1話 ゲームは買うまでが一番楽しい
「いらっしゃいませ〜」
あれから、璃屠は高校に進学してすぐ家の近くのスーパーでアルバイトを直ぐに始めた。
時給もまあまあよく、仕事内容も楽そうで、何より璃屠の中で一番の即決理由は近いからだった。
なぜ、アルバイトをこんなに早くから始めたかというと、璃屠には欲しいゲームがあったからだ。
そのゲームの値段がかなり高く、約十万円するゲーム機で高校生にはなかなか手が出しづらい。
「すみませんお豆腐どこにあるかわかりますか?」
「あ、豆腐ですね。こちらになります〜」
そして、今日ついに璃屠はゲーム機を買う資金が集まったのだ。
璃屠は十万貯めるのにかなり苦労したが、欲しいものや目標があると何かと頑張れるたちなので苦労はしたが、楽しいと感じていた。それに、基本あまり私生活でお金を使わない方なのでその分他の人よりも貯まりやすかったのもある。
璃屠はこれまでの道のりを軽く辿りながら仕事をしていると、営業時間の終わりを告げる音楽が店中になり始める。
それを聞いた璃屠はすぐに着替えを済ませ、よく行くゲームショップまで軽快に自転車を走らせる。
二十四時間営業のゲームショップで、近所では珍しいものが多く置いてあるお店で、不気味がられているが、璃屠にとっては人があまり居ないお店だったので重宝していた。
*
スーパーから自転車を十五分程走らせるとゲームショップが見えて来る。
到着し、直ぐさま自転車から降り、鍵もかけずゲームショップの入り口を抜けレジに向かう。
なぜいきなりレジに向かうか、それは今回買うゲーム機は大きいのでその場では持って帰れない、一旦注文票に必要事項を記入し金額を払ってから後日家に直接届けてもらうシステムになっいるからだ。
「すいませーん」
「いらっしゃいませ」
一人の店員さんが裏から出てきた。
寡黙そうな色白のロン毛の男の人で、璃屠も最初見たときは怖いイメージがあったが今ではただの店員だ。
「あの今日発売の」
「あ、はいCRですね」
店員はまるで璃屠が言うことを読んでいたかのように用紙とペンを手際よく出した。
細く、ボソボソと聞こえにくい声だが、店内は誰もいないので苦にはならなかった。
「こちらの用紙にご記入ください」
「あ、ありがとうございます」
璃屠は用紙に必要事項を記入していくーー
CR <Capsule Reading>の略で、2100年初頭に日本のメーカーが満を持して発売したwhole body型ゲーム機だ。今回はその第二弾だ。
昔流行った、酸素カプセルみたいな形状をしていて、人一人入れるくらいの大きさがある。なので、その場で持ち帰ることができない。
whole body型……全身をスキャンしてそのままアバターを作る仕様で、第一弾では、五感を外装や内装に組み込んだものだったが、第二弾では五感+体の組織まで組み込まれたものになっている。
第一弾が出た当初はゲームとしては百万を超えるというとんでもない値段だったので、持っている人が少なかったが、徐々に今の値段あたりまで落ち着いたので最近では結構主流なものになっている。
その中でもCRはカプセル型で見た目もかっこよく、値段もそこそこなの、初めて買うなら無難だ。
「書き終わりました」
璃屠はペンを置き、用紙を店員さんに渡す。
店員さんは用紙を一通り眺めたら、用紙をバインダーに挟む。
「お値段が税込十万二千七百円になります」
璃屠は現金で十万三千円を払う。
「お釣り三百円になります」
璃屠は基本必要なお金しか財布に入れないタイプなので、今の支払いで財布の中は百円玉三枚だけとなる。
「こちら控えになりますので無くさずお持ちください」
「どうも」
店を出る。
「ありがとうございました〜」
店を出ると、夢中になっていて気づかなかったが、もう辺りは真っ暗で街灯も数本しか光ってなくそれを見て璃屠はなんか嫌な感じを覚えた。
この辺りは市街地から少し外れたところで田畑があるような場所だから街灯も少ないのは分かっているが、あまり夜に来ることが無いので慣れておらず恐怖感が先に出て来てしまう。
璃屠は自転車を走らせる。
数分すると宝くじ売り場が璃屠の視界に入る。こんな遅くに珍しいと璃屠は思うが、異様に明るい店がまえでつい自転車を横に止めてしまう。
そして、璃屠はふと、さっきもらったお釣りを思い出す。
「そういえばさっきのお釣り三百円だったなぁ。ちょうどいいから一枚買ってみるか……すみませーん」
少しすると裏から四十代半ばの女性の店員が出てくる。
「ごめんなさいねぇ。この時間帯人が滅多に来ないから」
「いえ、一枚買いたいんですけど」
「どちらの宝くじにします?」
「うーん」
宝くじは買うのが初めてでどれがいいのかさっぱりわからない。
まあ一枚しか買わないからなんでもいいやと思い璃屠は適当に注文する。
「じゃあ、一等の当選金額が高いやつでお願いします」
「わかりました、三百円になります」
お金を払うと、店員さんは窓口から1枚宝くじを璃屠手渡す。
「当選日は来月になりますので、ネットもしくは宝くじ売り場でお確かめください」
「分かりました」
昔は宝くじはこういった売り場で買うのが主流だったらしいが、今の宝くじはほとんどネットでやるのが普通になっていて、こうやって店を出しているところはもうほとんど無い。
