20話 レベル上げ2

 アキトとシロネは夕暮れの中その魔物を見上げていた。

 シロネもこんなに大きいとは知らんかったと初めて見るような目で一緒に呆けていた。

 目の前にいるそれは大ハマグリだ。

 丸みを帯びた三角形の貝殻をしている二枚貝で、中には身がぎっしりと詰まっており、ネバっとした液体が垂れている。貝殻には放射状の茶色い模様が広がっており大きいのでより鮮やかに見える。


 シロネがそのハマグリに手を付き呼びかける。


「おーい起きとるかの?」


 大ハマグリは無反応。

 アキトは今だにこれが魔物だとは思えず、ただの食べ物としか見えなかった。


「これはこれはシロネ殿ご無沙汰しております」


 すると、急に貝殻が開き中の身が喋りだす。

 大ハマグリはすごい丁寧な口調でどこか人間味のある喋り方だった。


 OOPARTSオンラインの時のハマグリは釣りしてたら付属で釣れるアイテムで基本料理にしか使われておらず、ここまでのサイズではなかった。


「これからはこの大ハマグリの’マグリ’に特訓を手伝ってもらう。こやつは昔冒険者だった頃に出会って仲良くなっての……そこからの古い付き合いじゃな。よし!それじゃこれまで通りのスケルトンに加え、このマグリを倒すのを目標とする!!」


 シロネは高らかに宣言し、マグリは興奮しているのか大量の砂塵をあたりに撒き散らす。

 突然のことでアキトは目や口に砂が入り悶絶し、涙目になりながら、マグリを見る。

 すると先ほどとは打って変わり殻が閉じ中が見えない状態になっている。


「こやつはアキトじゃ、これからの特訓相手になるやつだからの頼んだぞマグリ」

「アキト殿、拙者は不器用なもんで手加減ができぬ……そこのところよろしく頼む」

「ああ、問題ない」

「ではあと十九日で目標はスケルトン百体+マグリを倒すことじゃ!わしもその辺りで魔法の特訓をしているから何かあったら呼ぶように」


 そう言いスケルトンを召喚してシロネは行ってしまった。

 さぁて始めますかね。

 アキトは眼前にいるスケルトン十五体とその後ろに控えているマグリを見据える。

 これまでと変わらないスケルトンはともかくマグリがどんなことをしてくるのか謎なので、アキトは慎重に様子を伺う。


 するといきなりスケルトン四体が合計十六本の矢を放ち、前衛の大剣持ち三体と片手剣持ち四体が左右に別れ別々に攻撃を仕掛けてくる。後ろにいる四体の杖を持った魔法系のスケルトンが前衛全員に攻撃と防御をあげる魔法を放つ。


 アキトはまず重力属性スキル<重力圧縮波/グラヴィティウェブ>を放ち上空から向かって来るスケルトンを全て撃ち落とす。

 その隙に大剣持ちスケルトン二体が両上段からタイミングをずらしながら大剣を振り下ろしてくる。

 三体目はその間にアキトの後ろに周り下段から大剣を俺に向かって振り上げようとする。


 前よりもスケルトンの連携が上達しており、アキトは驚きながらもなんとか振り下ろされてくる二本の大剣を体を捻りながら後方に飛び回避しそのまま後ろに回ったスケルトンが下段に構えた瞬間、アキトは重力属性スキル<重力拳/グラビティナックル>を使い左拳をスケルトンの頭にめがけ捻りながら回避した反動を使い殴打する。

