3話 win the lottery


 あれから、璃屠達は毎日のようにOOPARTSオンラインにログインしていた。

 学校が終わればすぐに帰宅し、夜遅くまでやり続ける。

 勉強をする時も、課題などをダウンロードしデータとしてCRに入れOOPARTSオンラインの中でこなしているほどだ。


 さらに、CRには設定時刻をすぎると勝手に睡眠に切り替わるシステムが付いていて、夜更かしはできないようになっている。

 夜勤務で朝、昼型の人は運営にその証拠を送り設定を変えてもらわなければならない。


 そのくらいの徹底ぶりである。


 他にも健康管理系のシステムはいくつか付いているので安心だし、面白い機能が多い。


 そんなこんなで、一ヶ月がったある日ーー


 四時間目のチャイムが鳴り授業が終わる、お昼ごはんを食べようと旧校舎の使われていない教室へ璃屠は向かう。


 ここは、璃屠達がいつも昼ごはんを食べる場所、誰もいないので気楽にご飯を食べられるのでけんと璃屠はここでほぼ毎日昼の時間を過ごしていた。


 いつもはけんの方が先に来ていることがほとんどなのだが、今日は璃屠の方が早く到着していた。


 璃屠はカーテンを開け、けんを待ちつつ本を読んで待つ。

 流石に先にご飯を食べるのは気がひけるので本を読んで時間を潰す。



 十五分以上が経つ……

 だが、けんは一向に来る気配がない、トイレに行ったとしても遅すぎるし用事があるなら連絡のひとつくらいくれるだろう。いったどうしたんだと璃屠は徐々に心配になってくる。


 すると、扉が開いたーー

 そこには、間の抜けたような顔をしたけんが立っていた。


「けん、大丈夫か?」


 けんは飴を舐めず間違ってそのまま飲み込んでしまったように驚き、こちらを見据える。


「話したいことがあるんだけどいいかな」

「お、おう。なんだい」


 お互い深呼吸をして息を整える。


 「実はね……」







「宝くじ1等に当選してたんだ」






 静寂が辺りを包む。聞こえるのは鳥のさえずり、そして外から聞こえる同じ学生の声。

 もう何分たったのかわからないそれぐらいの驚き。人は本当に驚くと声も出ない、よくテレビとかでもやっていたが本当にそうなるとは。


 ここで璃屠は静寂を破るーー


「嘘だよな」


 璃屠は祈る。けんは嘘をつくタイプじゃない、新手のドッキリかと思ったがこの顔を見る限り嘘じゃない。


「嘘じゃないよ。今日の三時間目の授業の途中携帯にメールが入ったんだよ宝くじから」

「最初は迷惑メールだと思ったよ。けどリンクから宝くじのサイトへ飛んでログインして確認してみたけど本当だったんだ」


 そう言ってけんは画面を見せてくる。


「この間、一枚だけ買った宝くじが当たってたんだよ!」

「一等っていくらだったけ?!」


 普段そんな大声を発しない2人だが狭い旧校舎の1室で子供のようにはしゃぐ。

 

「な、な、七、七、七億だよ〜!!!!!!」

「ま、ま、まじか……七億かぁ!!」


 二人は変なテンションでやりとりを数十分大声でやったあと、やっと落ち着きを取り戻していた。

 今二人は弁当を黙々と食べている。そりゃ人間どんなハプニングがあろうと腹は減る。


 そして、チャイムがなるーー

 興奮冷めやらずにそのまま五時間目の授業へ向かった。


**


 帰宅後、璃屠はベットの上でさっきのことを考えていた。別に璃屠が当たったわけではないから本人よりは早く興奮から冷め、当然のことだ。


 それに今の璃屠の心境は嫉妬心の方が強い、そりゃこんな身内に宝くじ当たったんだ妬みたくもなる。

 今日ゲームにログインしたら絶対いつも通りの感じで話せなくなるからなぁ、絶対顔に出てしまう。

 こんなことを思う自分に腹をたてつつ、はぁとため息をつき璃屠はぼーっとしていた。


「最悪だ」


 いつも通りを出すのが案外難しいことを今になって実感する。

 璃屠は携帯を取り出し、一件の宝くじメールが目に入る。

 宝くじの当選結果は当たらなかった場合や、三百円当選、五千円当選と内容によってメールの文章が違う。


「そういえば、俺もけんと同じ場所で宝くじ買ってたっけ」


 ふとそのことを思い出す。だがけんも買っている場所だ、同じ場所で二つ出るなんてまずないだろう。まぁ、どんな結果でももう驚くことはない、どうせ明日が憂鬱なのは変わらないのだから。


 そう思いながら、メールを開き半ば諦めて文章を上から目で追う。

 文章の真ん中の辺りで読むのを止める。


「おい、嘘だろ……」


 そこには、当選おめでとうございますという文字があった最初は三百円かなんかがたまたま当たったのかと思ったが違った。その額がとんでもなかったのだ。


「十億」


 璃屠はそれ以上画面を見れず、携帯を落としてしまった。

 こんなことあるのかとふと思うが、それ以上にあの同じ宝くじ売り場で一等が二人出るという快挙の方が頭をよぎる。

 璃屠は落とした携帯を拾いもう一度確認のためにメールを見返す。

 

 明日には振り込まれるむねが書いてあり間違いはなかった。

 そして、今の璃屠の顔はきもいくらいににやけいるに違いないと思ったが今はそんなこと璃屠にしたらどうでもよかった。


 さて……このお金どうすべき?