璃屠は自転車を再び漕ぎ出し帰途に着く。
**
「いらっしゃいませ〜」
あれから三日たった、ゲーム機が届くのは二週間後なので気長に待っているところである。
今日のバイトは昼までで、これからCRのカセットをけんと一緒に買いに行く予定だ。けんも璃屠と同じくらいの日に買っているので届くのは二週間くらいかかる。
けんも璃屠と同じくらいゲームが好きで、好きなゲームだとずっとやってるからよく親に怒られているというのをけんから聞いている。
璃屠の母親とけんの母親は幼馴染だったらしく、家を買った時たまたま隣同士だった。
そのときは、どんな偶然だよと璃屠は思ったが、中学に入った頃にはこんなこともあるだろうと思えるようになっていた。
「そろそろ上がりなよ〜」
店長が、声をかけてくる。
「はーい。この作業終わったら上がります」
ちなみに璃屠の仕事はスーパーの中の惣菜売り場で、今は揚げ物をパックに詰めてシールを張っている。
作業を終わらせ、タイムカードをスキャンし待ち合わせの場所まで自転車を走らす。
*
「お、時間ぴったしだねぇ」
「すまんちょっと遅れた」
意外と作業を終えるのに時間を取られ待ち合わせ時間ギリギリになってしまった。
「最初は昼ごはんからにする?」
「そうだな、お腹空いてるし」
璃屠とけんの二人は近くのファミレスで食事を済ませ、璃屠がCRを買ったあのゲームショップまで自転車を走らせる。
お店に入りそのゲームが売られているところに足を運ぶ。
有名企業が出したゲームや人気作品は表に堂々と構えているが、璃屠達が欲しているゲームはその裏側に置いてある。
「これだね」
「OOPARTSオンライン」
CDMMORPG<Cell Dive Massively Multiplayer Online Role-Playing Game>
OOPARTS<オーパーツ>
CRを開発した会社が出したゲームで、CR専用オンラインゲームである。
CDMMORPGの中でも、このOOPARTSが凄いのが自由度の高さだ。
ほとんど現実世界で暮らしているのと相違ないくらい充実していて、現実世界に戻りたく無いといって二週間ゲームに潜り続けて脱水症状で死亡した例もあるくらいだ。
そして、もう一つーー
それは、再現度である。
CRを使った五感で食べ物や飲み物の味や匂いが分かり、第2弾で追加された組織(細胞)。
これはその人の頭から足の指の先までの筋肉量、体重、身長、視力、体内の水分量、心肺機能、肺活量、声帯からの声質など様々な観点からアバターを形成するので、現実世界での自分をゲーム世界で動かすのと同じである。
初期ステータスでは例えば現実で短距離を走るのが速い人は、ゲームでも移動速度が早くなったり、逆に長距離が得意だと走るためのスタミナが多かったりと、初期ステータスに人それぞれの値が上乗せされる。
なので、発売当初はみんなジムやランニングに励む人が急増し、たびたびニュースにもなった。
CRを五感だけでアバターを作りたいという人も、初期ステータスにプラス要素がなくなるが対応はしている。
外見はいじることが可能になっているが、大多数の人が自分の顔や身長でアバターを作っていた。そちらの方がメリットが多いためだ。
種族は人間しか無いが、職業はとんでもない種類がある。
別にモンスターを倒し強くなるという道もあるが、ある人は商人になったり、またある人は宿屋や酒場などを経営したり、ガーデニングや、散歩するだけだったりと多種多様である。
一応ストーリー的には世界各地にあるオーパーツアイテムを探し出すというコンセプトだ。
「OOPARTSは二点で税込一万三千七百二十円です」
璃屠は事前にけんにゲーム一本の値段分は渡していたので、払ってもらう。
「一万四千二十円ですね、お釣りの三百円になります」
*
来た道を自転車で漕いでいると。
以前行った宝くじ売り場が見えてくる、そして璃屠は思う。そういえばさっきもお釣りは三百円だったと……
だが、今回は璃屠のお金では無いので特に何も言わず漕いでいた、するとけんは宝くじ売り場の前で自転車を止める。
「さっきのお釣りで宝くじ買ってもいいかな?」
「全然いいよ」
こんな偶然あるのかと璃屠は思いはしたが、小学校の時の方が衝撃が大きすぎてこんな程度では特に何も感じなくなっていた。
けんが買って来たのは璃屠の買ったやつではなく、二番目に一等の当選金額が高いものだった。
「次、どこに行こうか」
「うーん、ゲーム買うのが目的だったからなあー。この後のこと全く考えてなかった」
璃屠は腕時計を見るとまだ午後三時だった……帰るには、まだ早い。
「カラオケでも行くか?」
「お!いいねぇ。久しぶりに行こう」
**
歌いすぎたーー
時刻は午後七時、あの後夜ご飯も食べて以外といい時間になっており、また一葉にどやされるので音を立てないよう、まるで泥棒かのように侵入する。
璃屠は玄関の扉を開けて家に入りリビングに向かうと一人の女性が座っていた。
「おかえりぃー」
「帰ってたんだ。母さん」
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