第6話 オーナーのセフレと仲良くなった!

同居生活が始まってもう2週間になる。二人ともようやく同居生活にも慣れて、落ち着いてきた。


今日は花金だけど私はすぐに帰ってきた。ようやくまた1週間が終わった。自分の部屋でゆっくりしたい。これが今の心境だ。


篠原さんは、今日はデートだと言っていたので、帰るのが遅いかもしれない。テレビのニュースを見ながら夕食を食べた。夕食はいつも一人で食べているけど、気を遣わなくて楽だ。


気ままな夕食を終えると、カラオケの練習をしてみたくなった。カラオケの使い方は教えてもらっていた。どこのカラオケもほとんど同じだから操作はすぐに分かる。


まず、『レモン』を入れる。一応音程を外すことなく歌えた。もっと情感を込めて歌わなければと、繰り返し、繰り返し、曲の主人公になったつもりで歌う。


カラオケが自宅にあるとこれができる。最高! ストレス解消にうってつけだ。気分爽快!


飽きてきたところで、もう1曲『君を許せたら』を入れる。この曲もすごく好きだ。どちらも失恋の心情を歌ったものだと思うけど、男女どちらが歌っても良い曲だ。


こちらも繰り返し、繰り返し歌う。今度、山内さんに来てもらって、聞いてもらおう。


練習に疲れたころ、携帯に電話が入る。篠原さんからだ。


「白石さんか? 俺だ。これから女性を連れて行く。俺の部屋に泊まる。だから君は部屋からできるだけ出ないでくれないか。それから君のことは従妹ということにしてあるからよろしく」


「ここまでどれくらいかかりますか?」


「20~30分くらいで着くと思う」


「分かりました。鉢合わせしないように気を付けます」


篠原さんが女性を連れてくると言う。どんな女性か見てみたいけど、プライバシーの尊重で部屋から出ないようにしよう。冷蔵庫から飲み物を出して部屋に運んでおく。


部屋で自分の小型テレビを見ていると、玄関ドアの閉まる音がした。いつもなら「おかえり」と挨拶をするところだけど、今日は黙って耳を澄ませている。自分の部屋に入ったようだった。


明日は土曜日だからゆっくり寝ていればいい。その間に彼女は帰って行くだろう。


◆ ◆ ◆

外が薄明るくなっていて目が覚めた。6時を過ぎたところだった。喉が渇いた。枕元に置いたペットボトルは空になっていた。冷蔵庫に取りに行こう。ドアを少し開けて外を伺うが誰もいない。


冷蔵庫からペットボトルを出して部屋に戻ろうとキッチンを出ると、下着姿の女性と鉢合わせした。


「ごめんなさい」


見てはいけないものを見てしまったように目を伏せた。


「ごめんなさい。ああ、驚いた。ちょっと待って」


そう言うと彼女は部屋に戻っていった。すぐにスカートを履いてブラウスを着てきた。


「従妹さん? はじめまして、私は真一さんの友人で飯塚いいずか恵理えりといいます」


「私は従妹の白石結衣です」


「少しお話ししませんか? 目が覚めて喉が渇いて飲み物を探しに出てきたら、ばったり会って、これも何かのご縁です」


「冷たい飲み物なら、まだありますからどうぞ」


私は冷蔵庫からペットボトルを持ってきて、ソファーのガラスの座卓の上に置いた。恵理さんはソファーへ来て座って、おいしそうに一気に半分ほど飲んだ。本当に喉が渇いていたみたいだ。


「真一はここへ越して2か月といっていたけど、ずっと住んでいるの?」


「いえ、2週間前からです。ここに住まわせてもらう代わりに、掃除と洗濯、朝食の用意をしてあげることになっています」


「住み込みのお手伝いさんみたいなもの?」


「いえ、昼間は働いています」


「そうなんだ」


「恵理さんは篠原さんの恋人ですか?」


「恋人? 彼はそうは思っていないと思うから、友達以上恋人未満かな?」


「恋人でないのに泊まっていくんですか?」


「私って寂しがり屋なのよ。誰かと一緒にいると安心できるみたい」


「結婚を考えていないのですか?」


「今は考えていないわ、まだ、そんな歳でもないから、今は自由でいたいと思っている」


「そんな生き方もあるんですね」


「あなたはどうなの?」


「元彼に振られてから立ち上がれない状況でリハビリ中です」


「リハビリ中?」


そう言って恵理さんは私をジッと見た。


「おいおい、二人共どうしたんだ? 何の話をしているんだ? 俺の悪口でも言っているのか?」


「目が覚めたら喉が渇いたので、冷蔵庫に何かないかと出てきたら、従妹さんに会ったからご挨拶をしてお互いに自己紹介をしていたところです」


「それで、気が済んだのか?」


「いい人と同居しているのね、掃除と洗濯をしてもらっているなんて、ずぼらなあなたにはピッタリね。結衣さんから聞きました」


「話したのか?」


「はい、聞かれたのでお話しました」


「そうか、恵理はそれで気が済んだのか?」


「ええ」


恵理さんは私を見て安心したと思う。仮に従妹が嘘だったとしても、私が篠原さんの趣味ではないと一目で分かったと思う。恵理さんは私のことが気になったというのは単なる興味からではなく、やはり篠原さんを相当に意識しているからだと思う。


それから3人で私が作った朝食を食べて、恵理さんは帰っていった。私は、土曜日の今日は、これから全部屋の掃除と洗濯を始めなければならない。篠原さんにはソファーに坐って終わるのを待ってくれるように頼んだ。


お昼少し前にようやく掃除と洗濯が終わった。ソファーに坐って一休みする。


「ご苦労さん、ありがとう、疲れただろう」


「いえ、お家賃分と思えば楽なものです。あとシーツとバスタオルなどが乾燥中なので、1時間もすればお仕舞いです」


「手が早いね、俺がやっていた時には丸1日かかっていたけど」


「3~4時間もあれば十分です」


「そうか、プロならそれくらいか? 白石さんが来る前は掃除の業者に頼んでいた。でも費用がバカにならなくて、それで掃除してくれる同居人を探したんだ」


「これくらいで家賃が格安なんてラッキーです」


「コーヒーを入れてあげよう」


「ありがとうございます。本当にコーヒーがお好きなんですね」


「ああ」


篠原さんがコーヒーをソファーまで運んでくれた。


「恵理さんとかいう人、素敵な人ですね? いずれは結婚するんですか?」


「いや、考えていない。彼女も今は考えていないと思うけどね」


「それじゃあ、なぜ泊っていくんですか?」


「まあ、いわゆるセフレかな」


「でも私のことが気になったみたいでいろいろと聞いていました。それはあなたのことが気になっているからです」


「そうかな、彼女もフリーでいたいと思っているはずだ」


「自分の将来を考えないで女子が泊って行くことはないと思いますが?」


「そうかな」


「私には考えられません」


「そんなに堅苦しく考えることはないと思うけど、今が楽しければいいんじゃないのかな、先のことは分からないしね」


「先のことは分からなくても将来展望は大切だと思いますけど」


「君はどうなんだ?」


「今は付き合っている人がいませんから将来展望もありません」


「そうなんだ」


「午後から出かけますので、これで失礼します」


私はコーヒーを飲み終えるとカップを片付けて自分の部屋に戻った。外出の用意をして、すぐに出かけた。外出するときもできるだけ地味にして目立たないようにしている。

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