを瞬時に判断する。


「ユイ回復頼む」

「わかってる」


 ユイはアキトが言う前からもう回復属性魔法の発動に取り掛かっていた。


「傷が深くて私程度の回復属性魔法じゃ届かない」


 悔しそうにそう呟く。さっきからずっと回復属性魔法をかけているが外傷は治り、さも完治したように見えるが、体の中の傷までは届いていない。


 アキトが仕方ないのでアイテムボックスからポーションを取り出そうとしたその時ーー


「あらあら、ウタゲちゃんやりすぎよ〜」


 そう言うと、さっきエル達三人組の試験を見ていたはずのシェル試験官がアキト達の方へ近づき、手をかざし回復属性魔法をバルトにかける。

 すると、バルトの体が少し浮き上がり、傷からむき出しになっていた骨が徐々に肉に覆われていき、回復していく。


 ユイはシェル試験官が使った魔法を凝視し掠れるような声を漏らす。


「すごい……」


 その声を聞き取ったのか、シェル試験官はニコッとユイに向かって微笑む。


「これでよしっと……あとは、お願いね。流石に完璧に完治させるのは試験官として出来ないから、これはウタゲちゃんの迷惑料ってことで受け取ってちょうだいね。それじゃ、試験の続き頑張ってね〜」


 そう言うと、シェル試験官はジタバタとしながら叫んでいるウタゲを軽々と抱きかかえお姫様抱っこのスタイルで森の奥へ消えていった。


「あれ?なんで俺ここで寝てるんだ」


 寝ぼけたことを抜かすバルトにユイが超至近距離で矢を放つ。ちょうどバルトの頭の上すれすれを通り過ぎていき後ろにある木に突き刺さる。


「おい!何すんだ急に!!こっちは怪我人だぞ!」

「うるさい」


 ユイはバルトを睨み、バルトもユイを睨みつける。

 アキトはバルトに手を差し出し、倒れていたバルトを起き上がらせる。


「怪我はどのくらい治ってるんだ?」

「えーっとねえ……」


 バルトは自分の体を触りだし、確認する。

 アキトは触らなくても分かるだろと思ったが、喉元まで言葉をだしかけて飲み込む。


「お!治ってる、痛みがないぞ!!」


 よっしゃーとガッツポーズを大胆に決め、またユイに矢を放たれ喧嘩を再開している。


「おーい!!」


 エルの声が聞こえアキトはそちらの方角を見るとエル、バルト、エーフの三人が来ていた。



 六人は合流し今日はこの辺りで休息も兼ねて早めに野営の準備を始めることにした。


 いつも通りのアキトは薪集め担当になり、今回はエルとチームを組んでいる。

 今は薪集めも終わり皆の元へ帰っている途中だ。


「ほんと、シェル試験官は強すぎだよ三人でも敵わなかったんだから」


 さっき行われたお互いの試験のことをアキトとエルは話していた。


「こっちはバルトが一人でやるって言って結局シェル試験官に介入されて勝ち負けつかず終わっちゃったよ。バルト的にはあれ以上やらずにすんで良かったけどな」


「そうか、一人で試験官と……」


 するとエルは小さな声でぼそっと呟く。

 あまりにも小さな声だったのでアキトは何を言ったのか聞き返そうと思った瞬間エルは話題を変える。


「そういえば、アキト達って合格のスクロール貰った?」


 しまったと顔に出ていたのかその焦りを見て、エルは心配そうにアキトを覗き込む。


「試験官に確認した方がいいんじゃない?」

「ああ、そうだなゴール地点で確認するよ。流石にあれで不合格ってことはないだろう……多分……」


 そのままスクロールについて考えていると、ご飯準備中の皆んなのところに到着する。


「お!アキトー聞いてくれよ〜」

「な、なんだ」


 バルトは手にスクロールを持って意気揚々とこちらに近づいてくる。

 アキトは少し怖気ながら答える。


「スクロールに合格の印が入ってたんだよ!いつ入れたんだろうな」


 そう言ってバルトはスクロールを見せてくる。

 確かにバルトが指差す部分を見るとウタゲのサインが入っている。


「ま、合格ならいいんじゃないの……それより早くご飯食べようぜ」

「そうだな、俺も腹減った」


 そう言って踵を返し、バルトはご飯支度しているユイ達の方へ走って行った。


「合格もらえたんだ!よかったね」


 エルがアキトの後ろから薪を落とさないようにバランスを取りながら横まで来る。


「あぁ〜良かったーおっと」


 アキトは、不安要素が消え体の力が抜け薪を落としてしまう。

 それを見てエーフがこちらまで駆け寄ってきて拾うのを手伝ってくれる。エルも薪を一旦置いてからもう一度こちらまで来て手伝ってくれた。


「ありがとう二人とも」


「「どういたしまして」」


 二人の発言がかぶる。それに笑いながら、アキトは皆の元へ歩き出す。

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