19話 後悔
アキトは十日前までいたパイオニアのベッドの上で目を覚ます。
あれから何日くらい寝ていたのだろうか……アキトは恐る恐る動かせる首を回し近くに置いてあるカレンダーを見る。
だが、何日も経っていたと思っていたアキトは不意をつかれたように一瞬止まる。
そう、日付は一日も動いていない。
窓の外は暗く、経って五、六時間と言ったところだ。
体調も、所々痛む程度でさっきよりは大分良くなっていた。
アキトを運び終えた所で力尽きたのか同じベットの上でシロネも寝ている。
アキトはシロネを起こさないようそっと起き上がり一階の食堂に向かう。
夜なので他の人が起きないよう最小限の音でこらえながら木製の階段をゆっくりと降りていく。
今日は一階にお客さんはおらず、キッチンでホルドさんが一人で明日の仕込みをしているとこだ。
アキトはカウンターテーブルに腰をかけ、ホルドさんに話しかける。
「こんばんは、ホルドさん」
「あらアキトちゃん、もう起きて大丈夫なの?」
ホルドは心配そうな表情でアキトを心配する。
「はい大……丈……夫です。さっきより大分良くなりました」
アキトは軽く体を触りつつ、痛みがないか確認しながら答える。
「それはよかったわ〜はい、お夜食ーーお腹空いているでしょ?」
「あ、ありがとうございます。いただきます」
アキトは、手を合わせ食べ始める。
「アキトちゃんがあんな状態で運ばれてきたときはびっくりしたわ〜、シロネちゃんの慌てた姿も初めて見たし今日は凄い日ね」
アキトが夜食を食べているとホルドさんは仕込みをしながら会話を始める。
「本当に今日は災難でした。あんなの二度とごめんですね……」
「シロネちゃんには感謝しなさいよ〜アキトちゃんを運んできて必死になって回復に専念してたんだから」
元凶はシロネなんだが……
言いたい事は山ほどあったが、結果良い経験として残ったのでアキトもシロネを攻めきれないでいた。
「次の特訓場所も探さないといけないので大変ですよ」
「あんまり無理も禁物よアキトちゃん」
ホルドさんは仕込みが終わり厨房から出てくる。
「そろそろ私も寝ようかしらね〜おやすみアキトちゃん」
「はい、分かりました。おやすみなさい」
そういってホルドは自室に入っていった。
アキトは一人お茶を飲みながら静まり返った食堂で思いふけっていた。
ウタゲ・ミルーー
何か害をなす敵という存在まではいかないがあの性格には難があるなとアキトは考える。
ウタゲが使う炎属性はアキトの予想を超えており、あそこまでやられるとは思ってもいなかった。
何かしら属性の効果なのか、レベル差なのかはまだ確かではないが、もし体調が万全の状態でやっていたらどうなっていたのか……想像するだけでもアキトは楽しかった。
**
次の日の早朝、アキトはいつものルーティンを行なっていた。ただ、いつもと少し違うところがある。
努力レベルをさらに高めるためアキトは自分に重力属性で負荷をかけながらランニング、筋トレなどのトレーニングから普段の生活まで一日中行使していた。
慣れたら加重量を増やし、負荷を強くしていく。
このトレーニングで基礎能力に努力レベルが乗るので加重を外した際、今よりもさらに機敏に動けるようになり力も付き、スキルや魔法の威力も下手したら上昇する可能性がある。
今だにアキトは完全にはこの努力レベルの事を分かってはいないが、この十日程でレベル以上にこの努力レベルの恩恵はでかいと考えている。
アキトはトレーニングを終えると、シロネと合流し朝ごはんを食べるため一階の食堂にいた。
少したった後シロネが眠たそうに階段を降りてくる。
「早いの〜おはようなのじゃ」
小動物みたいに目をこすりながらふらふらと席につく。
「おはようシロネ」
アキト達は朝ごはんを食べた後、これからのことを話し合っていた。
「さて、特訓場所についてじゃがわしに案がある」
何か案を考えて来たのか、すっかり目覚めたシロネは元気よく言う。
「わしが使った影魔法<影転送/シャドウワープ>で昔わしが狩場にしていた所に連れていってやる。あそこなら邪魔は入らん、敵もスケルトンじゃなく骨のある魔物供じゃ!!」
ビシッと指をさしドヤ顔でシロネはアキトの方をみる。
「お、おう……」
特に対する案が無いアキトは素直に従うだけだった。
**
それから一時間もしない内にシロネの昔狩場にしていたという場所についた。
そこは辺りが全て砂地で太陽が燦々と降り注ぎ乾いた風に時々起こる砂嵐、高い気温と前の特訓場所とは全く別物だった。
ーー砂漠か
照りつく暑さに身を焦がしながら、アキトは元の世界にいた時の事を思い出す。
「どうじゃここなら邪魔されんじゃろ」
確かに邪魔する奴はいないが暑さという新たな敵は無視できなかった。
環境耐性系の属性の魔法やスキルは無くはないがアキトは一切取って来なかった。基本アイテムの暴力でごり押していたからだ。
「暑さでぶっ倒れたら、わしの水魔法でオアシス作ってやるのじゃ」
その言葉に不安しか残らないアキトだったが、やるしか無いので自分にそう言い聞かせる。
「敵が見当たらないんだがどこにいるんだ?」
アキトはてっきりスケルトンの大群か何かを使うのだと思っていたが違った。
「心配せんでもよいわしが使役した魔物がおるでな今から呼ぶからそこで待つのじゃ」
使役した魔物と聞いてアキトは、どんなものが出てくるかワクワクすると同時にドラゴンみたいなとんでもない魔物が出て来るんじゃ無いかと言う不安も募らせる。
「いでよ!!使役スキル<召喚/サモン> 」
シロネスキルを発動させた瞬間ーー
地面が急に揺れ出し辺りの砂地や砂山がぼろぼろと崩れだす。
アキトは慌てて地面に手を付き砂とこの揺れに体を持っていかれないよう態勢を低くする。
すると砂地に亀裂が走り中からトラック四台分くらいの大きさの魔物が姿を現す。
耳を切り裂くような音が鳴りがやまない。
それに加え、耳鳴りや地鳴りが起こり、砂埃が周りを舞っていてなかなか魔物の全貌が見きれない。
「すまんやりすぎた」
シロネはその巨大な魔物を出す場所を間違えたと素直に認め、アキトに謝るが、時は戻すことが出来ない。
結局アキト達は地鳴りと砂埃が治まる夕方まで待たされるのだった。
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