4話 笹団子


 結局、あの後三人で集まり名前が笹団子団に決定した。

 璃屠の中では分かっていたことなので今更驚かない。


 流石に何もしないのは気が引けたので一応璃屠が出した候補は、【嶺上開花】というものだ。

 名前って難しいと改めて璃屠は考え直す。


「ジグさん本当にこれで良いですか?」


 ジグさんというのはプレイヤーネームで今回新たに仲間になった人だ。

 かなり優しい人で、アバターは特にいじってないらしく現実の外見と同じだ。

 年齢は璃屠達よりも上だが、下手したら璃屠より若く見えるほど好青年だ。

 髪型は短髪で、メガネをかけている。細身で長身、けんとは違ったイケメンだとも言える。


「はい、いいと思いますよ。可愛いじゃないですか」


 ジグはにこやかに答える。

 ジグもけんに通ずるところがあり、この名前を聞いた時表情に全く出すことなく、けんの意見に賛成した。


「分かりました、では結社設立しますね」


 璃屠は結社設立時にいるメンバーを登録していき、結社名、結社アイコン(シンボルマーク)、どの国の勢力につくかなどいろいろやり最後に設立のボタンをタップする。


 そして、璃屠達三人に結社アイコンが追加され移動してみる。

 結社を設立した事によってやることがまた増える。

 結社のレベル上げたり、施設充実させたり、三人それぞれの部屋作ったりと毎日やる仕事は増えるが、三人にとっては楽しみが増えたことと同等なので、むしろ嬉しいくらいだった。


 ガーデニングや、畜産、農業など様々なことが結社では出来るので人によってゲームの幅がかなり広がる。

 運営に申し込めばないものを時より追加してもくれるほどだ。

 そして、ゲームの要素が増えると比例して増えるのが課金要素である。


 これもまた璃屠達にとっては嬉しいことだ。


 さらに、ジグもかなり課金する人で、薬剤師として働いていて他に趣味もなくお金を使うのがこのゲームだけという。

 なんだかんだで、結社のランキングも三人のまま二十位弱になった。


 個人戦闘力も璃屠達三人はトップ二十位以内につけている。


 OOPARTSにはいろんなランキングがある、例えば装備力とか魅力度とか貢献度やら様々な本当に様々なランキングがある。

 ランキングを見るだけでも面白いのだ。


***


 結社設立から一年程経った、高校二年の冬。

 

 課金の総額は二人で合計約五千万に登っていた。もうここまで来ると最初は引け目があったが何も思わなくなっていた。

 

 ジグとも二人はいい感じに打ち解け、かなり仲良くなった。


 璃屠達は冬のとてつもなく寒い旧校舎に、古いストーブを持ってきて暖を取っている。

 それに、扉の建てつけが悪く隙間風が常に体の体温を奪っていく状態の中昼ごはんを食べている。


「今日も寒いねぇ」


 何気ないいつものように会話に入る璃屠だったがけんは一点を見つめながらぼーっとしていた。


「どうした?大丈夫か?」


 けんは璃屠に急に呼びかけられたか慌てて何か隠すように顔を背ける。

 嘘を見抜くのはうまいが嘘をつくのは下手だ。

 

