第11話 ボス戦3

俺は犬の件を済ませた後、洞窟のだいぶ奥に潜っていった。

正直のところ、こんなに暗いのにモンスターが湧かないことが不思議だ。

俺達はてくてくと先に進む。


「おいオーラス、これボスまでに後どれくらいの道のりがあるんだ」

すると、オーラスは「う〜ん」と考えて、

「一時間くらいかかるかな?」

えっ、

「おいオーラス、冗談だろ、もう結構奥まで進んだぞ。それなのに後一時間って、

ははっ、もう俺足くたくただぞ」

俺は手に持っていた腕時計を光らせて時間を見た。

今は午後五時くらいだった。

入ったのが確か午前の五時くらいだった。

つまり俺達は半日もこの洞窟の中で探索しているってことじゃねえか。

俺、元々運動不足なんだから、半日ずっと歩くのは流石にきつすぎるぞ。

するとオーラスはある道具を取り出した。

何だろう?

もしかして、足を使わずに移動できる道具とか、ワープ出来る道具?

もし、そんな素晴らしい道具を出してくれたら歩かずにボスのところまで行けるんだけどなー。

しかしそんなわけがなかった。

取り出したのは疲労回復薬だった。

「はい海也、これ飲んで残り一時間頑張りな。実はこれ、疲労回復薬の中でも一番安いやつだから、本当に疲れが取れるのかは分からないけど、まぁ疲労回復薬なんだし、多少の疲れは取れると思うぞ」

俺は、オーラスに疲労回復薬を渡されると、すぐに蓋を開けて、飲み干した。

すると徐々に疲労が回復していった。

そして、俺の疲労体力は全回復した。

「おいオーラス、これ、一番安いやつとか言ってたけど、結構疲れ取れるぞ」

すると、オーラスも疲労回復薬を取り出して、ごくごくと飲み干した。

「海也、これやっぱ全然回復しねぇわ。」

嘘だろ。

でも本当だ。

俺の疲労体力は満タンなのに、オーラスの疲労体力はもう三分の一くらいしか残っていなかった。

「でも何で俺は全回復したのに、オーラスはそこまでなんだろう?」

「でもやっぱりあれなんじゃない?レベルが低い程、回復する量は変わるからかな?」

いや多分そうだと思う。


俺達はそれから、一時間歩き続けた。

そしてついにたどり着いた。

ボスの部屋。

そこには迫力のある大きな扉があり、とても強そうなボスの部屋って感じがした。

「ここがボスのいるところか。なんだか緊張するな」

「うん」

俺の心臓はいつもよりも速く脈打っていた。

俺は横を向いた。

するとオーラスはぶつぶつと何かを唱えていた。

「神様神様仏様、どうか死にませんように。お願いします」

と繰り返していた。

オーラスも緊張しているのかな?

でもそうだよな、ボスだもんな。

そんな簡単に倒せるほど甘い敵じゃないもんな。


心の準備が出来た。

「オーラス、行くぞ!」

「ああ、いつでも」

俺達はそう言って、二人で片扉ずつ同時に開けた。

するとそこには……

ボスはいなかった。


「あれ、ボスはどこだ?」

「ほんとだな、ボスはどこに行ったのだろう。ボスはある程度時間が経つと復活するし、万が一倒したばっかの状態でやって来ても、扉は開かないはずだし…」

俺は部屋の中を見たがボスはいなかった。

と、思っていた。

俺達は「お邪魔します」と小声で言いながらボスの部屋に入った。

するとバタンっと扉が急に閉まった。

「「あっ!!」」

と俺達は後ろを向くと、そこにはもうボスが俺までの距離が残り数メートルというところまで迫っていた。

「「はっ!!」」

俺達は咄嗟とっさの判断でそれぞれ左右に分かれて逃げた。

気づかなかった。

俺の背後にでっかいボスがいることに気がつかなかった。

何故気がつかなかった。

それ程ボスの気配が薄かったのか。

それとも俺が間抜けだったのか。

分からない。

ボス。

あれだけでっかい体しておいて、明らかにあのスライムとは段違いの速さだ。

多分攻撃と防御も段違いなのだろう。

俺とオーラスははぁはぁと息をすでに切らしていた。

やばい、

あいつ、絶対に倒せる気がしない、



◆◆◆



ギルドにて


「おっ」


「おーーーーー!!!!!!」

ギルド中に大きな歓声が上がった。

剣の勇者も、

カレンも、

拍手をしていた。


何故人殺しの勇者になったのに喜んでいるのだろう。

人殺しの勇者は人しか殺さないのに。

一般の人はそう思うだろう。

しかし、今ギルドにいる人は違う。

この人達は今とてつもなく喜んでいるのだ。

仲間が増えた。

頼りがいのある奴がやって来た。

これで無敵だ。

そんな気持ちが伝わってくる喜びだった。


「では、宮内 洛代らくよさん、あなたはこれから『人殺しの勇者』として活動します」


そう、この喜んでいる集団は、


悪の組織、「アララパス悪の支配団」

略称「アラ悪」だったのだ。

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