 璃屠はそのまま思考しながらベッドに横たわるーー


 **


 結局昨日は寝れなかった、あの後布団の上でゴロゴロしながらずっとにやけていた。


 そしたらもう朝だーー


 そして、このお金をどうするかだが、ぶっちゃけ一人じゃどうにもならない。だか

から母さんと一葉に相談することに決めた。


 この話を二人に切り出した途端、一葉は泡を吹いて倒れその日は学校を休み、母さんは全力疾走で会社に出かけて行った。

 

 そして、璃屠はその日の夜やっと落ち着きを取り戻した二人と夜ご飯の時に再び話し合った。


「それで、どうすればいいと思う?」

「お、お兄ちゃんの好きに使えばいいと思うよ」

「一葉に同意だな」


 二人揃って完全にこの一点張りだ。けんにこのことは伝えたが、結局けんも使い道に困ってて考えてる最中で参考にはならなかった。


 よしもういいや。璃屠は内心どうでも良くなり一つ提案する。


「2人に7億を渡すよ。これまでの感謝としてね」

「3億は俺が使ってもいいかな?」


 これだけ聞いたらとんでもない会話である。


「そんなにいいのお兄ちゃん」

「生活費に困らなくなるのはありがたいが……」


 二人とも戸惑いの表情を隠せていない。

 一葉の場合はまだこの金額を持つには早いから母さんに預けることにはなるがと璃屠は思うが、実際自分もこの歳でこの額は異常である。


 そして、その後三人で決めたことが三つある。

1、このことは決して他の人には言わないこと(けんにはもう言ったけどあっちも当たってるからあんま関係ない)

2、生活水準はこのままでいく(お金があるからといってだらけるのは良くないという母の意見だ)

3、璃屠と一葉そして母さん三人ともちゃんと働くこと

 以上の三つを守ることを誓いその日、過去最大とんでもない夜ご飯になった。


**


 次の日、いつもの昼ごはんの時間帯。

 璃屠たちはいつもの場所、旧校舎で昼ごはんを食べていた時だった。

 けんが突然とんでもないことを言い出した。


「宝くじの使い道さ、親に七億の内の四億渡したんだ」


 ここまでは、璃屠と同じ使い方をしていたので安心したのだが、次が問題だった。


「残りの三億OOPARTSオンラインの課金に使おうと思ってるんだ」


 なんの気もないように笑いながらそう言ってくるから困ると璃屠は苦笑いするが、いつものことなのでもう慣れた。


「お、おう」


 そんな璃屠の気を察したのかけんは続けて言葉を足す。


「そ、そりゃ一気に使うわけじゃないよ〜、ゲームに課金してもそんなに使いきれないからね」


 やっぱりそう変わんなかった。結局課金することは変わらないのだから。

 けんはやると決めたらテコでも動かないからもう璃屠はこれ以上何も言えない。


**


 その日の学校終わり、璃屠達はOOPARTSオンラインに課金していた。

 最初の課金額は恐らく五万から十万くらいになると概算する。

 それに、二人共バイトも辞めずにやってるから普段の生活費用は問題なし。


 OOPARTSオンラインは様々な課金要素があるので恐らくこれからもっと課金額は増えていくだろうと璃屠は考える。


 基本OOPARTSオンラインは結社<クラン>に入って多人数でチームを作って連携したりすることでクエストやミッションをクリアしていく。

 だが、璃屠たちは基本デュオで結社に入らずクエストをこなしていた。


 個人戦闘力ならランキングトップ十入りをしていたぐらいだ。


 課金を初めて、何ヶ月かたったある日ーー

 OOPARTSオンラインにログインしていつものようにクエストやその他もろもろの事を二人でこなしていると、一通のゲーム内メールが届く。


 その内容は、結社を一緒に立ち上げたいというものだった。

 これまでは、何通か入ってくれないかというお誘いは何回か来たが、新しく設立するという内容は初めてだった。


 正直最初、璃屠とけんはあんまり乗り気じゃなかったが、送ってきた相手はソロでやるのがきついので助けて欲しいというものだった。


 なぜ、二人だけにこだわるかというと結社に入ると誰がどのくらい課金しているかわかるシステムになっている。


 璃屠らはとんでもない課金をしていくのであんまり人に見られたくなかった。

 それに、そいつは回復職<ヒーラー>らしく、社会人で課金も璃屠らほどではないがしている。二人的にもヒーラーはありがたいし一人くらいなら大丈夫だろうという事で三人で話合い決まった。


 璃屠らは高校の帰宅途中、結社の名前を考えていた。


 あれから、結社についていろいろ話し合いまずは結社の名前から決める事にした。

 相手は璃屠らに一任するって言っていたが、流石に二人だけで決めるのじゃあ気がひけるので三人でいくつか候補をだしてその中から多数決で決めることになった。


「どんなのにしようか?」

「ふふふ、僕はもう決まっているのだよ」


 璃屠はけんの自信ぶりにあまり期待せず待ち構える。


「そう! ずばり【笹団子団】だ」


 けんのセンスは世界をみても数少ないだろうと璃屠は見るが、どうやら少しの態度の変化でけんにバレてしまう。


「今絶対ないだろって思ったでしょ」


 けんがズバリ言い当ててくるので内心意表をつかれ璃屠は一瞬ドキッとするがなんとか立て直す。

 しかしながら人の意見を否定しておいて、璃屠は名前を一切思いついていなかった。

 

 璃屠は昔から何か決めろと言われると弱かった、いわゆる優柔不断というやつだ。

 ある程度案を出すのだが、これはないと璃屠は自分の中で切り捨ててしまい意見をあまり表に出したことがない。


「なんと言われようと僕は笹団子団でいくからね!」


 まずけんが案を出した時点で引くわけがないので、優柔不断が加速したのは実はけんのせいも少しだけあったりする。

 内心璃屠はため息をつきつつ、いつもの帰路を幼馴染と歩く。


「了解」

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