「また、宝くじが当たったなんて言うんじゃないだろうなぁ」


 璃屠はおちょくるように、調子を覗くように言ってみた。


「いやいや、あんなこともうあるわけないよ」


 けんはいつも通りの雰囲気で答える。

 ここまで一緒の時間を過ごしていると、相手の何気ない仕草や会話の口調、トーンでいつもと違う感じがわかるようになる。


「何かあった?」


 少しいつもよりトーンを低くし、冗談ではない会話だと言う事を認識させる。

 けんはこの一言で理解し、目を一旦閉じ少し間をあけて目を開けるのと同時に喋り始める。


「いや、実はね……大した事じゃないんだけどさ……ジグさんに3人でオフ会しないかって提案されたんだよね」


 オフ会か……確かに今のオンラインゲームなどでは昔と違いメジャーになった……それにCRが出てからはよりオフ会をする人が増えたのも事実だ。


 今ではほとんどの人が抵抗なくやるだろう。だがしかし、璃屠達はコミュ障の塊みたいなところがあるので正直言うと避けたかった。


 だが、けんがいれば何とかなりそうだったので、璃屠は天秤にかける。

 璃屠がいろいろと思案しているとけんが苦笑いしながら。


「一応日付は僕たちに合わせてくれるって……どうする?」


 けんは提案してくる。


「質問を質問で返して悪いが、けんはどっちなんだ?」

「うーん」


 一瞬考えるそぶりをするが多分答えは決まっていたのだろう、多分こう返される事も予想していたのかもしれない。


「僕は行こうかと思ってる」

「けんが行くならいくよ」


 璃屠も決まってたようなもので、よくある誰かがいくなら行くパターンだ。一人じゃ絶対にいけない人の典型ーー


「OK、日付いつにする?」


 日付か、無難なとこだと冬休みだろうと璃屠は思う。

 もうすぐテストだし、テスト終わったら冬休みなので、ちょうどいいからだ。


「じゃあ十二月二十三日で」


 十二月二十三日は冬休み入って三日目だ、ちょうど良い具合だったので璃屠は提案する。


「了解、ジグさんに伝えておく」


 いつの間にこんな連絡を取る間柄になったんだろうか……

 璃屠は、けんのコミュニケーション能力に感服しながら、窓に吹雪く雪を見ながら、時間を潰す。


**


 あれからテストが終わり冬休みに入ったーー


 一日かけ璃屠は、冬休みに出た宿題を8割方終わらせOOPARTSオンラインに没頭していた。

 冬休みもOOPARTSのオンラインのイベントが詰まっているので、璃屠はこう言う時はすぐに動ける。


十二月二十二日ーー


 璃屠はOOPARTSにログインしたが2人こなかった。

 二人同時に来ないのは初めてだった。

 大抵どちらか片方は一日の内のどっかでログインしているのだが、今日はそのログが一切なかった。


 ゲーム内だけではなくメールやその他連絡できる手段を取ったが返事が一切なかった。

 璃屠はけんの家に行こうかとも思ったが流石にそこまでやっては気持ち悪いのでやめた。


「明日のこと相談し合ってるのかなぁ」


 デイリークエストをこなした後、璃屠は一人、結社の自分の部屋の中で二人が帰って来るのを待っていた。



 朝早くに璃屠は目が覚めるーー

 OOPARTSオンラインの中で寝てしまい、目覚めたのがCRの中だった。


「今日どうすんだろ」


 璃屠はメッセージ欄を見ると、一件の連絡が入っていた。

 恐らくけんだろうと璃屠はなぜかふと思う……


 メッセージを開くとそこには、「ごめん」の三文字ーー


 どういうことだろうと疑問にはなったが、今日聞いてみれば良い話だ。

 璃屠はまたけんに今日どうするかを伝えるメッセージを送った。


 起きたのが、朝早かったので二度寝しようとした瞬間ーー

 璃屠の部屋のドアがノックされた。


「入っていいか?」


 璃屠の母の声だ……


「いいよ」


 そう言うと、そのまま璃屠の母は入ってきて璃屠の部屋にある椅子に腰掛ける。


「で、何の用?」


 なぜ部屋にきたのか問うと、さっきの冗談めかした様子ではなくかなり真剣な顔になる。


「そうだなぁ、なんと言えばいいのか」

「なんなのさ」


 何だろうこの感じ、出し渋らされてると凄いストレスを璃屠は感じる。

 知りたいけど、教えてくれない気になるって感じだ。


「心して聞きなさい」


 璃屠の母は目をつぶりそして数泊後目を開けこちらを見据える。

 言葉を整理し、何をどう言うのか固めたのだろう。


「けんくんがね、亡くなった。しかも殺人だ」


 母は苦虫を歯で噛んで潰したような表情でそう璃屠へ告げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る