 一瞬でそのスケルトンの頭は後方へ飛ぶ、間髪入れず片手剣持ちのスケルトン四体が代わりがわりに斬りかかって来る。


 大剣持ちのスケルトンは態勢を立て直すと一旦後方へ退避する。そして四体の内二体の片手剣持ちスケルトンが交互にアキトの顔を狙って斬りつけてくる。


 残り二体は後ろに回り込み退路を断ち、片手剣で応戦する。

 アキトは四体のスケルトンに囲まれており、このままでは回避ができないのでスキルを放とうとした瞬間だった。


「水属性スキル<水刃/スラッシュ>」


 マグリがタイミング良くスキルを放って来る。

 水属性スキル<水刃/スラッシュ>は水を圧縮した水弾で、鋭い切れ味がある技だ……それが約十発も飛来し、スケルトンを巻き込み周囲に降り注ぐ。


「ぐぅっ!」


 アキトは何発か回避しきれず被弾してしまう。

 水属性スキル<水刃/スラッシュ>が被弾する瞬間、アキトは重力属性スキル<重力要塞/グラビティウォール>を使いダメージを軽減する。

 重力属性スキル<重力要塞/グラビティウォール>はダメージを軽減することができ、レベルが上がりスキルレベルが上がると一度に守れる範囲が大きくなる。


 そしてスケルトン四体が水属性スキル<水刃/スラッシュ>により倒されていたのでアキトはすぐに態勢を立て直し、後方にいる八体のスケルトンに対し重力属性範囲魔法<重力場/グラビティフォース>を放つ。

 八体のスケルトンは一斉に膝を折り地面に手をつく、そしてそのまま徐々に地面へ埋まっていく。


 重力属性範囲魔法<重力場/グラビティフォース>はある一定範囲の重力を重くしたり軽くすることができる。

 今回は重くすることでスケルトンは自分の重さに耐えきれず徐々に地面に沈んでいく。


 魔法を放ち、そのまま最後方にいるマグリの元へ一瞬でアキトは到達し重力属性スキル<重力拳/グラビティナックル>を放ちマグリの外皮(貝殻)に渾身のパンチを叩き込む。

 ミシッと音をたてアキトはいけるかと思ったがそう簡単には崩せず、スキルと外皮の衝突の反動で弾き返されてしまう。


「固すぎでしょその貝殻」

「当然だ、この貝殻が軟ければ拙者は今頃誰かしらの胃袋の中となろう」


 残っていた大剣持ちスケルトンが背後から襲いかかって来るがそれは把握済みで、斬りかかる瞬間腕を上にあげたその時にスケルトン二体の腕の関節に向かって重力属性スキル<重力圧縮波/グラビティウェブ>を放ち二点に向かって放たれた重力圧縮波は関節で収束しスケルトンの腕を木っ端微塵に粉砕する。


 そして落ちた二本の大剣を手にし、重力属性範囲魔法<重力場/グラビティフォース>を発動し、範囲を大剣だけにする。

 アキトは振り返り笑いを抑えながら、マグリの頭上まで飛び、二本の大剣をマグリに向かって全力で投げる。


 マグリはアキトが大剣で斬りかかって来るつもりでいたが、アキトが大剣を振るのでは無く投げたので反応が少し遅れ、二本の大剣が外皮にぶつかる瞬間、重力属性範囲魔法<重力場/グラビティフォース>で大剣二本の重さを五t近くまで重くする。

 口の中で塩抜きをあまりしなかった貝を食べて鳴る不快な音が耳に響いて来る。


 刺さった大剣二本を中心としてそこから放射状に亀裂が入り粉々に砕けてしまう。


 まさか……一日で終わってしまうとは……

 アキトは少し罪悪感に苛まれながら、マグリを見る。

 上の殻を砕かれ中身が丸見えのマグリは、驚いたようにアキトの方を見る。


「まさか一日で拙者の殻を破るとはさすがシロネ殿が連れてきただけはある」


 アキトはマグリとの戦闘は終わるつもりでシロネが来るのを待つ。

 さっきまで辺りが砂埃まみれだったのに気づいたら収まっており静かな雰囲気になっていた。


「シロネ、終わったぞ〜次のスケルトンの準備してくれえ」


 アキトはシロネに伝えると座った態勢からこちらを振り向き”ん”と頷きスケルトンを二十体召喚する。

 スケルトンの量に少しビビるアキトだったが、今勢いが良いのでいける気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る